論考

Thesis

細胞都市序説6「ドイツのリサイクルと住民参加の手法」

藤沢市の運営する市民電子会議室(インターネットを使った住民の意見交換 ・提案システム)で、ごみの有料化が話題となった。議論のきっかけとなったの は、昨年10月1日から開始された黒いゴミ袋の不回収、取り残し施策だ。藤沢市も他の自治体同様、最終処分場の確保に頭を悩ませている。今度新しく供用が開始される女坂最終処分場の寿命は6~7年。これに続く最終処分場の用地確保の目途は全くついていない。そのため、分別の徹底、半透明袋 の導入、コンポスト容器の購入助成制度などを通じて、ごみの減量に努めている。
 ゴミ減量の一つの鍵が、製造者がゴミになる商品を生産しないことに、もう一つの鍵が、排出者による分別とそれにともなうリサイクル、再資源化にあることは、いまさらいうまでもないことだ。生産から廃棄まで、全ての段階において、産業界、市民、行政の協力体制を作ることが、ゴミの減量に繋がる。
 分別を徹底させるには市民ひとりひとりの自覚と努力が必要だが、単にモラルの向上 を訴えても、なかなか全員にごみ分別の意義を行き届かせるのは難しい。藤沢市が、黒いごみ袋の取り残し措置を決めたのも、市民意識の向上を狙っての窮余の策であったといえる。
 9月前半にドイツのフライブルグ市へ行って来た。フライブルグ市は、特に住民の環境問題に関する意識が高い町で、住民ひとりひとりが、ゴミの分別収集にもひじょうに協力的である。
 シュバルツヴァルト(黒い森)に囲まれた町は人口約20万人。町中を疎水が流れる美しい町である。そのフライブルグ市では、ごみがなるべく発生しないように工夫されている上に、徹底的な分別がされている。
 たとえば、スーパーで野菜を買うときもすべて量り売りだ。客は、自分たちで野菜の重量を量り、出てきたシールをはって、レジに持っていく。歯磨き粉などのチューブものは、日本のようにさらに箱に入れることはしない。循環経済法の下、リターナブル容器の使用もかなり普及しており、商店やスーパーマーケットには、容器の回収ボックスが必ず備え付けられている。
 さらに特筆すべきは、徹底したごみの分別である。
 茶色、緑色、透明の三色に分別されたビン(リターナブル不可のもの)・ガラス類、カン、紙ゴミ、金属類、埋め立てごみ、生ゴミなど、現在8分別による収集が行われている。このうちビン類やアルミ・金属類など4種類は、町中の辻辻にあるステーションで収集される。市民は、各家庭から出たそれらのゴミを、通りにあるボックスまで投げ込みに行く。
 埋め立てゴミ、生ゴミなど残りの4種類が家庭での個別収集方式になっている。各家庭に備え付けの規格品の大きなバケツに入れ、収集日にバケツを押して(タイヤがついている)通りまで持っていく。昨年までは、生ゴミは埋め立てられていた。今年の4月からは、巨大なコンポスト工場が稼働し始めて、フライブルグを含む近隣3自治体の生ゴミすべてが、このコンポスト工場で処理されるようになった。植木の伐採くずも収集車や、市民自身の手によってこの工場に運ばれてくる。分別が徹底していることは、この生ゴミの分析からもわかる。現在の生ゴミ中の異物(コンポスト化できないビニール、金属など)は、重量比でわずか数パーセントという。 決して簡単とはいえないゴミの分別に、なぜ市民が協力的なのか。フライブルグ市の住民意識が高い理由は、行政が彼らにふたつの行動原理をあたえているからである。ひとつは、パブリックな視点からの行動原理、もう一つは、インディビジュアルな視点からの行動原理である。
 パブリックな視点からの行動原理とは何か。それは、日常的な生活行動様式が地球環境に寄与しているという実感である。
 ドイツで環境問題といって最初に出てくるのは、「気候変動」である。都市交通問題への対応も、自然エネルギーの活用も、気候変動への対策として行われているといってよい。特にフライブルグは「気候変動」のキーワードの下、政策のほとんどが決められている環境自治体である。ごみ問題も例外ではない。フライブルグ市がここまで熱心にゴミの減量に取り組んでいるのも、ゴミの焼却処理を放棄したからなのである。
 フライブルグ市がゴミの焼却処理を放棄した直接的な理由は、町のシンボルともいえる黒い森が、酸性雨の影響により、枯死しはじめたからである。1992年、これ以上の居住環境の悪化を防ぐために、すべてのゴミの焼却処理を廃止し、埋め立て処理への転換を図った。そのために、最終処分場をできるだけ長期にわたって使用する必要があり、フライブルグ市はゴミを出さないシステムの構築に取り組んできた。
 一方、日本である。日独とも、最終処分場の延命の為、ゴミの減量に取り組む、という姿勢は同じである。しかし、かたや地球環境を守るために焼却処分の放棄を決定したのに対し、かたや基数ベースで全世界の8割にのぼる焼却炉を保有する焼却大国である。どちらがよりグローバルな視座に立っているか、どちらにより大義名分があるか、明らかであろう。
 それでは、行政が市民に与えているインディビジュアルな視点からの行動原理とはなんだろうか。それは、ゴミを分別・減量することが、個人個人に具体的なもの、お金になって還元されるということである。フライブルグ市のごみ料金は、残余ゴミ、埋め立てゴミの量で決定される。ごみをきちんと分別してリユースしたり、資源ゴミとして出すことによりリサイクルしたりするとその分ごみ料金が安くなる仕組みになっている。
 このごみの量は、収集に使用されるバケツのサイズと、収集の回数で決められてくる。各家庭では、少しでも小さいバケツで、少しでも少ない回数でごみを出そうと、熱心にごみを分別している。
 残念ながら、日本の行政はこのふたつの視点をまだまだ住民に提供しきれていない。それは、日本の国全体が、「ごみは焼却」という政策にあるせいでもあるし、ごみを企業や市民の自己責任にゆだねることに、心理的な抵抗感を持っているせいでもある。しかし、フライブルグ市はこの政策によって、ごみの大減量に成功し、CO2やNO2排出量削減により地球環境保護に寄与し、ごみに関わる支出をすべてゴミ収集料金のなかでまかなうことに成功した。
 ドイツにはドイツのやりかたがあり、それをそのまま日本に輸入してくることには、当然無理があろう。しかし、ドイツには日本が学び、そこから日本方式を発展させるべき、「思想」があることは間違いない。 行政改革のかけごえばかりが響く中、まずは市民の自助努力にまかせてみる。行政は、そのための環境づくりに徹する。自治体はそんな勇気を持ってもいいのではないだろうか。

Back

栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

Mission

まちづくり 経営 人材育成

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門