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2022年6月

塾生レポート

ソーシャルビジネス実践① ~ソーシャルベンチャーの立ち上げ~
坂田健太/松下政経塾第41期生

 

 先日、自治体経営について執筆する機会に恵まれた。『コロナ時代を生き抜く自治体経営論』(https://www.sunrise-pub.co.jp/isbn978-4-88325-757-7/)における第16章を担当し、「ソーシャルビジネスによる個人の幸福と持続可能な地域の実現」と題し、ソーシャルビジネスによる社会課題の解決の必要性とそれに伴う自治体のサービス・プロバイダーからプラットフォーマーへの役割転換を基軸として私見を著した。2022年度はそのような考えをより説得力のあるものにするため、私自身がソーシャルビジネスの実践者として研修・研究に取り組む予定である。そこで、本レポートでは実践の母体となるソーシャルベンチャー「一般社団法人Siis」(https://sii-s.com/)の立ち上げ編として、私たちのミッションやビジネスモデルについて整理したものを書き記したい。


1 私たちのミッション

 今回、一般社団法人Siisを立ち上げるにあたり2人の仲間が参画してくれた。1人は神奈川県庁時代の同期で、現在はギフトECのスタートアップでシステムエンジニアをしている今井雄彦(いまいかつひこ)。もう1人は松下政経塾の後輩で、関西電力㈱やスタートアップでの勤務経験もある伊崎大義(いざきたいぎ)である。私を含めた3人は、今後の日本創生において「地方」が1つのキーポイントになるが、その舵取り役となるべき地方自治体組織が非常に硬直化しているとの認識で一致している。その上で定めたミッションが「チームのイノベーションを加速するプラットフォームをつくる」である。そして、「チーム」のターゲットを地方自治体とし、「イノベーティブな地方自治体の実現をとおして、日本の未来創生に貢献する」ことをSiisの目指すべき当分の方向性として決めた。なお、勘の良い方はお気づきだろうが、“Siis”はメンバーの頭文字を取ったものであると同時に、イノベーションの“Seeds”を組織に生み出すことを目的とした事業目標のダブルミーニングとなっている。


2 解決したい課題とビジネスモデル

(1)下水道行政の現状と課題
 多くの自治体経営が厳しいことは周知の事実である。今回はその点に深く言及しないが、その原因の1つに公共施設・インフラのマネジメント問題がある。現在の公共施設やインフラの多くは昭和40(1965)年から60(85)年に建設・整備されたものであり、今後20年で耐用年数を超過する。とりわけ下水道行政の状況は厳しい。令和2(2020)年度末における全国の下水道管渠の総延長は約49万kmであり、標準耐用年数50年を経過した管渠の延長約2.5万km(総延長の5%)は、10年後は8.2万km(17%)、20年後は19万km(39%)と今後は急速に増加する見込みである。下水道事業に係る経費の負担区分は、「雨水公費・汚水私費」が原則(ただし、汚水処理に要する経費のうち、公共用水域の水質保全への効果が高い高度処理の経費等は公費負担とする)であるが、汚水処理費を下水道使用料で賄えている割合を示す経費回収率はおよそ80%であり、100%以上を維持できている事業者は1/4程度とされている[1]。使用料については、地方公営企業法第21条で「能率的な経営の下における適正な原価を基礎とし、地方公営企業の健全な運営を確保することができるもの」と記載のとおり、まずは多くの下水道事業においてその料金体系を見直す必要がある。

図-1 公共施設・インフラのマネジメント問題 (筆者作成)


図-2 令和2(2020)年度末 管路施設の年度別管理延長 (出典:国土交通省)

 しかし、下水道料金の値上げは全ての住民の生活に影響を与えるものであり、易々と行うことは当然にできない。仮に値上げした場合も、前述した下水道管の老朽化により維持管理費は今後ますます増える見込みであり、更なる値上げを求められることになるのは容易に想像がつく。この下水道行政を取り巻く極めて厳しい状況に、何かしらの貢献ができないか。Siisではこのような問題意識を前提に、事業を立案することとした。

(2)ビジネスモデルと提供価値

 そこで注目したのが「マンホール蓋」である。実は近年、マンホール蓋に対する注目度が高まっている。その理由としては、地元の名物やポケモンなどのキャラクターをあしらったデザインマンホール蓋の登場である。みなさんもお住まいの地域や出先で、そのようなマンホールを見かけたことがあるのではないだろうか。最近では、ご当地マンホール蓋をカードにした「マンホールカード」の発行や、年に1回全国から様々なマンホール蓋が集まる「マンホールサミット」も開催されている。


デザインマンホール蓋の例

 しかし、そのマンホール蓋自体も老朽化が進んでいる。全国にマンホール蓋は約1,500万基存在するが、そのうち少なくとも300万基が耐用年数を超過しているとされる[2]。実際にマンホール蓋による事故も多発しており[3]、私たちの足元の安全を揺るがしている。前述したとおり下水道管の更新にも苦慮しているなかで、マンホール蓋の更新まで手が回っていない地方自治体は多い。そこで、この問題を前段のデザインマンホール蓋を活用しながら解決するビジネスモデルを立案した。


図-3 一般社団法人Siisビジネスモデル(筆者作成)

 簡潔に言えば、マンホール蓋を広告媒体として協賛者には広告機会を、地方自治体には新たな歳入源を提供するものである。より具体的に説明すると、協賛者との関係性では①自治体への事業提案、②役所内関係課との調整、③各種申請手続き、④景観条例等に基づいたデザインの調整、⑤デザインプレート[4]の製造発注、⑥地方自治体への納品の全プロセスを包括的に引き受けた上で、広告料とデザインプレートの製造費用を協賛金として頂戴する。また、地方自治体との関係性では、マンホール蓋の使用許可を付与してもらう代わりに、役所のマンパワーでは難しい協賛者への営業を請け負い、獲得した協賛金をマンホール蓋の使用料として納付する。
 提供価値としては、まず協賛者としては①広告としての斬新さ、②行政との協働実績、③SDGsを意識した企業PRが考えられる。また、地方自治体としては、実質費用負担ゼロでインフラ更新費用を補填することができる。仮に1か所のマンホール蓋の年間広告契約を獲得できれば、おおよそ3枚の老朽化したマンホール蓋の交換が可能になる見込みである。それは結果として地域住民の足元の安全に寄与することにもつながる。協賛者・地方自治体・住民の三方良しの事業となるわけである。
 もちろん課題も多々ある。その点については、当該事業の実現可能性や実際に動き出してみて感じたハードル等も含め、次稿にて書き記したい。




[1]国土交通省水管理・国土保全局下水道部「下水道行政の現状と課題」
 https://www.mlit.go.jp/common/001257402.pdf(令和4(2022)年4月30日閲覧)
[2]一般社団法人日本グラウンドマンホール工業会HP
 https://jgma.gr.jp/(令和4(2022)年4月30日閲覧)
[3]2001年から2019年における下水道賠償責任の保険適用実績をみると2,721件の適用があるうちの40%がマンホール関連となっている。(日本グラウンドマンホール工業会HP「維持管理について」参照)
[4]図-3に掲載のデザインマンホール蓋の例で説明すると、一回り小さくキャラクターがプリントされている部分がそれに当たる。鉄蓋そのものは含まない。
2022年6月 執筆
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