論考

Thesis

「政治家になろう!!」~台湾編~

昨年後半から温めて来た企画であるが、同期の森岡君と共同で、本の出版を企画している。来年度、現在立上げ準備中のシンクネットNAP(Nippon in Asia-Pacific)での最初の出版物にしたいと考えている。

 内容は、アジア太平洋諸国を中心に、その国の最も若い国会議員等、20~30代の若い政治家(及び政治関係者・政治家志望者)に共通のアンケートをもとにインタビューを行い、その内容をまとめたものに、若干の各国事情等の解説を加えたものにする予定だ。政治家を志す人間たちのバックグラウンドを知ることにより、その国の政治体制を始めとした社会体制(の開放度等)を理解することができるであろうし、また、若き政治関係者の問題意識を知ることから、次世代のアジア太平洋が進む方向性も見えてくるハズだ。
 そして何より本企画を通じて知合う人々との間で、次世代のアジア太平洋を語り会い、そして同時に作り上げていくネットワークが出来れば素晴らしいと考えている。それは、NAPが目指すところでもある。
 今回のこの場を利用して、少し時間が経ってしまったが、昨年11月に行った台湾での本企画に関するインタビューをまとめてみる。

 1988年、蒋経国死去後総統の座を継いだ李登輝により、急激に民主化が進められた台湾。昨年2000年に行われた第2回の直接総統選挙で、野党民進党の陳水扁政権が誕生したこともあり、台湾の政治シーンは、非常に新鮮で躍動感に溢れているように感じた。色々と今回の企画に協力してくれた方々の関係上、国民党関係の方にはインタビューが出来なかったが、国会議員始め、党職員や官僚、政府のスタッフと幅広い層の若き政治関係者達に取材することが出来た。以下、まず、本企画の白地のアンケート用紙を記した上で、取材に応じていただいた方々のアンケートへの回答、並びにインタビューの問答を個別にまとめていく。

「政治家になろう!」アンケート項目

・ 政治家を志したもしくは志す理由・きっかけについて
① あなたが政治家になろうと思ったのはいつですか?
② そのきっかけ・理由は何でしたか?

・ バックグラウンド(家庭環境云々)
③ あなたのご両親の職業は何ですか。
④ 家族・親族に政治家はいますか。いるとすればその人の政治家のキャリアとあなたとの関係について教えて下さい。
⑤ あなたの家族・親族にあなたの政治活動に関して何らかのサポートをする人はいますか?

・ あなたのキャリアについて
⑥ 学歴・専攻、社会人としてのキャリアを教えて下さい。

・ 今後のキャリア・人生計画、夢
⑦ 今後のキャリア計画・人生計画・夢を教えて下さい。

・ 政治家としての問題意識・政策
⑧ 政治家として、あなたがもっとも問題だと思う問題を一つあげて下さい。
⑨ あなたが最も実現したい政策を一つ挙げてください。

・ その他
⑩あなたが最も尊敬する人物を一人挙げてください。
⑪その他あなたが世界の若者に伝えたいことなどあればお書き下さい。

以上

曽昭明氏 (総統秘書官・30代半ば)

 政治家になることを考えはじめたのは、大学時代、学生運動に参加していたとき。
 当時戒厳令下(87年に解除)のため、台湾の高学歴者の間では、反政府的学生運動に参加することは普通のことだったという。80年代の台湾は、日本の60年代に近い状況であったのだろう。しかし、学生運動が失敗に終わったことで、彼は反省し、「やはり立派な政治家にならなければ、社会は動かせない」と考えたことが、転機になったという。大学卒業後、民進党の職員となり、前党主席の林義雄氏に仕える。長年の台湾独立・民主化の志士に触発され、政治家になることを堅く決意。
 祖父・父と2代に渡る軍人・外省人一家に生まれ、政治とは無縁の家系だが、台湾の政治家は、家族ではなく、個人的なネットワークによる後援会による支援が中心になってきている、とのことで、現在の立場は、そんなネットワーク作りにも便利だとのこと。今の秘書官の仕事をしっかりしていれば、自然にネットワークが出来てくるだろう、とのこと。

 大学卒業後、英国ランカスター大学で、政治経済学で博士号を取得。民進党の政策研究員を経て、現在総統秘書官を務める。以前の戒厳令時代では、官僚出身の国民党政治家が多かったが、民進党では、党職員、政治家秘書から政治家になるケースが増えているという。

 今後のキャリアとしては、東アジア経済圏構築に向けての問題点の把握と台湾の戦略の研究をしたいとのこと。米国と日本で研究活動を行いたいそうだ。
 政治に携わる者として、最も重要な問題として、「グローバル時代への移行期における、現実的な政治のあり方の探求」こそが重要だと指摘する。その上で、英国留学の影響が大きいのだろう、自らが政治家になったとき、最も実現したい政策として、「経済構造改革並びに新アジア統一市場の形成に応じた、台湾流「The Third Way」の確立を主張する。

謝文生氏 (民主進歩党 中央党部 社会発展部 副主任・30代半ば)

