松下政経塾 The Matsushita Institute of
Government and Management

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2022年12月

塾生レポート

福祉共創コミュニティと社会保障ビジョンのありかた
宗野創/松下政経塾第41期生

 

序章

 「わたし、福祉って言葉苦手なの。でも社会保障制度っていうとピンとこないのね。」 長年地域の居場所づくりに取り組む大先輩の言葉だった。私ははっとさせられた。何気なく使っている言葉だったからだ。福祉という言葉は特別に困った人に対する「施し」のように聞こえうる。一方で社会保障制度というと人間的な関係性や温かみを感じない上に、福祉現場と圧倒的な距離を感じる。もしかしたら、私がこれらの言葉を何気なく使っていたのは、私が描いているビジョンが現状の「福祉」制度の課題を未だ十分に把握ができず、また制度論に終始してしまっていたからなのかもしれない。したがって、本稿においては現状制度の課題を検討したうえで、制度論のみならず全体的なシステムにビジョンを昇華させることを主眼におく。その鍵となるのがコミュニティの役割である。
 まずは本論に入る前に私の原体験からはじめたい。私は共働きの両親のもと育てられた。したがって、幼少の頃は三世代で暮らしていた祖父母にかわいがられて育った。そんな祖父母がそれぞれ、脳梗塞とパーキンソン病と診断をうけ、私たち家族にとって長い介護生活を経験することなる。人生には自分だけではどうしようもないことが起こる。私の問題意識の原点は、様々な事情を抱えた人々が直面している生活苦や家計苦を単純に自己責任と言い切ることへの違和感である。
 大学卒業後は銀行に就職した。お金を通してお客様の人生と向き合う中で見えてきたものは、現在の日本社会においては「誰もが」家計苦や将来の見通しの立たなさに直面しているという現実だった。一部の恵まれない人が生活に困っているのではなく、家計が苦しい契約社員、シングルマザー、家族の介護に悩む経営者など、もはや「誰もが」日々の生活の苦しさと将来不安と向き合っている。だからこそ、私は困ったときだけではなく、調子がいい時も悪い時も社会的なつながりや助け合いを感じることで、安心感に満たされる社会が求められていると考える。人々がいつも「おかげさま」と素直に想いあえる社会をつくることこそ私の志である。こうした生活不安を「共同の困難[1]」として国民全体が共有することで、ユニバーサルな社会保障制度と、その財源として支え合いの税制を構築することが当ビジョンの骨格である。前回のレポートである「地域実践からはじまる社会保障ビジョン~おかげさま社会への道程~[2]」では、その大枠を、国家、基礎自治体の制度面からそれぞれ整理した。以下がその施策群である。

α国家としての役割
・現金給付を中心とした基礎的な生活保障
・公正な税制への見直し
・幅広い税負担への合意形成と政策パッケージの作成[3]

β基礎自治体での役割
・福祉サービスの現物支給
・きめ細やかな伴走型対人サービスの提供、NPOなど市民活動の現場との日常的連携

γ福祉のための地方分権
・中央から地方への財源・権限の委譲
・最も身近な福祉拠点となるコミュニティの構築


ビジョンイメージ図(宮本太郎『共生保障〈支え合い〉の戦略[4]』p93図3-1を参考に筆者作成)

 以上のように、ユニバーサルな社会保障制度とそれを支える税制・財政を構築することこそ、これまでの私のビジョンであったのである。このビジョンを実現する際に、現状制度の課題となっているのが困りごとを「特定化」して支援せざるをえない現実である。


第1章 困りごとを「特定化」している現状

 前章におけるビジョンでは、ユニバーサルな社会保障制度の大まかな見取り図を描いた。その中で、ボトルネックとなっているのが、現状の制度が困りごとの対象者を特定化してしまっている点である。それは、現金給付を前提として基本的な生活保障を担う国も、福祉サービスの現物給付を担う自治体にとっても共通の課題ではないだろうか。本章では、研修での経験を交えつつ、国の住宅政策と、伴走型支援の整備と向き合う自治体財政の現状から両側面から検討する。

