論考

Thesis

自給できる都市 ~セルシティの一断面・人材育成と産業育成の調和~

今回は、人材と産業の地域内自給について記したい。いままでの活動の中から中山間地域における事例を、現在の活動から都市部における事例を紹介する。

 冒頭から余談になるが、前回地域内自給の5要素(食料・水・エネルギー・産業・人材)を五行(木=食料・水=水・火=エネルギー・金=産業・土=人材)に例えた。五行、風水では、「木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、水は木を生む」という。
 栗田流に現代語訳すれば「食料、森林資源、自然環境、風土といったものが地域の活力やエネルギー(資源)を生みだし、生活環境が整い、衣食足りて活力あるところに人材が集い育ち、そこで育まれた才能が新たな産業を育み、産業が(従来の自然・住環境破壊型と異なり)新たな生活環境、風土を育てていく」とでもなるのだろう。地域内自給の主要素、特に人材と産業の育成の間には相関関係が高いといえる。閑話休題。

 月例報告でも何度か記したが、地域コンサルタントの仕事とは、なにもない地域を活性化させることではなく、資源(ここでは風土や人材のこと)を持っていながらうまく活用しきれていない地域を活性化させることにある。当然、風土・人情などによって、産業の選択肢も異なってくる。

 愛媛県内子町が選んだのは、「ふるさとのまち」「ホッとする町」「日本の原風景」をキーワードとする、ツーリズム産業の振興だった。古くは木蝋の町として栄え、戦後もたばこの生産で一時期活況を呈した内子も、近年は他の中山間地域と同じく過疎化の波にさらされていた。
 そこで役場の企画課の課長、岡田文淑氏が目を付けたのが白壁の町並みと木造の劇場「内子座」だった。町並みを伝統的建築物保存地区に指定し、内子座で文楽の興行を打つなどの活性化作戦に着手した。やがて活動は町の中心から周辺に広がり、石畳地区(栗田家のルーツでもある)では、農村のおかみさん連が運営の担い手となる「石畳の宿」が開業することとなった。
 当初はとまどいながらやっていたおかみさんたちだが、今までになかった都市部からの観光客との触れ合いに刺激され、積極的に全国の宿に研修に出かけ、“本当のサービス業”を追求し続けた。今では、もてなし、料理、すべてにこまやかな気遣いを見せながら、地元の良さを忘れていない日本一の宿泊施設となっている(石畳の宿の料理、つまものは全て地の旬のもの。7~8千円で宿泊でき、料理は最高、日本の原風景と山並みに沈む夕日が堪能できる。めちゃめちゃお勧めです。味の分からない人には行って欲しくないくらい)。
 交流産業、ツーリズム産業でやっていこうという意識はいまや町中に広がりつつあり、大瀬地区(大江健三郎の出身地)や、山間部の集落でも滞在施設の整備、交流プランづくりなどの活動が広がっている。
 同町の道の駅「からり」では、農産物をアイテムとした生産者と消費者の直接的な交流が行われており、こちらでも女性が中心となって活躍している。

 地域振興が人材育成につながった例が内子町なら、人材育成が地域振興につながった例が沖縄アクターズスクールである。
 沖縄アクターズスクールは、世間一般で認知されているような単なる芸能学校とは少し異なり、その本質は「人間が本来持っている才能を引き出させる環境をつくる。人間性や自立心を伴った人材を育てる。エンターテイメントは人間の自己表現のひとつの方法である」という理念にある。そこには(DPIS=DREAM PLANET I.Sもそうだが)、子ども達が自分を育てられる環境があり、広い意味での人材育成機関だ。
 子ども達は、様々な生活体験を通じても学んでいく。自分たちで企画、デザインしながらひとつの公演を作り上げていったり、振り付けやダンスレッスンも自分たちが中心に行ったり、さまざまな“表現”を通じて学んでいく。
 こうして育った人材が、地域経済の活性化や、新しい産業の創出につながっていく。

 沖縄アクターズスクールの生徒数は、約450人。この生徒が観光客(修学旅行客のコースにもなっている)を呼び寄せることによって、コンビニ2-3件程度は簡単にオープンし、地域の商店の売上は増大する。那覇市の大道芸パフォーマンスやお祭りへの企画参加はもちろん、沖縄には何か特別な人材がいるかもしれないという期待感で沖縄のイメージをアップさせた功績は大きい(昨年の紅白に、OAS出身者(一時在籍者含め)が6組もいる)。
 2000年度の全国展開(大阪、横浜、札幌、名古屋、福岡)では、さらなる地域開発との一体化を構想している。

 バブル崩壊後、日本の産業は根本的な転換を余儀なくされた。貸しビル業でも従来のようなテナント貸しをして、賃料だけから収入を上げるやり方は限界に来ている。大阪のあるテナントビル(超一等地)の空室率は、30パーセントに上る。空室率が低いようにみえるビルでも、自分のところの本社や関連企業を入れてしのいでいる現状がある。
 周辺への集客効果を考え、アミューズメント(Joy Policeなど)やMDS、DS(無印良品や東急ハンズ)を入れる戦略も数年前から流行った。しかし、福岡キャナルシティの失敗に見られるように、この手法にもかげりが見えている(といザラスのみ例外)。
 私はこれらの失敗を、いずれも大量販売・消費のみに頼り、地域内での再生産が不足していたためと見る。次々に企画、アイディア、サービスを発信し続けなければならない(売れ続けない)現在のサービス(物販)業にとって、ハードに金をかけながら、次々に新しいイメージを作り出すのは容易なことではない。とても資金が続かない。
 そう考えたときに、これからの全国展開で沖縄アクターズスクールが行おうとしている戦略、エンターテイメントというソフト産業であり、コンテンツ産業であり、情報発信をしながらその場所に人を呼び集める観光産業でもあり、再生産のための人材育成も行い、しかも観光客が消費だけでなく人材の供給先にもなり、(しかも人材育成のためのコストがかかるどころか逆にもらえるという)という戦略は、企業としてひじょうに優れたものに思える。

 次代の貸しビル、地域開発業の中心は、いかに沖縄アクターズスクールのような企業を誘致し、都市型(エンターテイメント型、都市の快楽型といい変えてもよいが)の交流産業を開発していくか、そして、必要な人材をいかに低コストで集め、再生産していくかに切り替わってくるだろう。

 以上、都市部と中山間地域の2例を紹介したが、どちらの例も産業育成が金儲けのためにだけあるのではなく、それぞれの資源を生かした上で、必ず地域や人材育成にフィードバックされている。自分の特質を理解し(内子なら豊かな自然と人情、農村の原風景、アクターズスクールなら、人材育成のノウハウと子ども達、情報発信力)、それを再生産させる手法を商売に取り入れることが、企業・地域の成功の秘訣だといえそうだ。収穫逓増の法則をどう取り入れるかが、生き残りの分かれ目になってくるだろう。

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栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

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まちづくり 経営 人材育成

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