論考

Thesis

バイオリージョンとグリーンシティプログラム

1はじめに

去る1月25日、バイオリージョナリズム(生命地域主義)の提唱者として高名な、ピーターバーグ氏をアメリカから招いて、京都でワークショップが開催された。
バイオリージョンとは、人間の都合による境界線ではなく、自然の特徴により、一つのまとまりを持った地域と認められるものであり、多くの場合、一つの河川の流域、あるいはいくつかの流域を集めたものと重なっている。
バイオリージョナリズムは、私たちの生活の場である地域を、「多様な生物の共生的な相互関係が、持続性を保証する一つのまとまりを持ったシステム」ととらえ、それぞれの土地をよく観察し、その持続性を損なわないための自然の制約条件を見極め、これらの条件を人間社会のありかた(政治、経済、文化)に組み入れることが不可欠と考えるものである。
バイオリージョンが、その運動として成立したのは、1970年代前半のことであり、この運動はそれ以来、地域の自立性を育てる数々のプロジェクトを展開するとともに、講演会、出版活動など、積極的な啓蒙活動を行ってきた。
この過程で、持続可能な社会の建設につながる、さまざまな興味深い概念、センスオブプレイス、(場の意識)ヒューマンスケール(等身大規模)、リインハビテーション(新しい生活の確立)棲み直しなどが生み出され、環境哲学の発展に大きな貢献を果たしている。
また、ピーターバーグ氏が代表をつとめる、プラネットドラム協会が始めた、グリーンシティプログラムは、バイオリージョンの考え方を都市に応用し、灰色の都市を、自立性、持続性を高めた「緑の都市」に発展させることを目指し、大きな成果をあげている。
これまでに、都市の持続性を考える研究グループ、自治体、中小企業などの参加を得て、サンフランシスコ湾岸とその周辺地域において、試験的な試みが熱心に進められてきたと言う。
グリーンシティプログラムの中では、すでに開発が行われてしまった都市において、全体の資源搾取量を減らし、都市の中にもっと多くの自然を回復することが大きな課題となっている。
この計画の中では、再生可能なエネルギーの利用に向けた家屋の改築、コミュニティ農園の経営、都市と農村間の労働、交流の促進などが含まれている。こうした事業は、小規模のリサイクルセンターを運営したり、近隣の人向けに再生製品を生み出すなど、新たな雇用を生み出している。
また、郊外においては、グリーンシティプログラムが適用できる他、現在芝生にされているところを、農地に戻し、そこで家庭排水や家庭ごみを利用することで、農業の復権を実現することが重要であると言う。
このように、社会全体で「すべての生命を支える生態系の回復、維持に取り組める状況、それを作り出す政治的手段を確立すべき時期」がきていると、氏は考えている。それぞれのバイオリージョンで、リインハビテーション(新しい生活の確立)につとめる事が何よりも重要であり、まさに「地域を守ることが、地球を守ることにつながる」のである。

2ピーターバーグ氏によるワークショップ

参加者全員で、「地球にささげるコヨーテの歌」を歌うところから始まるワークショップは、大変ユニークで楽しめるものだった。
「我々は、我々自身の生活が地球と直接大きな関わりを持っていることを、認識することが必要であり、その第一歩として重要なのは、自分がどこに住んでいるかを、再確認することである」 「人間も動物の一種である以上、他の生物とともに、地球の生態系を壊さない範囲で生きて行く覚悟をすることが先決であり、そのためには生命地域という考え方が必要になってくる」ワークショップの冒頭で、バーグ氏はそう語った。
その後、参加者はいくつかの地図や図表をもとに、イメージトレーニングを行った。
オーストラリアやアメリカの地図を見て、水系や植生からなる、一つの生態系をリアルに感じる練習をするのである。
一例としては、イタリアにおいても、ポー川流域のバイオリージョンの取り組みが進んでおり、国境を越えた、バイオリージョンのマップ作りも行われているという事だった。
バイオリージョンによるマップは、それぞれの地域の川を中心に、かえでの葉のように広がった川の流域が描かれ、その特徴があらわされている。
例えば京都は、加茂川の盆地地域にあたり、その土壌は加茂川によって作られた、ユニークな特徴を持つ。その流域には固有の動植物が育ち、こうした自然、風土がその土地の特徴を形づくっているのである。
こうした感覚を、現代に生きる我々が、いかに取り戻していくか。
もっとも有効なのは、それぞれが自分の住んでいる地域の、バイオリージョンマップを作成してみることだと、バーグ氏は考えている。

3マップを作る

その後、参加者は、それぞれ自分の住んでいる地域のマップ作りを行った。
まず初めに、自分の住んでいる家を、紙の中央にマークする。そして、近くにある川、川の流域、はえている草、鳥、小動物などを書き込んで行く。
私自身は、この作業を行って、いかに自分が住んでいる地域について、無知であったかを思い知らされた。
このように、改めて身近なマップを作ることで、「自分たちの住んでいる地域の特徴」が明らかになってくる。さらに、自分たちの飲んでいる水、電気、がどこから送られてくるのか、廃棄物がどのように処理されているのかを、みなで話し合う。
その後で、地域の中で最も環境に悪いことは何か、それぞれが自分の考えを述べ、意見交換を行った。
このバイオリージョンのマップ作りでは、「自分がどう思うか」を表現することが、一番重要であると言う。
カリフォルニアにおいては、このマップをもとに、町で行う緑化活動や、山の復元作業、そこの地域の生態系に、もともとあった木々を復活させる運動などを、行っている。
「地域を守ることが出きれば、地球を守ることができる」バーグ氏の言葉は、大変印象的であり、今後ともバイオリージョンに関する理解を深め、出来るところから取り組んでいきたいと思う。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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