1.ライフコースを特定する住宅政策
 私は昨年よりボランティアで家計相談を行っている。子育てや転職で家計環境が変わり、収支に不安を抱える方が少なからずいる。お金の知識はお金持ちのためだけでなくみんなで共有するもの、という思いから活動をはじめた。
 活動を通して実感したのは、多くの若年世代(主に20~30代)にとって、居住費が家計のボトルネックとなっていることである。アフター・ハウジング・インカム(AHI)という指標がある。これは、収入から社会保障費や税金を差し引いた可処分所得から、さらに住居費を差し引いて算出される。住宅ローン返済者は1989年の可処分所得に対するAHIの割合が87.2%であったのに対し[5]、2019年には83.7%とローンの負担感が増していることがわかる[6]。また、家賃3万円未満の住宅に住む世帯の割合は1988年で47.6%なのに対し、2018年では17.5%と減少した。一方で、家賃7万円以上の世帯は、1988年では7.4%だったが2018年には25.2%と上昇している[7]。このように居住費の負担が家計をしめ縄のように圧迫していることがわかる。
 平山洋介は戦後日本の住宅政策が「定住」する住まいとして持ち家政策を推進する一方で、「仮住まい」とみなされてきた賃貸住宅などに住む単身者などへの支援を政策対象から排除してきた点を指摘する[8]。その上で、職場で勤勉に働き、結婚、子供を育てながら持ち家を持つという「ライフコース」を想定した政策モデルがその背景にあるとする[9]
 住居支援には家賃補助などの現金給付を行う住宅手当と、住宅現物を何らかの公的補助や行政の介入により市場価格より廉価で供給する社会賃貸住宅がある。日本においては、住宅手当は極めて限定されているにもかかわらず、社会賃貸住宅の割合は3.6%(2018年)に過ぎない[10]。社会賃貸住宅が20%以上を占めるオランダや北欧諸国、住宅手当が14%のイギリスと比較しても日本の住居支援はOECD最低水準であるといってよい[11]
 以上からわかるように居住費の負担を軽減していくことが重要であろう。そして、何より住まいは社会生活の基盤である。子育てや就職活動、高齢者の生活を考える上でも、住まいの充実がセーフティーネットとなることを改めて指摘しておきたい。
 平山は人々の選択がライフコースから無縁であることはありえないとしながら、複数のライフコース・モデルを発展させる政策を「ライフ・ニュートラル」と表現する[12]。政策対象を「特定の誰か」から「誰もが」に変えていくことが生活保障の根底をなす考えといえる。

2.福祉を特定化せざるをえない自治体財政の現実
 自治体財政の観点から対人社会サービス提供の余地を検討すべく、昨年10月から約5か月間、埼玉県深谷市役所企画財政部財政課で財政の将来見通し策定担当者として研修を行った。深谷市も人口減少に伴う税収減、膨らむ公債費等、全国の自治体で共通といえる課題を抱えている。


(撮影:深谷市役所担当者、業務中の筆者)

