松下政経塾 The Matsushita Institute of
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2022年6月

塾生レポート

養育支援訪問事業の現場から

 現在、家庭訪問型の育児家事援助を行っているNPO法人で研修を行っている。保護者、子どもの区別なく、支援を受ける人たちが真に求めていることは何なのか。出会いを通しての学びについて簡単に述べていくこととしたい。

 

1 はじめに

 現在、東京都内にある特定非営利活動法人バディチーム[1](以下、「バディチーム」とする)において研修を行っている。バディチームでは子育て支援・虐待防止を目的とした家庭訪問活動を行っており、私自身のテーマとも大きく関わっている。指導ではなく、直接家庭に何らかの目に見える支援、伴走支援にどう向き合っているのか、これまで現場から得られた学びについて述べていくこととしたい。


2 養育支援訪問とは

 冒頭のタイトルで「養育支援訪問事業」というワードを使っている。まずはこのワードから説明していくこととしたい。この養育支援訪問事業とは、「養育支援が特に必要とされると判断された家庭に対し、保健師・助産師・保育士等がその居宅を訪問し、養育に関する指導、助言等を行うことにより、当該家庭の適切な養育の実施を確保すること[2]」を目的とされ実施されている。簡単に言うと、経済的な事情や、保護者の養育能力の不足、また地域からの孤立といった課題を抱える家庭に対して、定期的に家庭訪問を行い、相談対応や家事支援を行うというものである。
 2019年4月1日時点で全国1741市町村のうち、およそ9割弱にあたる、1529市町村で実施されている取組である。事業は相談支援と育児家事援助の2つに分けられるが、相談支援は1351市町村が実施している一方、育児家事援助については639市町村となっており、全自治体数の4割以下の実施率となっている[3]。私自身、かつて児童相談所に勤務していた際、4市町を担当していたが、育児家事援助を実施している自治体は1市だけであったと記憶している。それゆえ、保護者に知的障がいがあり、家の片付けができず、ごみ屋敷になっている家庭を訪問する度、「児童相談所の職員が訪問するより、実際に家事支援をした方が、家庭環境の向上につながるのではないか」と思ったものである。育児家事援助を実施しない理由として、私自身、当時関わりのあった自治体に尋ねたところ、「予算が取れない」とのことであった。厚生労働省によりまとめられた実施状況調査の結果を見ても、「必要がなかったため」が4割強となっている。一方、2番目の理由としては「訪問者の確保ができないため」となっており、育児家事援助を実施する時、自治体職員をどう確保するか、委託する場合においても適切に実施できる団体、業者をどう選定するかという課題が見える[4]
 上記のことを踏まえ、私自身、その家事育児支援事業に取り組んでいる団体での活動を通して、何か学ぶことができるのではと感じ、今回、バディチームでの研修を行うこととした。


3 バディチームでの活動

 バディチームは2007年に「養育困難家庭へのホームヘルプサービス」を目的に設立された団体である。養育困難家庭にスポットをあて、かつ育児家事援助を主たる目的として運営されている団体は全国にも例が少ない。というのも、養育困難家庭へフォーカスした自主事業のみでは事業収益が上がらず、行政からの委託に頼らざるをえないからである。
 バディチームでは数回にわたり、育児家事援助事業に係るボランティアスタッフの研修を実施し、子育てに係る基礎知識や対応、事故発生時の対応、現場研修など手厚い研修を設けている。私も研修を受け、育児家事援助の現場に“独り立ち”して入らせていただくことになった。
 個人情報保護の観点から、訪問したご家庭のことについて詳しくは述べることはできないが、訪問をする中で「この育児家事援助は“援助”ではなく、話を聞くことによって信頼関係を構築し、前向きに生活してもらうための糧なんだ」と感じた。どうしても「これはしてはいけない」「あれはダメ」とかつて児童相談所のケースワーカーとして勤務していた際は指導という名の下、相手の話は聞いても、ダメなものはダメという癖がついていた。もちろん、保護者も子どもも反抗する。一方で日々の生活のお手伝いをし、ただ話を傾聴するというだけで、支援される人からすれば救われるのではないか。具体的な援助を通して大きな学びを得ることができた。


4 おわりに

 この研修を通して支援者は1人だけでなく、複数であるべきだと改めて感じた。正しいことを伝えること、行政の立場からすればそれは重要であるが、ダメなものはダメと伝えるだけでは、支援を受ける人が途方に暮れる場合がある。逆に、支援を受ける人は、支援者に話を聞いてもらっただけで、救われたと感じる場合もある。支援者は、支援を受ける人の話に耳を傾けなくてはならない、話を聞いてもらえると感じさせなくてはならない。支援者と支援を受ける人の相性の問題があるかもしれない。そのためにも、支援者は1人ではなく、複数が望ましい。今後も様々なケースとの出会いを通して学びをより深めていきたい。



[1]NPO法人バディチームホームページhttps://buddy-team.com/(最終閲覧日:2022年5月30日)
[2]厚生労働省「養育支援訪問事業ガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/kosodate08/03.html(最終閲覧日:2022年5月30日)
[3]厚生労働省「養育支援訪問事業の実施状況調査」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000824854.pdf(最終閲覧日:2022年5月30日)
[4]同上
2022年6月 執筆
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