論考

Thesis

日韓交流中断について考える

ここ数ヶ月、日韓関係は芳しくない方向へ進んできている。教科書問題や小泉首相の靖国神社参拝などによる韓国側の反発によることが大きい。
 先日、政経塾を韓国青年団と称する将来のリーダー達が訪問し意見交換をする機会に恵まれた。非常に短い時間ではあったが様々な話をすることができ有意義なものであった。やはり、その場でも教科書問題や靖国参拝の件についての議論がなされた。
 ところで、歴史教科書問題については、歴史教科書の検定合格を受けて韓国側は再修正を日本政府に対して要求し、これに対して日本政府は再修正要求を突っぱねてきているという現状だ。これに対抗する意味で、日本・韓国間の各種交流が一方的に韓国側から中断されるようになってきた。今月は愛媛で地域研究をしていたのであるが、ここ愛媛でも交流中断のニュースが地元紙をにぎわせていた。
 確かに、韓国政府をはじめ国民感情では教科書問題や靖国神社参拝に対して日本に対する怒りや戸惑いがあることは十分理解できるしそのようなことがあっても不思議ではない。今までの韓国における偏向的な、そして、一方的な歴史教育による洗脳状態から脱することができないからである。しかし、その怒りや戸惑いを子供達を対象とした各種交流にまで及ぼすことは如何なものかと思われる。『未来を語るためにも歴史を十分に認識しなければならない』と韓国ではよく耳にする言葉だ。この言葉も理解できるが、まだ幼い子供達には現実の交流による相互理解が第一ではないであろうか。
 少し話がずれるが、この韓国側の異常なまでの反応について考えてみたい。それは、韓国政治からの視点である。韓国の大統領制は任期が5年で、1期しか大統領職を行うことができない。したがって、任期後半になると大統領の人気・信頼が薄れ国民皆が聞く耳を持たなくなる。前任者の金泳三大統領時も任期後半、国民からの反発、政治失政への怒りが高まり、それを避けるために竹島問題を巻き起こし国民の関心を日本へ振り向け政治を切り抜けようとした経緯がある。
 韓国民主党も昨年来、経済不況や政治腐敗によって国民から厳しい批判が相次いでいる。そこで、出てきたのが教科書問題である。ソウルでは『日本政府は再修正しろ』といった垂れ幕が街角に掲げられており、国民の関心を日本へ向けようとしているのが伺える。このように、この教科書問題も竹島問題のように利用されている面もあることを理解して欲しい。
 また、8月2日の日経新聞によると韓国では与野党議員が『親日』を巡り非難合戦がなされているという、それによると、ハンナラ党の党首の親が日帝時代に検察関連の仕事をしていたとか、金大中大統領の日本訪問時における親日的な言動等の逸話など親日派というレッテルを張ることによって我こそが愛国者であるという議論、本当につまらないそして、レベルの低い争いがなされているのだ。これも、次期大統領選挙を睨んで日本が利用されてしまった一例といえるのではないであろうか。まさに、竹島問題の二の前である。
 話を元に戻すが、私は今行なわれている、日韓交流中断には断固反対である。将来を考えれば考えるほど交流を継続して行なっていかなければならない。先日、私の恩師で中学教師の方からメールを頂いた。この夏休みにサッカー交流が予定されていたが急遽中断になり戸惑っているといったものであった。楽しみにしていた子供達はこれを期に歴史教科書がなぜ問題になっているのかを考えることが出来るという意味で非常に有益であるとも言える。
 ただ、この日韓交流の多くは、小・中・高校生を対象としたものであるということを忘れてはならない。彼らは将来の日本を背負って立つ貴重な貴重な人材である。多くの交流を通じてお互いの国を知りそれが、誤解や偏見を減少させる唯一の方法であると考え研修を行なってきている私にとってこの交流中断は許しがたいものである。韓国でもそして日本でも両国に対する誤解や偏見を見受けることができることを考えればなお更である。
 この誤解や偏見が政治問題に限らずあらゆる所で問題を引き起こしているのだ。だから、まずは身近なところからできることをコツコツ行うことが必要である。
 本当に必要なのは国民レベルの交流なのだ。両国関係が悪くなっているからといって交流を中断していてはいけないということだ。逆にこういう時期だからこそなお更進めていかなければならないものなのだ。
 前述の愛媛新聞によると、韓国の機会の学塾と四国政経塾との交流はこの時期だからこそ進めるべきとの理由で例年通りなされたと言う。この記事を見て非常によいことをしていると感じた。また、この機会の学塾、四国政経塾ともに政経塾とは深い関係があり私としても非常に嬉しい限りであった。もっともっと、長い目で見てこの交流の輪を今だからこそ広げていって欲しいものである。
 なんといっても我々が将来を決めるのではなく、主人公は小・中・高校生といった子供達なのであるから…。そのためにも、各種交流に関しては歴史教科書とは切り離して考えていくべきである。それが我々にできる未来への責務・義務ではないであろうか。韓国側もそのことを理解して交流事業を進めていって欲しいものだ。ここで交流を中断して失われるものは非常に大きいはずだ。
 

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五味吉夫の論考

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Yoshio Gomi

五味吉夫

第20期

五味 吉夫

ごみ・よしお

三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部

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