 はじめに指摘したいのは、福祉分野における対人サービスの財源として地方交付税交付金が機能している点である。地方公共団体の財政力を図る主要指標である財政力指数をみてみよう。財政力指数は地方交付税交付金の算定に使われる基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値の過去3年分の結果に基づく。この数値が、1に近づけば近づくほど、交付税算定上の留保財源が多いとみなされ、一般的に財源に余裕があると考えられる。
 深谷市は令和2年度0.77(県内40市中31位)[13]となっており、自主財源の確保という課題を抱えていることがわかる。こうした地方自治体を支えているのが、地方交付税交付金である。深谷市では、令和元年の歳入に占める地方交付税交付金の比率は11.4%[14]と、重要な位置を占めており、基礎的な行政サービスの財源に充てられている。
 地方自治体は、国とは異なり、通貨発行権を持っていない。国が特例法による赤字国債が発行できるのに対して、地方自治体は地方財政法5条により、水道などの公営企業の経費や普通建設事業費等に充当する地方債に起債が制限されている[15]。国では国債を膨張する社会保障費に充当することも一般化しているが、地方では同じ手は使えないのである。したがって、地方自治体の福祉事業にとって、地方税にとあわせて一般財源として利用できる地方交付税交付金は重要な財源となっている。
 実際、地域特性を生かしたきめ細やかな施策が必要となる福祉事業は、自治体負担の事業として構築されることが多い。例えば、コミュニケーションが苦手な児童が学校で学べる環境を整えるための支援員の増員や、障害者の認定を受けていない方への独自の就労支援などもこれらに該当する。これらに対応していくためには、地方自治体が一般財源を持続的に確保していく必要がある。
 深谷市は一般財源の確保に向けて地域通貨事業、農産学連携事業、アウトレット誘致・連携など様々な新規事業に積極的に取り組んでいる。それでも、1人の財政課担当の視点からみると、限られた予算・権限・人材の中では、「現状の福祉サービスを維持するので精一杯だ」と言いたくなってしまうのが現状であった。担当課が、より細やかな困りごとを想定した施策を立案しても、予算査定においては「いかに支援対象を特定してサービスを提供するか」を考え、予算を縮小するしかないのが現状であった。こうした観点からも、改めて、中央から地方への財源・権限の委譲の必要性を強調したい。
 財源に関しては、例えばスウェーデンでは個人所得税の大半が地方税であり、地方自治体の税収の多くを占めている。ストックホルム市では、コミューンへの税が17.74%、ランスティング(広域自治体)12.08%[16]となっており、自治体独自の判断で政策立案が可能である。また、権限に関して神野直彦は地域コミュニティ・地域社会・市民社会といった社会システムを基盤として、それに対応した基礎自治体・広域自治体・国といった統治機構を編成する重要性を説く。その上で福祉や教育という対人社会サービスは、機能性の観点、参加型の民主的な自己決定がしやすい点から基礎自治体が責任を持つ[17]。こうした自治体の適正規模の議論と、基礎自治体組織間の役割の明確化の必要性が改めて浮き彫りとなった。


第2章 制度における特定化をいかに乗り越えるか

 前章では居住支援や自治体の予算編成プロセスで対象特定化をする傾向が根強いことを指摘した。しかし、支援対象を特定しない、あるいは伴走型の支援は非定量的かつプロセス主義[18]で成果が見えづらいというのも現実である。
 そもそも普遍的な社会サービスとは何を指すのだろうか。誰にとっても必要な社会サービスを定義することは、社会サービスの最小公倍数を目指す逆ルートをたどることになりかねない。一方で、最大値をとれば、どれほど自治体に財源や権限を委譲しようと際限のないものになる可能性もある。すなわち、これらの普遍的な社会サービスには、本質的に「最も必要とされる人にいかに適切にサービスを供給できるか」という、最適性が求められているのである。
 こうした中で宮本太郎はコモンズというアセットを重視する視点を指摘する。コモンズは「誰のものでもなく、オープンで、多くの人がその存続に関わるが、その分、誰かが占有してしまう場合もあるようなアセット[19]」である。そしてコモンズの中で特に重要なのがコミュニティである。宮本は、現金給付、サービス給付、コモンズという複数のアセットが連携することで多様な困難に応じて最適な組み合わせが提供される[20]とする。人によって必要とされる最適な支援は異なる。そうであるならば、画一的な現金給付・サービス給付を提供するのみならず、生活の困りごとに対して最適な組み合わせのアセットをその都度組み替えて提供しなければならない。その際には、居場所支援などの福祉サービスの担い手として、地域のアクティブシニアなどを中心とした非制度的コミュニティが役割を果たすこともあるだろう。あるいは、住民が維持を求めている福祉サービスが民間・行政ともに管理が難しい場合、地域で共有管理することによって課題が解決するかもしれない。
 これまでの私の議論は、宮本の言葉を借りるならば制度としての普遍化を求めてきたのかもしれない。しかし現実に困難に「最適」な対応を行うためには、現金給付やサービス給付といった制度のみならずコミュニティをはじめとした様々なアセットまでを含むシステムが必要なのである。そうしたシステムを可能にするためにも、それらが成り立つ前提条件や基盤までをも含んだ全体のビジョンこそが必要なのではないか。こうした問題意識を持つ中で、次章ではスウェーデンでの研修を踏まえ、普遍主義に立脚した福祉国家を支える基盤は何かを論じる。


