論考

Thesis

北朝鮮を知りすぎた医者を通じて

最近、本屋に行くとやたら北朝鮮関係の本を良く見かける。昨年6月の歴史的な南北会談によって朝鮮半島に大きな変化があったかのような内容から相変わらず北朝鮮は変わっていないというものまで様々だ。
 私は、この8月ピースボート主催の北朝鮮クルーズに参加することになっている。韓国人はなお更のこと、日本人でさえも北朝鮮に入国することは難しい。しかし、今回は絶好のチャンスに恵まれ入国が許可されることになっている。ただ、私の場合、ソウルで生活しているため実際入国が許可されるかは北朝鮮まで行かないと分からないという。
 最近、私はドイツ人医師で北朝鮮ではじめて西洋人として友好メダルを頂いたノルベルト・フォラツェン氏の著書『北朝鮮を知りすぎた医師』草思社 2001年を読んだ。
 彼は、北朝鮮人が火傷を負って来院された際、自ら進んで自分の皮膚を提供することで、親善の印としてメダルが授与されたのである。
 ピョンヤンにいる外国人でさえも、地方への移動は制限されている中、友好メダルのおかげで比較的自由にある意味、ありのままの北朝鮮を見ることが出来たというのである。
 外国からの政府代表やNGO関係者はピョンヤンにある外交官地区という特別な地域にいわば隔離され、現実の世界を知ることが出来ないようになっているという。また、ピョンヤンで生活している市民はいわば、おとぎの国に住む人であって、地方とはものすごい格差であるという。
 そんな彼が北朝鮮の病院を通じて見た北朝鮮の現実を書いているこの本はある意味、衝撃であった。至るところで繰り広げられるエリートや高官による横暴振り、過度の栄養失調でやせこけた国民の悲痛さが文面から伝わってくる。
 8月のクルーズでは北朝鮮の現実を見ることで市民の声を聞きたいと考えていた私であったが、ピョンヤンだけでの交流では彼の言う本当の北朝鮮は見えないのかもしれない。逆に、私が行くことは、金銭面で金正日体制に対して寄付をし、現状維持の方向に向かわせる力になることになってしまうのではないか。
 朝鮮外国語学校の生徒との交流も予定されているが、彼らは彼の言う北朝鮮人ではないのではないか。彼らは、両親が特別な階級であるがためにここで生活しているのであり、彼ら自身も他の事情は知らないに違いない。
 ところで、彼は著書のなかで、韓国における太陽政策を批判した。北朝鮮の現状を知る彼に対する韓国マスコミのインタビューでは、北朝鮮への批判を禁じ彼が行なった皮膚移植の話だけしか許されなかったという。この言論統制は北朝鮮でもなかったと彼は言う。金大統領が、太陽政策という自分の政策に対して批判を言うことを制限しているということは大きな問題である。そこまでして、彼が守るべきものとは何であろうか。同じ民族の生命よりもエリート層との約束なのか。金泳三前大統領ぐらいしかこの政策に対して強烈に批判しているものは少ない。韓国マスコミを見る限り北朝鮮批判・太陽政策批判を大々的に行なっているものはないに等しい。
 この8月現在ソウルに滞在中のフォラツェン氏に会いたいと考えている。彼が見た北朝鮮のありのままの姿を聞くことが私だけでなく今の世界には求められているのではないかと考えている。情報操作で、北との友好ムードを高める韓国、それを見て大きな変化があったと喜ぶ諸外国。本当にそうなのか。もう一度真剣に見つめる必要があるのではないか。その手助けになるのが彼の実体験である。韓国マスコミを通じてその経験を話すことは難しいに違いない。なんと行っても制約があるからだ。
 私は真の北朝鮮を見たい。真の国民の声を聞きたいと考えている。それこそ日本がどう北朝鮮とやっていくのか。北東アジアの関係を見る上でも大きな意味を持っているからだ。ただ、彼らの世界は我々からすれば想像を絶するものであるに違いない。
 しかし、それが北朝鮮の現実であるのだ。何も変わっていない北朝鮮の……。
 2ヶ月後の月例では北朝鮮で思ったこと感じたことを書きたいと考えている。ピョンヤンの若者がアジアをどう考え、日本をどう捉えているかについて特に注目してみてきたい。 

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五味吉夫の論考

Thesis

Yoshio Gomi

五味吉夫

第20期

五味 吉夫

ごみ・よしお

三得利(上海)投資有限公司 飲料事業部 事業企画部

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日本の対アジア政策を考える

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