 日本では、「政治家」というと、国会並びに地方議会議員を指すが、台湾では、官僚や政党職員、議員等立場を問わず、政治家と呼ぶとのこと。大陸中国の伝統の影響や、実質的に議会がなく、国民党の一党独裁が続いていた経緯もあるのであろう、日本ほど、政治=議会、というイメージは薄いらしい。そんなわけで、「若い政治家に会いたい」というこちらの希望をコーディネーターに伝えていたにも関わらず、紹介されるのが、議員以外の人間ばかりなので少々戸惑ったが、これが台湾の考え方なのだとわかって納得。議員内閣制と総統制という政治体制の違いが大きいとは思うが、議員ばかりを政治家と考える日本の方がおかしいのかもしれないとも思う。

 謝文生氏へのインタビューのため、民進党本部を訪問。小さく、雑然としたオフィスに少々驚いた。しかし、中で働くスタッフの中心は、20代~30代が中心の若い人ばかりで、彼らの活気ある働きぶりと雑然としてオフィスを眺めていると、まるで若いベンチャー企業のようで、台湾政治のエネルギーを感じた。
 スタッフの多くは、米英への留学経験者が多く、米英名門大学の修士・博士号保持者がゴロゴロしている。民進党の職員の身分は、一般関係と呼ばれる、事務職中心のものと、政治業務と呼ばれる政治関係職があり、政治職の人間は、2年に一度、党の主席から指名を受けたものだけがなれるとのことで、ステータスは高いらしい。謝氏は、政治職。台湾滞在中何度かお世話になった民進党国際事務部の通訳担当の方々はお会いした二人ともが若い20代の事務職の女性だった。一人は、米国ジョージタウン大学の博士号、もう一人は、神戸大学卒で、二人とも日本語も一応使いこなす上、英語はペラペラだった。
 謝氏も、先の曽氏同様、大学時代は、学生運動に参画。大学卒業後、NGOで5年間、政治家の秘書を6年間務めた後、2年前に民進党の職員となった。現在は、台湾の政経塾とも言う、慈林政治家研修班で研究活動も行う。

 98年に、仏教徒になったのことが人生の契機になっているという。父を早くに亡くし、スーパーマケットのオーナーであった母の手1つで育てられたと言う。まわりに政治関係者のいない環境で育ち、政治家を目指すことに周囲の親戚も反対していたが、今は認めてくれる様になったという。近い将来、日本で研究活動を行い、専門知識と国際感覚を身に付けた上で、将来は政務官(日本の大臣)を目指すという。立法院(日本の国会)に行くことは考えていないらしい。
 政治家にとって最も重要な問題として、正義と公正を挙げる。政策としては、①全ての人が繁栄の恩恵に浴し、幸福な生活を送ることができる社会の実現、特に全ての能力ある人々に公平にチャンスを与えることが重要だと指摘する。また、②その基盤として、台湾が過去400年間、オランダ、スペイン、日本、中国と、常にどこかの国の占領下で、国際情勢に影響されやすい極めて不安定な状況が続いてきたことを指摘し、台湾が、「アジアのスイス」になることを望む、と言う。平和的な非軍事地帯と言う理想を語る。

陳其邁(民主進歩党 立法委員・医師 35歳)

 若手の政治家ということで、格好の人物にインタビューできた。現在、立法委員(日本の国会議員)になって、5年目、2期目を迎えるという。初当選は、30歳で、当時は最も若い議員だったという。2回目は、同じ選挙区で自分よりも若い候補者が出たが、全国一の獲得投票で当選。父が民進党の有力議員と言う恵まれた家庭に生まれ、学生時代から、学校の勉強と病院での勤務、父親の事務所での秘書と、三つのわらじをはいて活動。学生時代には、環境問題を中心に学生運動にかなりアグレッシブに関わっていたと言う。マックスウェーバーの「政治は一種の志の仕事」と言う言葉を引用し、政治への純粋な思いを熱心に語る。立法委員になってからは、環境問題以外にも様々な問題に注力している。特に外交問題が問題意識の中心になりつつある。

 前回の選挙時には、民進党の幹事長も務めたとのこと。民進党は若い人間にもチャンスを与えてくれる、とのことで、日本の民主党よりも更にフレッシュな印象な強い。将来のキャリアに関しては、大臣や総統を目指すことは特に考えてはいないとのこと。現在でも、若手に十分なチャンスを与えてくれる環境に満足しており、今はとにかく自分の仕事に一生懸命取り組むだけとのこと。

 自分の政治家としての問題意識の核心としては、やはり、台湾のアイデンティティの問題を挙げる。台湾の置かれる特殊な環境を強調し、台湾にとって一番重要な問題は、1つの国として台湾が国際社会において認知されることが重要だと説く。しかし、民進党の中では、穏健派で、中国との積極的な関係改善を目指しているとのこと。民進党は、今まで与党経験がなく、党内の意見がバラバラで、現実的な路線で党内のコンセンサスを築くことが非常に難しいとのこと。若い世代の代表として、現実的な解決の方向性を模索する。