第3章 福祉国家の基盤とは何か―スウェーデンでの出会い

 私は7月、公営コレクティブハウスDunderbackens kollektivhus (ドゥンデバッケンス コレクティヴフース)を訪問した。コレクティブハウスとは「それぞれ個人のプライバシーを尊重した住まいがありつつ、豊かな共用スペースを持ち、時には一緒に食事をしたり、季節の行事を楽しんだり、子育てなどをする暮らしのこと[21]」である。日本でも北欧の例に習い民間のハウスがあるが、公営施設はない。訪れたのはストックホルム郊外に位置し、40歳以上の独居者向けの住宅である。共同のジム、サウナ、庭、DIYルーム、編み物部屋も完備。ガーデニング、食事、清掃、などのチームが存在し、住民はこれらに所属することで共同生活の一端を担う。中でもコミュニケーションの肝は食事である。平日は申し込めば食事をとることができる。一緒に作り、一緒に食べることが「共に暮らす」感覚を養うのだという。
 家賃は共同空間があるため相場より高めである。しかし利用者に話を聞くと、日常の中にちょっとした手助けや支え合いがあるため、総じて生活コストは低いという。


(撮影:通訳、左が筆者、右が代表のエリザベス氏)

 この住宅は公営不動産会社であるFamiljeBostäder(FB)が設立した。注目すべきは、市民自ら団体活動を通してアイデアを出し合い、計画段階から住まいの在り方をコミューンに提案して完成した点である。代表の一人であるエリザベス氏は「独り住まいで、孤独にならない生活を望んでいました。以前、ほかのコレクティブハウスでのボランティアを通して私もこのような環境で暮らしたいと思ったのです」と話す。住まいに関するルールは小さなことでも民主的な議論で決める。さらにエリザベス氏は社会的孤立が社会問題となっている現状を踏まえて、コミューンが主体的にコレクティブハウスの設置を行うべきであると主張する。
 私はこの体験から福祉国家スウェーデンの基盤を実感した。それはウェルビーイング、民主主義、主体性という三つの要素である。ウェルビーイングは誰もが自分らしく豊かに生きる権利がある、という考え方であり、私が出会ったスウェーデンの人々が必ず口にしていた言葉である。また、ここでの民主主義とは「誰もが参加することができ、お互いに尊重され、意見が反映されていくシステム」であり、社会構成員はそのシステムを動かすために自らが主体的に行動している。政治の役割は人々が自身の価値観を実現でき、そのために行動できる環境を整えることなのだ。したがって、必然的に教育プログラム・若者施策もまた社会参加を促進するシステムとなっている。
 実際、スウェーデンではフェレーニングと呼ばれる民間の非営利団体による余暇活動が盛んである。35歳~54歳の成人の約7割、25歳~29歳の若者も同様に70%がこれらの団体に所属し活動している。団体には、住宅管理のための消費者団体や労働組合などの利益者団体、またNPOのような非営利団体など多様な自主組織としての形態がある[22]。こうした環境で育ってきた若者にとって社会参加はごく自然な営みなのである。
 両角達平は日本の教育や子ども・若者支援との決定的違いは「民主主義である」と述べる。その上で、「民主主義が理念として掲げられているだけでなく、それが高い投票率や社会参加へと結実しているのは、若者の現場だけではなく社会のあらゆる側面で民主主義が意識され、取り組まれている結果ではないだろうか[23]」と問いかける。
 確かに、先述した3つの基盤要素―ウェルビーイング、民主主義、主体性―を部分的に実践して活動している日本の団体もあるだろう。しかし、活動の現場で民主主義はどこまで実践されているだろうか。誰もが参加できる場である一方、一部の人の意見が通っていないだろうか。あるいは、よい目的の活動であっても、閉じられた空間になっていないだろうか。これらは、実践活動としてコミュニティづくりに参加してきた私自身への大きな問いかけとなった。
 時にコミュニティは非制度的な福祉サービスを提供し、困りごとの解決へ導く場として機能する。それとともに、スウェーデンでは余暇活動をはじめとする様々なコミュニティが福祉を支える3つの基盤を生み、育み、そして実践していくための場として機能している。次章ではこれらを踏まえ、日本におけるコミュニティの役割をケースごとに整理して、福祉システムの一環として求められる役割を再検討する。


