松下政経塾 The Matsushita Institute of
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1998年8月

塾生レポート

介護保険と居住環境
森本真治/卒塾生

 
 4月の月例報告でも述べさせてもらったが、近年の社会福祉の流れとして急速な「分権化」というものがある。そしてサービス供給システムも住民の生活圏に合わせた形でつくられ、福祉サービスも在宅において行うのが主流となってきている。
 しかしながら在宅サービスを行う上で問題になってくるのが、居住環境である。「日本人はウサギ小屋に住んでいる」と言われ、また段差の多い構造など日本の居住環境は在宅サービスを受ける上でかなり不便が多い。最近福祉サービス利用者の居住環境整備についての関心が高まり、建設・厚生両省から施策が展開されつつある。介護保険法では、居住環境整備は「住宅改修費の支給」として位置づけられることとなった。今月の月例報告では先日広島で行われた第12回日本地域福祉学会において報告された内容を元にして居住環境整備の論点について述べる。

1、 介護保険法における居住環境整備

 介護保険法第45条1において居住環境整備は「市町村は、居宅要介護被保険者が、手すりの取り付けその他の厚生大臣が定める種類の住宅の改修を行ったときは、当該居宅要介護被保険者に対し、居宅介護住宅改修費を支給する。」と位置づけられた。

2,介護保険法と居住環境整備をめぐる諸課題

(1) 居住環境整備の概念と範囲

 居住環境整備の解釈は極めて幅が広い。例えば、住宅の軽微な改修をその内容とする介護保険法における「住宅改修」と大規模改修や新築、転居までも含む「ハウスアダプテーション」では、その違いが大きい。さまざまな居住環境整備に関する概念の整理および統一と、広範にわたる居住環境整備の担い手を明らかにする必要がある。

(2) 居住環境整備と社会福祉の関わりについて

 現在の我が国の社会保障制度の構造では、社会福祉政策と居住環境整備に関わる政策(住宅政策等)は、直接的な関係を持っていない。一方、欧米諸国では住宅政策(housing policy)は、広義の社会福祉政策として、両政策の連携が図られている。政策所管部局の「縦割り」等が指摘される我が国では、政策間の関係、枠組みについて考え直す必要がある。

(3) 住宅改修費の給付の解釈について

 住宅改修費の給付は、個人資産である住宅への公的費用の供与にあたるという解釈がある。介護保険法制定に至る論議の中でもこの考え方は踏襲され、大規模な改修は介護保険法の給付対象外となっている。他方、住宅を個人資産であると同時に社会資本として位置づける考え方もある。両論をどのように整理していくかは大きな課題である。

(4) 介護保険法と現行居住環境整備施策の関わり

 現在、いくつかの自治体では独自の居住環境整備施策を有している。こうした自治体では、自治体単独施策と介護保険法にある「住宅改修費の支給」の格差が生じる。介護保険法では、市町村特別給付としてサービスの「上乗せ・横出し」を認める方向であるが、独自性を持った事業を自治体が継続していけるかどうかは、財源等の問題によって先行きは不透明である。

(5) 居住環境整備・住宅改修へのニーズと施策の啓発

 最近のいくつかの調査で高齢者の在宅志向への高まりが明らかになってきているが、必ずしも彼らが居住環境整備(住宅改修等)に関心を示しているわけではない。その理由の一つは、居住環境整備の効果の分かり難さにあるのではないか。一般の福祉サービスと違い、居住環境整備の効用は見え難く、積極的な居住環境整備サービスの利用に結びつけにくい。居住環境整備の推進には、市民の理解を得るための啓発が重要である。「福祉の基礎としての住宅」という考え方に対する市民のコンセンサスの形成は、居住環境整備の進展に欠くことができない。

 介護保険法制定の一連論議のなかで、居住環境整備に関する検討は少なかった。介護基盤の整備についての議論はさかんであり、特別養護老人ホーム、ホームヘルパーの数等について多くの危惧が唱えられたが、そこに「居住環境」や「住宅」は含まれていなかった。在宅福祉を志向する介護保険法において、その介護基盤として「在宅」の「宅」の部分にはほとんど注意が払われなかった。簡単な改修のみをその範囲とする介護保険法での居住環境整備の内容は、必ずしも十分とは言えないが、高齢者への一定の居住環境(整備)の保障という意味においては、評価できる。さらに、介護保険法導入により居住環境整備と社会福祉政策の関わり方について議論が起きてくることが望まれる。

1998年8月 執筆
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