Thesis
今年の大統領選挙において日米関係についてはほとんど論じられることはなく、外交で論じられるのは対露、対北朝鮮、そして対中国政策がほとんどであった。かつては対日批判で人気を取ろうとするという向きもあったようだが、今日のアジアの経済、安全保障の不安定さはアメリカの対日政策をかつての批判的な見方からは変化させたようである。今月は今後の日米関係について論じてみたい。
クリントン外交の失敗
日米関係を語るとき、アメリカの議会調査局などの資料によるとその重要性は言うまでもなく、経済的意義、軍事的意義から定義されている。それは経済的意味においては日本にとってアメリカは1番大きな市場であるが、逆に日本はアメリカにとって輸出ではカナダ、メキシコについで3番目の市場であり、輸入ではカナダの次であるという双方にとって極めて経済的繁栄のために欠かせない市場であること。軍事的意味では冷戦後、極東アジアの安全保障が中国や北朝鮮の台頭などにより不安定になる中で、その不確実性に対処するためには両国にとって同盟関係をより強化していく必要があったことである。
この捉えられ方はこれまでもそうであり、21世紀に入ってからも普遍のものとして捉えられている感があるが、そのニュアンスは時として変化してきた。そして最近、今後の日米関係を考える上で一つ重要なアメリカの反省として大きく取り上げられるのはクリントンの対日政策である。
これは1998年6月にクリントンが日本に訪れることなしに訪中したことである。当時、このクリントン外交は日本政府や政治家達の大きな反発を起こし、このことで長期的な両国の国益である親密な日米関係を崩すものと懸念する声を産み出すもととなった。この亀裂は翌年の小渕首相の訪米によってやっと修復されたと捕らえられているが、問題の突然のクリントンの行動の背景はアジアの通貨危機に端を発したと言う見方がある。それはアメリカ経済が好調に推移する中でアジア経済の不安定さがアメリカに波及することを恐れたクリントン政権や財務省は日本の不良債権問題にも注目し、それが日本経済を崩壊させ、世界経済に悪影響を与える懸念を持った。そこでクリントン政権、財務省は日本が不良債権処理、景気刺激を効果的に行うよう圧力を強めるが、一方で彼らは中国が通貨危機にあたり、通貨切り下げを行わずアジア経済を安定させたことを称えていた。
そこで彼らは訪中し「中国を戦略的パートナー」と持ち上げ、日本の経済政策を批判する一方で、日本とはハイレベルな接触を避け、日本が景気回復を全力で行うよう圧力をかけたというのがこの行動の原因のようである。クリントンの政策の支持者達はこのことが日本の対米感情を悪化させたものの、結果は日本が景気対策を積極的に行い、金融ビックバンを行うなど改革を行うことになったので結果として良かったと評価しており、アメリカ経済に悪影響を与えるグローバル経済の悪化を防ぐためにもこのような対日強硬姿勢を今後も続けるべきだと主張しているが、この見方はアメリカでは真二つに分かれる。
それはブッシュ大統領候補の外交政策の顧問ライス女史がフォーリン・アフェアーズ2月号で「今後、アメリカ大統領は9日間も北京に滞在しながら、東京にも、ソウルにも立ち寄ることを絶対に拒否することをしてはならない。」と強い口調で批判していることにも見られる。これはクリントンの対日政策が自国の経済を大統領選挙まで好調に維持することのみに執着し、日本が安全保障上の長期的なパートナーとしての関係の面を軽視しており、近視的であると批判してのことだが、以上のように経済、安全保障のどちらにストレスを置くかでアメリカの今後の対日政策は、未だ決まらない大統領選挙の行方にもよるが強硬策と融和の違ったアプローチが考えられる。
熟した日米関係
そのような中、大統領選挙の行われるほぼ1ヶ月前、10月の中旬にアメリカのアミテージ氏、ナイ氏などを含む超党派の外交専門家が「The United States and Japan:Advancing Toward a Mature Partnership 」というレポートを発表した。
