論考

Thesis

カンボジア庶民の生活

今月は、先月に引き続いてのレポートですが、カンボジア庶民の生活について報告したいと思います。

 カンボジア経済の問題点は主なものとして、以下の5点が考えられる。
  (1)生産システムの無さ
  (2)税制度の未整備
  (3)汚職、密輸の横行による税収の無さ、モラルの低下
  (4)20年に渡る内戦による各種インフラの破壊
  (5)所得の低さによる生活苦、活力の低下

 これまで2年間カンボジアを見てきたが、庶民の生活は苦しいままである。昨年からカンボジアへの投資も急増し始めた。しかし、私自身、カンボジアにとっての課題は人材育成にあるように思える。この点に関連し、急務と思われる2点について現状を述べてみたい。

(1)職のなさ、所得の低さ

 この点に関して、2年間カンボジアを見てきたが、事態は好転していない。首都プノンペンにおいてはストリ-トチルドレンが増えてきた。教師や軍人など、公務員の給与は、およそ20US$と最低線であるにも係わらず、遅配は日常茶飯事の事。特に軍人や税官吏に関しては、それが汚職の温床にもなっている。これでは社会を変えていく活力が生まれるはずもない。

(2)教育

 1970年代より20年間続いた内戦は、学校校舎を破壊した。先月の月例報告でレポ-トした、ウドン高校もその一つ。現地を訪れたが、ロケット弾や銃による被害は甚大であった。

教育に関する問題点はそれだけではない。1975年に政権を取ったポル・ポトは、インテリ層を否定し、100万人(一説には200万人)を虐殺した。故に、現在のカンボジアでは、教育を受けた中年層がいないのである。カンボジアの復興に教育の整備が欠かせないにも係わらず、取り組みは遅い。

 今年度、私が係わる3つの学校で調査したが、教員給与の遅配が目立った。人々は、財源があっても上層部が懐に入れてしまう、と嘆いていた。各地で改修された校舎を見たが、なんと、村人がなけなしのお金を出し合い、数年かかって直していたのである。

現在、カンボジアでは各国NGOにより学校が建設されているが、その数は圧倒的に足りない。首都プノンペンにおいてさえ、学校数が足りないために多くの学校は午前と午後の2部制で運営されているのである。政府の取り組みは甘いと言わざるを得ない。

勿論、問題は上記のみならず、生活環境の整備や税システムの構築、法やインフラ整備など、枚挙に暇がない。これまで、手探りながらもカンボジア問題に係わってきた私自身、なぜ、事態が改善されないか考えてみた。勿論、2年前の国連主導下による総選挙を契機として、そう簡単に事態が変わるとは思っていない。しかし、余りにも事態は好転しないのである。庶民の暮らしは苦しいままである。特に、昨年は大量の森林伐採により、作物に甚大な被害が出たため、地方では餓死者さえ出ている。

 NGO指導者や政治家と幾度となく討論し、一般人とも話し、プノンペンを歩き、カンボジアの抱える問題点が多少であるが見えてきた。勿論、あらゆる法制度の整備や治安の安定化など、様々な問題点はあるのだが、それ以前の問題点として、モラルの問題が大きいように思えてならない。現状として、政治家を取り上げて、この問題を論じてみたい。

○政治家

1975年に、ポル・ポトが政権を取ってから多くの人々が国外に脱出し、ある人は海外で職を得、またある人は難民キャンプで暮らしてきた。そして2年前、国連主導下(国連カンボジア暫定統治機構〔UNITED NATIONS TRANSITIONAL AUTHORITIES  IN CAMBODIA、通称:UNTAC〕)による総選挙が行われ、新政権が発足した。選挙前、国外に難を逃れていたカンボジア人達は、祖国に戻り、数多くの人々が選挙に立候補したのである。

 これまでカンボジアを見てきて残念でならないのは、汚職に手を染める人が多いことである。あるレストランで朝食を取っていたときの事。懇意にしていたボ-イが少し離れたテ-ブルを密かに指さし、次のように言った。

 「**が連れている女性は売春婦なんです。**はいつも女性を連れて朝食を食べに来るんですよ。彼らが連れている売春婦は、一晩100~200US$だそうです。」

 ボ-イが教えてくれた話しの人物は、大臣なのである。彼はUNTACによる総選挙の前、タイの難民キャンプにいた人物なのだ。全く理解に苦しむ。難民キャンプにおいてきっと苦しい生活をしてきたと思う。祖国の再生に思いを馳せていた事と思う。しかし、一旦、高地位に就くと月給40~50US$のボ-イの前で平然と売春婦を連れて朝食を取るのだ。むしろそれを誇っているが如き様子であった。

 余りな例として取り上げてみた。無論それだけではない。国会議員(MEMBER OF  PARLIAMENT)の給料は1,100US$(昨年11月現在)である。この給料で数人の秘書を抱え、車を持っていればさほど高い給料とは言えない。しかし、この給料で2軒の家を持ったり、メルセデス・ベンツを持ち、一晩100~200US$の女性を買っている政治家が少なくないのである(給料と実際とで言えば、わが国も変わらない)。

 昨年11月、カンボジアに渡って3年になられる日本人僧侶に話しを聞く機会があった。その際、上記の話しを取り上げ、私にはそのメンタリティ-が理解できない。彼らに後ろめたさはないのであろうか?どう思われるか?と尋ねてみた。師は次のように語ってくれた。

「無いでしょうね。汚職は当然の権利として考えていると思います。自分達はこれまで苦労してきたのだから、その権利がある、と考えているようです。」

自らを律し、庶民の生活を憂い、国家を憂いている人々もいるのである。旧知の国会議員(前財政大蔵大臣)のサム・レンシ-氏は、生命の危険に晒されながらも汚職勢力と闘い、健全な経済システムを築こうとしてきた。それを国民は見ていたのである。遂には大臣の職を罷免されたのだが、それに対する国民の抗議の声は大きかった。

 少しづつではあるが、国民もおかしさを感じ初めている。未来を拓かなければ子供達につけがまわる。小さい活動ではあるが、今年度から始めた七五三基金の活動を順調に、長期に渡って進めて行きたい。

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堀本崇の論考

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Takashi Horimoto

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第13期

堀本 崇

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