論考

Thesis

高齢者福祉の新たな視点

■わが国の高齢化の現状

 WHO(世界保健機構)では、全人口に占める65歳以上の割合が7%を超えた時、「高齢化社会」と定義している。14%では「高齢社会」となり、さらに25%では「超高齢化会」としている。
 このWHOの基準で日本の高齢化率を見ると、1995年10月1日現在の国立社会保障・人口問題研究所(旧厚生省人口問題研究所)発表「日本の将来推計人口」の実績値によれば、65歳以上の人口は1828万人で全人口の14.6%を占めた。
これは、国民の約7人に1人が65歳以上の高齢者になる数字だ。地域別で見ると、すでに30%を超える町村が20以上もあり、年々その数は増え続けている。日本はすでに高齢社会を迎えている。
 日本の高齢化上昇率は、欧米各国の緩やかな曲線を描いて推移しているのに比べ、ここ数十年の間に急激に進んだ。大蔵省の資料によれば、高齢化率が7%から14%になるまでに要した期間は、スウエーデンが約85年間でドイツが約45年間に対して、日本はたったの24年間だ。これが「日本は、人類史上始まって以来のスピードで高齢化が進んでいる」と言われる所以だ。
1997年1月21日に前述の研究所が発表した中位推計では、2025年の65歳以上の人口は3312万人になり、高齢化率は27.4.%となる。なんと国民の約3.6人に1人が高齢者になる「超高齢社会」が到来する。

■国の取り組みと現状

 近年、その中心になるものが、1993年に大蔵・厚生・自治3大臣合意により策定した新ゴールドプランだ。総事業費は9兆円を上回る。1990年にはこれに先立ち老人福祉法を改正した。また先の国会では公的介護保険法案も通過させた。国も来る超高齢社会に対応している点は評価できる。
しかし、それだけでは充分ではない。と言うのは、高齢者が多くなれば年金や老人医療費は確実に増え、社会保障費が拡大し国家財政を圧迫するからだ。
 平成8年度の国の社会保障費は、14兆2879億円。一般会計でみると約19%を占めた。しかし、一般歳出で見れば実に33%だ。また、国債を除いた予算項目では「社会保障費」が一番多い。今後、高齢化率の増加に伴ってさらに増えることは必至だ。
今年や来年の国家予算がそれを顕著に物語っている。

■高齢者福祉への3つの提言

私は、超高齢社会を乗り切るキーワードの1つが、高齢者の「社会参加」を創出する政策であると思っている。そこで3つを提言したい。
1つは高齢者の雇用政策(高齢者雇用促進法)の実施だ。例えば社会に有益な事業を起こそうとした高齢者に対して、国・自治体が事業資金を融資したり優遇税制の措置を執るなど、べンチャー支援をして雇用の創出を図るのである。
2つ目は、高齢者の公益活動への支援の実施だ。ボランテイア活動などを通して社会貢献をしている高齢者や団体に対して、優遇措置を執り支援をする。いま国会で継続審議されているNPO法の制定がそれだ。
3つ目として高齢者の学校教育への参加を挙げたい。それは「クラブ活動」を教師に代わって高齢者に担当してもらうことだ。教師は教科指導・教科研究・学級経営など、業務が多岐に亘る。これらを教師が完璧にこなすことは不可能に近い。「クラブ活動」を学区内に住む高齢者に担当してもらうことは、教師の業務の一部軽減になり、生徒の高齢者の異世代交流にもなる。希薄になりがちな人間関係の是正にも繋がるだろう。
 「人は年齢に関係なく社会と何らかの形で関わりたい思いを持っている」と言わわる。これまで培った経験や能力などを発揮する場が、社会の中に少しずつ広がっていけば、高齢者が単にお上から面倒をみてもらうだけの引け目を感じさせる弱者的な立場から、自分も何らかの活動を通して社会のお役に立っているといった、貢献的な立場に変わることなるはずだ。
それは高齢者が「ありがとう」と言うだけの立場から、社会から「ありがとう」と感謝される立場に変わることを意味する。同じ「ありがとう」でも、どちらが人としての生きがいや生きる喜びをかんじるだろうか。自分に置き換えて考えてみれば自ずと分かるであろう。
高齢者が、第2の人生を生き生きと生活している姿は、我々若い世代の老後に希望を与えるはずだ。
このような視点に立って我が国の高齢者福祉を考えることは、とても重要なことではないだろうか。

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草間吉夫の論考

Thesis

Yoshio Kusama

草間吉夫

第16期

草間 吉夫

くさま・よしお

東北福祉大学 特任教授

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福祉。専門は児童福祉。

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