論考

Thesis

国際交流のニューコンセプトを求めて ~Pacific 21の挑戦

1. Pacific 21(太平洋評議会)の挑戦

 横江久美塾員が主催するPacific21(日本名:太平洋評議会)の存在感が、ワシントンの中で少しずつ大きくなってきている。私自身企画書作成やコンセプトメイキングのお手伝いをさせていただく中で、この組織の秘めている可能性の広がりを日々再認識している。まずはPacific21が実際にどのような活動を行っているか紹介してみよう。

①太平洋地域に関心を寄せる人々のネットワーキング
 韓国や中国、あるいは台湾の人々は、それぞれに社交の場、情報交換の場を築き上げている。日本人の間でもそうしたネットワークを作ろうという動きは何度かあったようであるが、十分に定着してこなかった。Pacific 21はこのミッシングリンクを埋めようとするだけでなく、ネットワークの輪を、太平洋地域に関心を寄せる人々に押し広げようとしている。

 カンファレンスに各国の人々を招くことはもちろん、同様の団体との提携も模索している。先月はコリアクラブとの共催のカンファレンスも実現した。Pacific 21の持つこのハイブリッドな性格の意義は非常に大きいと思われるので、次章で詳述することにしたい。

②カンファレンスの開催
 月一回のペースで、大きなカンファレンスが開かれている。5月にはダグラス・パール(前国家安全保障会議アジア担当局長)、6月にはコリアクラブとの共催でジョエル・ウィット(国務省合意枠組み担当長)、7月にはリチャード・アーミテージ(前国防次官補)と、この種の団体のカンファレンスとしては最高級のゲストスピーカーを招くことに成功している。出席者も60~70人を数え、盛況といってよい出来であるが、重要なことは、韓国大使館やアメリカの政府・軍関係者からも出席者があったことである。7月のカンファレンスではNHKのテレビカメラが入っていたが、これからは毎回国会テレビのカメラが入る予定である。

 Pacific 21の意義を示すよい例に、7月のカンファレンス後、アーミテージが日本の新聞社に引っ張りだこになったという事実が挙げられる。このカンファレンスが、ゲストスピーカーと日本のマスコミの顔つなぎの場になりうることの証左と言えよう。

 カンファレンスのテーマも、マルチラテラルな視点から設定されるように配慮されており、日米関係だけに目が奪われないように、韓国のコラムニストの方にコメンテーターを依頼する等の工夫もこらされている。

③サブコミッティ
 月一回の大規模なカンファレンスとは別に、不定期、小人数の勉強会も催されている。先月は、台湾の李登輝発言をうけて、矢板明夫塾生を講師にしたサブコミッティが開かれ、20人を越す出席者を得て、好評を博した。その時々の旬の話題にあわせて、テーマやスピーカーを設定することで、できるだけユニークな情報を提供しようという位置づけである。

④ニューズレターの発行(予定)
 Pacific21では、カンファレンス報告や、分析記事、インタビュー記事を掲載するニューズレターを発行する予定である。こうしたニューズレターは、組織の存在をアピールする上で非常に重要である。Pacific21のネットワークや情報の持つ力を形として残していく努力をすることは、将来的にシンクタンク的な政策提言機能を備えていくステップとして重要である。インタビューや寄稿依頼を通じて人脈を拡大していくことによって、将来様々な研究プロジェクトを発足させていくための布石を打つことも出来る。

 こうした活動を通じて培われてきたネットワークを通じて情報提供や各種の交換プログラム(政治家、ジャーナリスト等)、政策提言活動も暫時行っていく計画である。

2.マルチラテラルネットワークの意義

 ワシントンには、官庁や企業、あるいは大学から俊英たちが派遣されてきている。目的はそれぞれであるにせよ、母国を離れ、世界の中心の一つであるワシントンで戦っている人々が集い、情報が自在に流れる場所を形成することは意味のあることだろう。彼らの多くは、2~3年で日本に帰るが、こうした場所がワシントンに持続的に確立されているのであれば、そのインフォーマルなネットワークは日本社会の中核に浸透していくことになる。