黄玉霖氏(財団法人 海峡交流協会基金会 主任秘書・国立交通大学土木系助教授・37歳)

 今までの3者は、都市部出身で裕福な知識階級出身者が多かったが、黄氏は彼らとは異色な農村部出身、農家出身で今まで非常に苦労してきた人物だが、非常な大人物と感じた。台湾は、都市部と田舎の格差が激しい。例えば、都市部の中学校では、学生の約半数が高校に進み、そしてその約4割もの人々が英米を中心とする大学に進学していると言うが、田舎では、高校に進む人間が、2割程度の感覚だと言う。

 中学校まで、台湾南部の雲林県で過ごし、中学卒業と同時に独立して台北に出てきたと言う。小学生の頃から、政治に関心があり、特に強い愛郷心と、世界中の民族問題への関心が政治を意識しだしたきっかけと言う。台北に来てからは、昼間は工場で働き、夜は夜学で勉強した。成績が良かったので夜学の先生が、夜のコースから昼のコースへの移行を進めてくれたが、学費の問題で、学校を辞め、独学で勉強、日本で言う専門学校に進んだ。専門学校でも成績が優秀だっため、兵役を二年間経験した後、台湾工業技術学院(日本で言えば東工大)に進む。勉学の合間を縫ってアルバイトに励み、専攻が建築であったこともあり、建築現場の土方や設計士の仕事等をこなした。
 台湾で大学卒業後は、渡米、バークレーでマスターとドクターを取得。遠回りせざるを得ない、人とは違うルートだったため、自信を持てずにいたそうだが、田舎出身者は我慢強いのだと笑って語る。

 バークレーでの博士論文を、技術士ながらも、政治経済的な観点からパブリックポリシーをテーマに執筆。台湾の新幹線構想に関して、交通と道路のプライバタイゼーションの観点から発表した論文が、政府の目にとまり、行政院の経済建設委員会の委員に選ばれる。そこで出来た政府とのコネクションから、政府の仕事に関わるようになる。現在は、国立大学の助教授を務めつつ、台湾と中国との外交を実質的に統括する海峡交流基金会のNO3を務めるとのこと。将来は、45歳前後で大臣になることを目指しているとのこと。この人ならば必ずなるのだろうとこちらも思ってしまう。立法委員になることに興味はないとのこと。

 現在の台湾の問題として、産業の構造転換と、投資環境の整備を挙げる。これは、他の人々にも共通していたが、台湾の人々の中では、産業の構造転換を皆が自国にとっての最重要課題だと前向きに捉えて努力している。新竹のハイテク産業優遇政策など、ある種日本ならば、不平等だと言われ不評を買いそうな政策さえも、国際社会での競争にシビアな感覚を共有する台湾では、当然のことと受けとめられていると言う。そもそもが、「反共」を掲げて出来た国だけに、台湾には左翼は存在しないのだ、と左派であるはずの民進党の人々が語る。
 台湾企業の大陸進出が進む中、彼らは、産業の空洞化を恐れずに、「根留台湾」というビジョンを語る。幾ら台湾の企業が大陸部に進出しても、台湾国内で構造転換をしっかり進めれば、研究開発やファイナンス部門など、本社機能は台湾に残るハズ、というビジョンらしい。幾ら、幹や枝葉を中国に伸ばして行っても、根っ子さえ台湾にしっかり残ればそれで問題はないのだということだ。いかにも台湾人らしい、ポジティブかつプラグマティックな意識だと感じた。

求められる日本の役割

 私の問題意識が外交問題、特に経済問題であることもあり、上記4者を始め、台湾の人々と、外交問題について多く議論をした。そこで、度々彼らに指摘されたのが、日本のアジアにおけるリーダーシップの欠如の問題だ。
 日本の外交ビジョンの欠如が、アジアの不安定を招いていると彼らは指摘する。日本人自身十分に認識している安全保障面だけでなく、経済面においても同様の問題が存在している。台湾を始めとする東アジアおよび東南アジア諸国の発展は、一時は、日本を先頭とした雁行発展モデルで説明され、アジア圏の経済発展における日本経済の重要性が指摘されたこともあった。
 しかし、特に80年代レーガノミックスによるドル高局面で、米国の産業構造の転換が進み、米国からの生産拠点の移転を国内に受け入れつつ、アジア諸国が安い労働力を生かして米国市場に進出すると言う構造が定着してからは、アジアの発展は米国に依存している。そして特に米国企業のアジア進出の狙いの中心が中国中心であったことは明確で、それが、90年代の中国経済の躍進と97年のアジア危機につながる他アジア諸国の停滞を生んだのだと指摘も受けた。
 日本が、アジアの一員として、米国的な、アジアの「いいとこ取り(すなわち、中国市場への進出)」ではなく、アジア全体の発展を考えて行動すべきだと彼らの一人は指摘する。

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鈴木烈の論考

Thesis

Retsu Suzuki

鈴木烈

第20期

鈴木 烈

すずき・れつ

八千代投資株式会社代表取締役/株式会社一個人出版代表取締役

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