論考

Thesis

財政に見る政府間関係

一国の中央政府と地方政府の関係を見る手段として財政の配分がどのように行われているかを見ることが一つの有効な手段として挙げられよう。今月はアメリカと日本の財政に見る政府間関係から地方分権のあり方を考えてみたい。

 アメリカと日本の国と地方における歳出割合を比べてみるとアメリカは国と地方の割合がほぼ6:4なのに対して、日本ではその逆の3:7である。歳出だけを見ると日本のほうが地方に比重が多く、一見、分権的な関係に見える。しかし、歳入面で見て見るとアメリカは歳出と変わらず6:4であるのに対し、日本は6:4と歳出の比率と逆転している。ここで如何に日本の政府部門において多くの財政移転が行われているかが見て取れる。
 この際、留意すべきは日本の財政移転には借金が含まれており、また、それをもってしても収入が足りないためにほとんどの地方は独自に地方債を発行するなどして凌いでおり、それが国、地方を借金漬け財政にしている一方で、アメリカでは州政府の財政規律は保たれており、ほとんどの州で財政赤字は見られないことである。
 また、アメリカの州では日本の地方交付税にあたる歳入分与(注)は80年にすでに廃止されており、そのような中でのアメリカ州政府の健全財政は日本の地方政府が借金体質であるのと比べると、その自立の度合いと管理能力の高さは際立っているといえる。

 税収は州政府の歳入の50%を占め、主な財政移転はGDP比の2?3%(日本の財政移転は5?6%)を占める補助金によって行われる。それは州政府の歳入内訳の26%(日本36%)に相当する。補助は支給によって政策の質を改善したり、新しい政策のアプローチ方法を示したりすることによってナショナルミニマムを達成することを狙って行われ、議会もある目標を達成したり、地方政府の能力向上を図るためにその制度を利用する。補助金は個別補助金と日本にも最近、導入され始めた統括補助金の2つがあるが日本との大きな違いは全国的に影響を及ぼすような医療、教育、高速道路などのサービスに支給されている点である。

 98年度の日本とアメリカの補助金支出内訳上位5位の比較を見てみると、アメリカでは1位は44.4%のメディケイドであり、2位に9.4%を占める高速道路の建設費、3位に7.3%の生活扶助費であり、直接に国民の福祉に貢献する項目に多くの補助金が払われていると言える。それに対して、日本では普通建設事業費に補助金の40%と多くの費用が払われている。
 これは近年、公共事業のあり方としてその必要性に疑問が投げかけられていること、また、この制度が同時に地方に何割かの負担を伴うものであり、地方の財政を圧迫するものであるとともに、その多くが地方債の発行によって行われるため、地方の負担を将来的にも強いることとなり、地方財政を長期的に苦しめる要因となっていることを考えると、そのあり方は見直されるべきではあるまいか。普通建設事業費の多くは道路、橋梁などの土木事業に費やされており、それらは国民全体の利益になるものとは思えないものである。地域間の格差がある現状を考えて、ある程度の地域振興政策は認められるにしても、補助金が国民の税金を使って行われる以上、その多くは国家的なプロジェクトに費やされるよう見直すべきであろう。

 政府間関係で一つ問題として挙げられるのは中央が地方に財源付与のない事務事業を委任(Unfunded Mandate)することである。そのコストは2つに分けられ、問題視されていた。
 第一は財政的コストである。アメリカでも増大する医療費が地方の財政を圧迫してきていたのでこのような負担が州政府の裁量をも圧迫しつつあった。
 第2に社会的コストである。政治に対する信頼性は民主主義にとって基本的なものであるが、財源付与を伴わない事務事業の委任はそれを決定する連邦政府が決定を地方に押し付けるという意思決定過程のためにその信頼性を損なわしめている。また、それを決定する連邦政府が財政的負担を負わないとすれば、地方の問題に対する責任も負わないことを意味する。そこで1995年の議会でUnfunded Reform Actが可決された。これは財源付与のない事務事業委任を伴った連邦法を委員会が提出するときは議会予算局(CBO)に対し、経費見積もりを要求しなければならない。CBOは州政府および地方自治体に5000万ドル以上(現在は2億ドル)の財政負担を強いる法案に対しレポートを提出し、一定額以上の負担を地方に強いることが認められたときは議会は委員会に財源を提供するか、委員会で議会にその法案を提出するか否かを問う投票を行わなければならない。これは地方を十分に議会が考慮しなければならないということであり、州および自治体に権力を返すものとして理解されている。

 このようにアメリカと日本とでは補助金のあり方に大きく違いがある。日本ではその政策の多くが建設補助事業に頼り、それが借金体質へと国、地方を導き、地方の自立とは程遠い財政体質にある。
 一方でアメリカでは補助事業は国家的プロジェクトに限られ、また、議会での政策立案の際にはその見積もりを徹底して行い、国が過度に地方を圧迫して地方政治を行いにくくするのを防いでいると言える。日本でも最近、補助金が細部にわたり行われ、それが地方の自立を阻害してきたことを反省し、統括補助金の制度が導入されているが、国、地方の役割を考えるとその項目自体、大きく見直されなければなるまい。

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平山喜基の論考

Thesis

Yoshiki Hirayama

平山喜基

第20期

平山 喜基

ひらやま・よしき

衆議院議員鬼木誠 秘書

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選挙と地方分権から民主政治を考える 食料問題 首相公選制

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