論考

Thesis

風力発電の盲点

従来のエネルギー源は有限であるとの観点から、近年自然エネルギーやリサイクルの技術に関心が集まっていることはよく知られているところである。しかしながら、動機は良心的であってもこれらには問題点が多いのは否めない。そこで、そのうちリサイクルを中心とする循環型社会については、6月発刊される塾報でその問題点と諸対策を述べることとし、今回は自然エネルギー、中でも全てといっていい人が手放しで歓迎する風力発電の問題点について述べてみようと思う。

 風力発電において決定的に欠けている議論、それは人間が風力によってエネルギーを摂取することからくる生態系への影響を全く考慮していないと、いう点にある。こういうと、「えっ?」と首をかしげる人もいるであろう。おそらくこれは、風を利用するというやさしいイメージによる一種の安心感、及び、「風」というのは大気の移動という単なる自然現象であるから、これを利用するというだけであれば安全かつ無限大のエネルギーが得られるはずだという、人間の傲慢さからくるものと思われる。自然環境にやさしくという動機は大変結構だけれども、いざそれを実行するとなると、そのプロセスの中では従来の「自然征服」というパラダイムから抜けきれない・・・・・昨今の風力発電の議論を聞いていると痛切にそのことを感じる。

 いうまでもなく風力発電というのは、熱力学的にいえば「風というエネルギーを電気のエネルギーに変換する一種のエネルギー変換操作」ということができる。ということは、工学的にみてもそこには「エネルギー保存の法則」が適用されることとなるから、風から電気を取り出した分だけどうしても風は弱くなるということになる。例えば、仮に100KWの風から50KWの電力を摂取したとすると、その分残りの風は50KWのエネルギーとなり、当然風力は弱まることとなる。さらにいえば、風から電力を取り出すときには「変換効率」を考えなければならないから、仮にこれが30%だとすると50KW中15KW分の電力が抽出されることとなり、残り25KWは発電所外へ逃げていく。変換効率を上げるには限度があるから、よって風の強い場所へ発電所を設置せざるを得ない。これが風力発電の基本的な原理である。

 しからば、風とはそもそも何のために吹いているのであろうか。風がなければ海から水は蒸発しない。よって雨は降らず、海や川、陸地の湿気は取れず、様々な木々・草花の間を吹き抜ける風はなくなり、種は飛ばない。風はおよそ自然に生きる動物、植物、鉱物の全てが利用している。すなわち、生態系は現在ある風の量と力が前提で成り立っているのであり、風量が減れば生態系は変化すると考えなければならない。特に、従来から風の強い地域ほど、そこの自然は風の恩恵を被っていると考えなければならないのである。 この点から風力発電の従来の論評を見ると、いかに「人間本位」で書かれているかがわかる。風は自分たち人間のためにだけ吹いていると錯覚しているのである。このような考え方はそろそろ改め、風量は弱くとも自然の生態系こそを第一に考えた風力発電の設置こそ考えるべき課題であろう。従って、風力発電は、従来のエネルギー源を補足するものとして位置付けるのが妥当なのである。

以上

(参考;武田邦彦著「リサイクル汚染列島」)

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奥健一郎の論考

Thesis

Kenichiro Oku

奥健一郎

第20期

奥 健一郎

おく・けんいちろう

一般社団法人ハートリボン協会理事

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