論考

Thesis

ドリームプラネットインターナショナルスクール面接記

あけましておめでとうございます。
 いよいよ1999年が明け、ドリームプラネットの開校も今年の4月24日と決まって、準備のための月日も残り少なくなってきました。
 ドリームプラネットの形はだいぶ出来てきました。入学予定者の数も100人を突破しました。高校生以上と中学生以下が半分半分くらいの比率です。
 今回の月例報告では、この100組の親子と面接をしていて感じたことを綴らせていただければと思います。

 みなさんこの学校のことをとてもよく研究して、大変な決心をしてから沖縄までやって来ます。
 この学校が義務教育として認められないこと、高卒の資格が得られないことは納得ずくです。4月に開校できるのかどうかが不安で沖縄まで確認しに来る人も、実際にこの森と海に囲まれた素晴らしい環境をごらんになって感激して帰ります。
 面接をしていておもしろいことに気づきました。
 いろいろな人に「不良(この言葉自体も今や死語に近いですが)や怠け者の子どもばかり来るのではないですか?」と心配されるのですが、100人に会ってそんな子どもは1人もいません。自分をしっかり持っていて個性豊かな子どもばかりです。
 なんと言っても、資格が認められない学校にわざわざ遠くからやって来るのです。いっぱい悩んで「どうしてもここの学校に入って自分の才能を見つけたい!」という子どもしか来ません。これは資格なしの学校から始めることの予想外の効果でした。
 そういう子どもたちが親御さんと戦って説得してやっとの思いで沖縄での面接にたどり着くのです。実際には入学が決まった子どもの数の何倍もの子どもたちが「ドリームプラネットにどうしても入りたいけど、沖縄まで行けない、親が話を聞いてくれない、お金が足りない」と、電話で手紙でファクスで、私に訴えてきます。
 彼らの気持ちを思うと、私の苦労なんて吹き飛んでしまいます。これからやらなければいけないことはたくさんあるなあ、と思うのです。

 子どもが親を説得して沖縄まで引っ張ってくる、というパターンがほとんどですが、例外は小学校低学年のお子さんをもつ親御さんたちです。現在の学校では子どもの才能がつぶされてしまう、と大変な危機感を持っています。寮に入れるのは12歳以上なので、本土から親御さんともども引っ越してこられる場合も少なくありません。
 実際にそのお子さんに会ってみると親御さんの気持ちが痛いほどよくわかります。
 面接に来ても話なんて全然しないで面接の会場をひたすらぐるぐる走り回っている6歳のMくん。「この子は普通の学校ではつぶされてしまう・・」私も納得しました。でも数字を書きだすと大変な集中力を発揮します。
 この子にはこの学校で好きなだけ走り回らせて飽きたころにまず数字から与えるやり方でいこう。私も決心しました。
 学年のない学校なので、彼の「お兄さん役」に18歳のOくんを任命しようともくろんでいます。とても責任感が強くて心の優しいOくん。人間としての基礎は大体身についていて、この学校では音楽的な感覚を追求したいというので、それと平行してMくんのめんどうを責任を持って見ることで人格をさらに磨いてほしいと願っています。

 「面接ではどんなことを審査されるんだろう・・」子どもたちは戦々恐々、緊張した面もちでやって来ます。
 実際にするのは、この学校に入りたいという意思の確認と、4月に入学した時点での一人一人の時間割づくりです。
 90%以上の子どもが基礎基本の時間では英語とコンピュータを学びたい、と言います。子どもの方が今の社会で何が要求されるかを冷静に見つめているのかなあ、と感じます。
 その上でこの学校では兎にも角にも人格を磨いてほしいこと、いじめは絶対に許さないこと、何もしないと何も残らない厳しい環境であること等を確認してそれでも「やります!」ということであれば、その場で入学許可です。
 そういう風に説明しても、点数競争、受験戦争の中で育ってきた子どもたち。合格守りをぶら下げてきて、「どこか他に受験するの?」と聞いたら「お姉ちゃんがドリームプラネットに合格するように、ってくれました」。
 最後に「何か質問はある?」と聞くと、「クラブはありますか?」「あなたたちがつくりたいクラブをつくればいい。」「校則はどんなものですか?」「それもみんなが入学してから、自分たちで考えてよ。」「・・・へええ、すごい!」どんなに説明しても、自分たちで学校をつくることの実感が、にわかには湧かないらしいのです。

 でもやはり入学許可と告げたときに安堵のあまり泣き出してしまう親子を目の前にするたび、ここしかない、と思い詰めた気持ちが伝わってきて、なんとしてもいい学校をつくらなきゃあ、という決意を新たにする日々です。

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白井智子の論考

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Tomoko Shirai

白井智子

第16期

白井 智子

しらい・ともこ

NPO法人新公益連盟代表理事

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