第4章 日本におけるコミュニティの役割

ケース1.【地域福祉の担い手としてのワーカーズコレクティブ】
 昨年、私は「くらし」を支える地域型居住の取り組みとして、横浜市のNPO法人が運営する多世代交流サロンで実習を行った。当法人は空き家を活用することで、高齢者から子育て世代までを包括する支援を行っている。具体的には、高齢者にむけては介護予防事業の実施と孤立防止に向けた「通いの場[24]」として、子育て世代にとっては0歳から3歳の未就学児とその保護者・プレママが、気軽に集い遊べる場所「親と子のつどいの広場[25]」として地域に根付いている。身近な困りごとをサロンの場で共有することで、ある時は支える側のボランティアとして、またある時は支えてもらう側の利用者として、誰に対しても開かれた地域参加の場である。ここでは、一人でかかえこんでいた困りごとをはじめて誰かと共有する「窓口」として機能するだけではなく、日常的に接点を持つ地域包括支援センター等の担当者と接点を持つことで行政支援との「連携」拠点として機能しているのである。
 また、当法人はワーカーズコレクティブである。ワーカーズコレクティブとは、1.地域の困りごとなどに対して同じ思いを持った仲間が集まる非営利市民事業、2.必要な資金を自ら出資、3.全員が経営者として経営と結果に責任を持ち全員で働く、4.雇用形態を持たない[26]、という特徴をもった協同組合である。イタリアでは地域福祉の主要な担い手として1960年代以降運営されてきた[27]。民主的運営が行われることを前提であり、また当事者性が高い活動であることから主体性も高い市民組織である。したがって、運営に参加し、活動していくこと自体が「民主的な議論の経験」ともなりうる。
 一方、既存の団体は担い手の高齢化やメンバーの固定化の課題を抱えている。2020年に労働者協同組合法が制定され法人化が可能となったことを契機として、若い世代による身近な困りごとを事業化する形態として可能性が広がるかもしれない。

ケース2.【テーマ型コミュニティ×地域コミュニティ】
 一般社団法人リトルハブホーム茅ケ崎は地域で子育て支援・虐待防止に取り組む団体である。家庭で様々な背景をもつ子どもにとっては、何か困りごとがあっても安心して話せる大人や気軽に立ち寄れる居場所がないことが課題となっている。そこで「おむすび勉強会」と題して食事つき学習支援を定期的に実施し、家族と学校とは異なる関係づくりを行っている。現在はより緊急性ケースを想定したシェルター機能を持った一軒家での活動の準備を進めている。これは個別の社会テーマに対し、地域の住民と当事者意識を共有しながら一緒に解決にむけて取り組む拠点づくりといえる。ボランティアの多くが日常生活で意識することがなかったテーマに、この活動をきっかけとして取り組みたいと考える地域の住民である。それとは逆に、地域コミュニティよりも個別の社会テーマへの関心から活動に参加する方もいる。団体で活動をしていく中では現実的な課題も多い。ヒト・モノ・カネのほか活動アイデアや自治会の文化や慣習もその一つである。これら課題に対して地域の住民が自分でも何かできるのではないか、と自らの「役割」を実感することで、解決策にたどり着く可能性が開けてくる。