その中ではやはり、朝鮮半島、台湾海峡、インドネシアなどの不安定なアジアの現状を指摘し、それを乗り越えるためにも成熟した日米関係の構築が重要でそのための提言をいくつか行っており、それは有力者が超党派で作成しただけに今後の政策を左右するものと見られているものである。
そこでは日本は経済が世界2位の規模であること、そして軍事力が装備の整った、有能なものであり、それらを鑑みれば日米関係はアメリカがアジアへの関わる際の要石であり、アメリカの世界的安全保障の戦略にとっての中心的存在であると定義している。そして今、日本はグローバリゼーションの中で明治維新以来の変革が起きていると分析し、今後日本がするべきこととして以下のことを挙げている。
安全保障
日本の集団自衛権の行使の禁止は日米の協力関係にとっては束縛であり、これをなくすことでより緊密で効率的な安全保障政策が行える。これらの決定は日本国民に委ねられるが、ワシントンは日本がより大きい国際貢献をし、より平等なパートナーとなるのを歓迎するのを明らかにすべき。その関係は米英関係がモデルであり、次の条件が必要である。
次期政権は安全保障の負担を分担するよう協力関係を進めるべきだ。
リーダーの交流
アジアの潜在的脅威に対処するため、日米両国は政策決定者たちの交流を広め、強化すべきだ。
経済関係
日本の弱い経済は世界の資本の流れに不安定をもたらす、国内では不満のある民衆は日米同盟が大きな役割を果たすのを喜ばない。日本は長期的視野で短期の犠牲を払ってでも経済構造改革を行わなければならない。
外交
日本は外交において、世銀や国連などで大きな役割を果たしている。また、日本の独自の発想はアジア通貨基金を提案するなど今後も大きな役割を果たすことが考えられ、ワシントンは東京との協力を怠るべきではない。
日本は他国への援助を減らすべきではない。日本の政策はアジアに広げられるべきで市場が開放されれば円の国際化も達成される。
以上のようにレポートはかなり踏み込んだものになっており、より大きな日米協力を志向するものである。それを目指す中で日本は構造的に経済、安全保障の分野で欠陥を多く抱えており、それを指摘した結果そのような内容になったと思われる。
今、このようなレポートが出たのは世界の中でアメリカがその役割に耐えられなくなりつつあることにも原因があるだろう。今年の大統領選挙の大きな争点として軍の再建は大きな問題となった。それはアメリカ軍が数多くの平和維持活動等に出動し、疲弊していると言うのだ。また、対中国政策を見てもアメリカはアジアでの軍事的優位性を維持するために一国の力では限界に達し、日本の協力を必要としている。
これらをまとめて言えることは日本がアメリカに過剰に依存したり、反米、親米で日米関係を語る時代は終わったと言うことではないか。経済においても日本の不況が世界経済に悪影響が及ぼされないかを懸念し、アメリカでは依然関心が高い。
9月ごろ、小渕政権の経済政策のブレーンと言われた代議士が訪米し、下院の議員会館で日本の経済についてアメリカの議員に講義を行う機会があったが、そこでも日本経済に大きな関心が払われていた。
今、経済分野では日本は世界の足を引っ張らないかと言う懸念が世界に充満している現状にある。政治においてはクリントンが日本を飛び越して中国に行ったのは日本のリーダーとの対話が官僚的でそのような関係に嫌気がさしたので日本を無視したという見方もある。そのような中、日本の現首相に対してアメリカの議会調査局のレポートは「経験、能力に疑問があり、失言癖がある」と言及するなど日本政治に信頼を置いていない。
我々は他国に信頼されるに値するリーダーを国際社会で日本が積極的に役割を果たす為につくっていく努力をすべきと言えるだろ。そうして、我々は国際社会の中で大国として必要とされる役割を日本が果たしうる環境を真剣に作り出す努力をせねばなるまい。
Thesis
Yoshiki Hirayama
第20期
ひらやま・よしき
衆議院議員鬼木誠 秘書
Mission
選挙と地方分権から民主政治を考える 食料問題 首相公選制