論考

Thesis

地域内分権

分権にはいくつかの種類がある。

1)中央から地方への分権(国から県へ)
2)中央から地方への分権(市町村へ)
3)基礎自治体からコミュニティへの分権
4)官から民(企業・NPO)への分権
5)その他
 今回の月例報告では、3)基礎自治体からコミュニティへの分権の動きと、地域が直面する問題をレポートしたい。

 ライフスタイルの多様化が行政サービスへの需要の多様化を生み、財政の悪化がサービスの縮小、自助の風潮に拍車をかけてきた。地方分権は、経営危機に直面した地方からの声に勢いづけられて進んできた。
 政府が町村合併推進の試金石として介護保険制度を利用していることもあり、

STEP1 合併などによる自治体規模の拡大(広域化・人口増)
STEP2 中央からの権限の委譲

という絵を、多くの自治体が描いている。

 このような状況で、忘れられやすいのが、基礎自治体からコミュニティへの権限委譲(⊃住民参加)である。都市部と中山間地域の事情を比較してみる。

1 都市部の参加型コミュニティづくり(神奈川県藤沢市)

 共生型のまちづくりをすすめる藤沢市では、行政区毎に「くらし・まちづくり会議」という住民参加型のまちづくり会議が置かれている。藤沢市では、市民センターと公民館の区割りがほぼ同じため、センター長(基本的に公民館長と兼職)がくらし・まちづくり会議の事務局を務めている。

(注)
市民センター・・・市役所の出張窓口。印鑑証明や転出入など、行政事務の一部を行う。市内に13地区ある行政区中10地区に設置。首長部局に所属。本庁(市役所)側の連絡窓口は市民提案課)
公民館  ・・・本来社会教育法に基づき、社会教育や生涯学習の支援を行う機関であったが、現在全国的に貸館業務を中心に行う傾向がある。藤沢では13の行政区全てに公民館がある(13公民館)。教育委員会に所属。
 くらし・まちづくり会議への参加者が、実質的な意味で行政に意見をいう「住民」ということになる。各地域で構成比率は異なるが、メンバーは、
1 町内会・自治会の会長、役員
2 各種地域活動団体(商工会、社協、交通安全協会など)の代表者
3 公募(高齢者(リタイアした男性)、主婦など)
などによって構成されている。人口3万人当たり、ひとつのくらし・まちづくり会議(委員数約20名)が存在する。

 都市型住民参加の特徴として、上記1、2の従来型のコミュニティの代表と、新しいまちづくり活動家グループとでもいえそうな、主婦を中心とした公募層とが拮抗していることがあげられる。前者は行政が広報誌の配布や納税組合など、前者をうまく媒体として利用して地域に接してきたこともあり、組織としてのまとまりが強かったり、地元での影響力が大きかったりする。その一方で、硬直化した意見しか出なかったり、建設的な議論の障害になったり、「文句」だけで「行動」しない、といった弊害もある。後者は、活発にし、新しいアイディアを出して行動する力に富んでいるが、地域の有力者を巻き込む組織力や行政組織を理解し、上手く利用する力(経験)に欠けているという弱点がある。アクセルとブレーキのような関係の両者を、以下にバランスよく混ぜ合わせて活動させられる仕組み・組織・環境・雰囲気を作れるかが、地域内分権のひとつのポイントになる。

2 中山間地域の参加型コミュニティづくり(愛媛県内子町)

 内子町では、参加型のコミュニティづくりを現在推進しているところである。現在の仕組みは、自治区と公民館の二重構造になっている。

自治区について・・・・役場の総務課(首長部局)が自治区(町内に180数カ所ある)の連絡窓口になっている。自治区は、部落単位で構成され、数戸から十数戸を単位としている。自治区はまちづくりの単位というより、農村共同体としての単位(祭り、共同作業のしきり)と、陳情要望団体を併せたようなものである。「行政」の場というより「政治」の場であり、自治区長が直接、議員や町長に話を持っていく形で、地域の要望を町に伝えている。

公民館について・・・・分館、地区館あわせて、18の公民館がある。町内を大きく三つの地域に分け、各1地区館、5分館が配置されている。分館長は、地域住民を非常勤職員として採用、その任に当たってもらっている。公民館は、社会教育課(教育委員会)の管轄で、貸館業務と生涯学習活動の指導を行っているが、分館長が地域住民(退職した校長など)のため、生涯学習活動が趣味のサークルの域を出ず、自治活動にまで高まらない現状がある。

 中山間地域は自治意識は高い。しかしその自治意識は、現在各地ですすめられている行政と住民のパートナーシップ(協働)型の自治とはかなり異なる。お上の問題と地域の問題をはっきりと線引きした上で、「俺たちの問題には口を出すな」「お上に任せているのだからしっかりやれ」式の自治である。

 自治意識の変革のためにも、生涯学習のあり方、自治公民館の復活などを検討しなければならないのだが、地域コミュニティに対応する部局が2系統(行政センター【首長部局】・公民館【教育委員会】)あるために、現場がかなり混乱している。これも縦割りの弊害といえる。

 以上、簡単に概観してきた。最後に、この先地域内分権を行う自治体へのアドバイスとして3点あげておきたい。

1 組織の問題
 広報広聴組織を一本化し、行政内部で企画局に並ぶ調整機能・権限を持たせる必要がある。教育委員会と行政センター担当部局との職務調整を軸に据えた行政組織改革は必須である。

2 受け皿の問題
 旧来のコミュニティ組織(自治会など)と、新しい活動組織それぞれの特徴をつかみ、住民参画を促進させる必要がある。その為、生涯学習の指導やまちづくり会議のコーディネートにあたる職員には、高い専門性を持たせる必要がある。

3 法整備の問題
 都市計画マスタープランなどで住民参加の促進が謳われてはいるが、従来の総合計画や環境基本計画との上位下位関係や参加の仕方についての詳細はどこにも規定されていない。地域内分権は、将来的に日本の民主主義のあり方を根本的に問い直すことになる問題であるので、各自治体に於いて、条例などの法整備によって、その位置づけを明確にしておく必要がある。

Back

栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

Mission

まちづくり 経営 人材育成

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門