(撮影:団体スタッフ、左端筆者、一般社団法人リトルハブホーム茅ケ崎のみなさま)

ケース3.【気軽で楽しいサードプレイス】
 私は昨年2月から川崎市の飲食店天然素材蔵と連携して、社会課題を取り扱うワークショップを定期的に企画している。取り扱う課題は、子育ての孤立、ジェンダー、相対的貧困など月替わりで設定している。こうした社会課題と距離のある飲食店の顧客を主な対象として、普段利用しているお店で新たな発見が生まれる場を作りたいと思い立ち上げた。
 ワークショップでは社会課題の発見という目的もさることながら、参加者同士の新しい出会いが生まれている。自らと全く異なる背景や人生を歩んでいた他者と出会い、新たな関係を構築する機会となっているのである。これは自らを省み、また他者と共に生きることを実感する経験といえるだろう。他にもこの店舗では飲食店スペースを活用して、ゲームイベントや麻雀のネット配信など、「楽しくゆるく」つながる場づくりに取り組んでおり、活動の収益は子ども食堂などの社会活動に寄付している。
 ここでの活動は、家・職場と異なる「第三の居場所(サードプレイス)」に類似する。レイ・オルデンバーグはサードプレイスの特徴として、いくつかの条件を提示している。その中の一つが「遊びごころ[28]」である。私はある日、深刻な社会課題に関して話す際、ついつい眉間にしわを寄せて話をしてしまっていることに気が付いた。そうした空気は、異なる他者を寄せ付けない。誰もが気軽に参加できる楽しい関係がときに大切なのではないだろうか。
 宮垣元は「コミュニティをどのように創るかのみならず、ヒューマンサービスにとってどのようなコミュニティを創るか[29]」が重要だと説く。こうした観点からも社会課題―特に福祉課題―と接点を持っているコミュニティが多様に存在することの意義は大きい。次章ではここまでの議論を踏まえ、改めてビジョンの提示を図る。


第5章 福祉共創コミュニティ実践こそ社会保障システム実現の第一歩

 私は複雑かつ多様な福祉課題にむけて、主体的かつ相互性のある取り組みを行うコミュニティを福祉共創コミュニティと定義したい。その上で、民主的な福祉共創コミュニティを地域において百花繚乱に興していくことこそ、ビジョン実現への第一歩であると考える。その機能を大きく分類すると以下であると考える。
1.窓口機能:地域の多様な福祉ニーズが集まる窓口となる。
2.連携機能:多様な人材・アイデアを連携して複合的な福祉課題に対処できる。
また行政連携の場としても機能する。
3.教育機能:運営を通して対話経験(民主主義の経験)を積むとともに、これまで気が付かなかった社会課題への理解が深まる。
4.ゆるい繋がり機能:楽しくいつでもつながれる関係によって孤立を防ぐ。
5.役割提供機能:活動を通して誰かの役に立つやりがいを提供する場になる。
 前章で紹介してきた通り、これらの機能を一つの団体が満たす必要はない。民主主義的運営と福祉課題への接点を条件として多様な形態のコミュニティが生まれ、各々が役割を果たすことが重要であると考える。その結果として、身近な困りごとに対してコミュニティが最適な非制度的福祉サービスを提供することができる。さらには、こうした社会課題への認識がコミュニティから広がっていくことによって、国・自治体の制度が普遍化の方向に改善されていくという好循環を生み出す。
 その先に見えるのは、過度に危機感をあおり「競争」を強制することなく、生活の安心を基盤とした上で誰もが自由に挑戦できる「共創」社会である。ビジョンという一貫した長期的展望に沿って、国・自治体・福祉共創コミュニティが社会のエコシステムとして相互に機能すること。それこそ現在の日本に今もなお求められていることではないだろうか。