 しかし、Pacific21の独自性は、世界政治の中心の一つであるワシントンに閉鎖的な「日本人会」を作ることにあるわけではない。それだけでも十分有意義なことであるが、この組織のユニークなところは、そのメンバーシップを「日本人」ではなく、「日本を始め、太平洋地域の問題に関心をよせる人々」に拡大しようとしているところにある。言うまでもないが、日本の進路、特に安全保障政策や外交政策は、日本人だけで決められるものではない。にも関わらず、日本人が、「太平洋地域」の課題をめぐって、他の国々の人々と気楽に繋がり合い、意見を交換し合う場所は意外に少ない。ワシントンには、アメリカの政治関係者だけがいるのではない。世界各国から選りすぐりの人々が集まってくる場所でもある。日本で駐米大使が重要なポジションであるように、各国の在アメリカ大使館にはエリート外交官が派遣されてきている。政府関係者に限らず、国に帰れば重要なポジションを占めていく人々の宝庫なのである。アメリカ人だけに焦点を合わせるのはもったいない話である。アメリカのブラジルの新聞記者から、アメリカの南米戦略を聞き出したり、オーストラリアの大使館員からアジア太平洋の不拡散問題について示唆を受けたりするということが、ワシントンという場所を十全に活用することなのである。

 利点は他にもある。日本人が持っているワシントン人脈というのは案外似通っていたりする。しかし、カナダ人が持っている人脈は、全く違うであろう。日本以外の国の人々を招くように努力しつづけることで、存在すら知らなかったような重要機関や重要人物へと、日本人総体としての人脈を押し広げることができる。逆から見れば、アメリカの中枢が日本にアクセスするポイントを増やすことにもなる。

 こうした視点や情報、人脈のマルチラテラリズムが機能するにあたっては、劉敏鎬特別塾生やUSIAのケルマン氏という協力者の存在が欠かせない。複雑化する市場環境に適応するには会社組織内部が複雑化する必要がある、と言ったのは野中郁次郎氏であったと記憶するが、マルチラテラルネットワークが成功するには、主催者側自身がマルチラテラルである必要があるのだろう。

3.国際交流の新しいコンセプト

 従来の国際交流は、言ってみれば、日本と世界各地のポイントを線で結んでいるイメージであるが、pacific21の構えは、ワシントンという網状にネットワークが交差する地点に直接降りたって、その網をたぐりよせようとしているといった感じかもしれない。

 日本人は、国際的な情報収集やネットワーク形成、マルチラテラルな交渉舞台での交渉を苦手とすると言われてきた。確かに、私たちを柔らかく包み込んでくれる日本という環境にいる限り、そうした技量はそれほど必要ではないのかもしれないし、無意識の共感や調整によって、一定の方向性や観点が形成されていくというのも確かであろう。生活の舞台としての日本はそれでよいのだが、日本がその巨大な経済力を携えて、国際協調の枠組みの中で生きていくためには、上記の苦手分野を克服していくほかはない。そのためには、日本から離れた場所に、そうした能力を培うセンターを作っていくのが近道と思われる。

 政策シンクタンクにしても、日本では資金集めが難しいというなら、資金集めが容易なアメリカに本部を置くというのも一つの方法かもしれない。日本の企業が、人脈作りや情報収集のために毎年巨額の寄付をアメリカの政策シンクタンクに対して行っているが、例えばPacific21のような団体を育てていくほうが、はるかに安上がりかつダイレクトな情報収集や人脈形成が可能になる。アメリカの政策シンクタンクとコネクションを持つことは意義のあることではあるが、アメリカの政策シンクタンクの提供する情報や提言はアメリカの国益というバイアスがかかっていることも考慮はしておく必要があろう。その意味で、日本主導の政策シンクタンクをワシントンに作ることの意義は大きい。

 Pacific21の挑戦はまだ始まったばかりであるが、そこには、21世紀に日本や日本人が国際社会で誇り高く生きていくためのヒントがたくさん詰まっている。

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金子将史の論考

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Masafumi Kaneko

金子将史

第19期

金子 将史

かねこ・まさふみ

株式会社PHP研究所 取締役常務執行役員/政策シンクタンクPHP総研 代表・研究主幹

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安全保障・外交政策 よりよい日本と世界のための政策シンタンクの創造

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