本稿におけるビジョン図(筆者作成)


おわりに

 当ビジョンではコミュニティを非制度的な福祉の提供者としてのみならず福祉国家の基盤となる―ウェルビーイング、民主主義、主体性―を生み、育み、実践する舞台としても定義した。しかし、これらの基盤が浸透するためには幼少からの教育の影響も重要であろう。例えば、スウェーデンの学校教育が社会教育・政治教育・自然教育に力を入れていることは知られている。本稿では十分に日本の教育について触れることはできなかった。今後、ビジョンを深めていく際に研修を重ね、検討をしてまいりたい。



[1]シュムペーター『租税国家の危機』訳 木村元一、小谷義次、岩波文庫、1983年、p24
[2]宗野創『地域実践からはじまるユニバーサルな社会保障ビジョン ~「おかげさま」社会への道程~』https://www.mskj.or.jp/report/3493.html、(2022年8月25日閲覧)
[3]井手英策『日本財政 転換の方針』岩波新書、2013、p142参照
[4]宮本太郎『共生保障〈支え合い〉の戦略』岩波新書、2017年、p93
[5]平山洋介『「仮住まい」と戦後日本―実家住まい・賃貸住まい・仮設住まい』青土社、2020年、p39
[6]総務省統計局『2019年家計構造調査 表番号1-39 世帯の種類(3区分),世帯主の性別(3区分),住宅ローン残高の有無(3区分),現住居の構造・建て方(13区分),収支項目分類(中分類)別1世帯当たり1か月間の収入と支出-全国』より筆者が算定。
[7]平山、p200
[8]平山、p10,11
[9]平山、p10
[10]平山、p247
[11]平山、p247
[12]平山、p163
[13]深谷市『深谷市の財政状況』http://www.city.fukaya.saitama.jp/shisei/zaiseiyosangyozaisei/zaisei/zaisei_yosan/1389849574665.html、(2022年8月24日閲覧)
[14]深谷市、(2022年8月24日閲覧)
[15]G-GOV法令検索『地方財政法(地方債の制限)第五条』https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000109(2022年7月28日閲覧)
[16]Stockholms stad HP 『Kommunalskatten』https://start.stockholm/om-stockholms-stad/sa-anvands-dina-skattepengar/kommunalskatten/(2022年8月16日閲覧)
[17]神野直彦『「人間国家」への改革―参加型の福祉社会をつくる―』NHKブックス、2015年、pp.170~175
[18]菊池馨実『社会保障再考―〈地域〉で支える―』、岩波新書、2019年、p70
[19]宮本太郎『貧困・介護・育児の政治―ベーシックアセットの福祉国家へ』朝日新聞出版、2021年、p21
[20]宮本、2021年、p28
[21]コレクティブハウスかんかん森 居住者組合森の風編『これがコレクティブハウスだ!―コレクティブハウスかんかん森の12年』ドメス出版、2014年、p2
[22]両角達平『若者からはじまる民主主義―スウェーデンの若者政策―』萌文社、2021年、p34
[23]両角、p183
[25]横浜市『親と子のつどいの広場』https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/kosodateshien/tsudoi/tsudoinohiroba.html、(2022年8月2日閲覧)
[26]東京ワーカーズコレクティブ協同組合『ワーカーズコレクティブって何?』https://tokyo-workers.jp/about_wc/、(2022年8月25日閲覧)
[27]小磯明『イタリアの社会的共同組合』同時代社、2015年、p37
[28]レイ・オルデンバーグ『サードプレイスーコミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』訳 忠平美幸、みすず書房、2013年、p91
[29]秋山美紀・宮垣元編著『ヒューマンサービスとコミュニティ―支え合う社会の構想―』勁草書房、2022年、p21
2022年12月 執筆
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