論考

Thesis

日本を海洋大国にするための第一歩:国境離島の漁業振興

はじめに

 筆者は松下政経塾に入塾後、1年目の基礎課程において、同期42期との「捕鯨」をテーマにした共同研究が契機となり、水産業界に関心を向けた。実践課程に入った2年目、より良い水産業を目指し、日本が水産大国として生きていくためにどうしていくべきかを考え、主に国境離島の漁業振興を切り口に実践活動を行っている。

1、国境離島の重要性に気づかされた石垣島での研修

 排他的経済水域(EEZ)境界線の主張で揉めている事例はよくあることで、領海やEEZを死守するために、国境離島の存在意義は大きい。海洋国日本、離島振興なくして日本の振興なしである。

 今年の5月末、筆者は石垣島に向かった。台湾文化の流入ぶりや大陸がすぐそこにあるという地理的圧迫感を感じながら、八重山漁業協同組合の組合長、伊良部さんと総務管理課課長の真栄里さんから、尖閣諸島でのかつての漁業や鰹節製造についてお話を伺った。

 事業最盛期には248人が生活していたと記録されていたが、1940年には、アホウドリの乱獲や猫害などのため羽毛採取事業が中止され、鰹節製造業も燃料が配給制となり確保が困難となった。その後、工場が閉鎖されたために移住していた人たちも退去したことにより再び無人島となった経緯を知った。

 日台漁業委員会で話し合いを繰り返しても平行線の現状を嘆いておられ、「尖閣諸島に上陸できない」「実効支配を確実なものにしたい」とのコメントを聞いていて悔しく感じた。経営的に苦しく、利益が出ないから、人が離れてしまう。誰も日本人が住んでいないから、防衛やパトロールのために公的資金を投入し続けなければならなくなったわけである。

(八重山漁協の方々と)

2、南大東島と北大東島の漁業について

 排他的経済水域の基点ともなっている大東諸島は、八丈島出身者たちのサトウキビのプランテーション整備によって開拓された経緯がある。村内総生産全体の1パーセントにも満たない漁業・水産業は、正直なところ、産業と呼べる規模ではない。

 農業整備等の土木・建築が村内総生産の半分を占めており、インフラのハードウェアはほぼ出来上がっている。これからは水産業や観光業などの新しい事業振興に舵を切る時期であろう。漁業の側面からこの島々を見つめると、まだまだ成長できる伸び代があると思い、今年の6月に訪問し、各関係者の方々からお話を伺った。

 両大東島漁業の目下の課題としては、まず、漁業従事者や漁獲量の規模が小さいため、水産協同組合法に基づく正式な組織が作れないということである。そのため、南北大東島の漁業組合は任意の団体であり、漁業権も認められず、補助金などの手当や補助事業等に採択してもらうのも至難の業になっている。

 また、北大東島は、島の岩盤を掘り込んだ「掘削式」の避難漁港や水産加工処理施設、スラリーアイス製造設備などの整備導入、またヒラメとアワビの陸上養殖を始めたりと、果敢に新しい取り組みに力を入れている。結果として漁業収入が向上し、北大東島生まれの若い専業漁師が増え、彼らが釣り好きの友人を呼び込み、漁師の世代交代もできている。

 一方で、南大東島は北大東島より一足早く、上述した設備を導入しようとしたにも関わらず、うまくいかずに失敗した。そのため、そのような漁業ハードウェアがないため、かなりの遅れをとっている。しかしながら、設備だけでなく、漁業の基本である神経締めと血抜き処理に対する考え方も共有されておらず、魚の単価を高める努力が成されていない。

 村長をリーダーとする行政側は、なるべく漁業規模を大きくしたいので、南北一緒の体制を整えたいと考えているが、漁業を生業とされている方々は、漁のやり方が異なりすぎているため、今のままでは足並みを揃えるのは難しいと言われていた。

 実際、沖縄県最大手スーパー「サンエー」が両大東島で水揚げされた魚をすべて買い取っているが、北大東島からの魚には大東産、南大東島からの魚には沖縄近海産とラベルを区別し、買取価格も、北大東島の方が遥かに高い。

(飛行機の中から見た断崖絶壁の大東島の様子)

(船着き場がないので、クレーンで船の中からゴンドラで陸地にあがる。中にいるのは筆者。)

(「さとうきびは島を守り島は国土を守る」という標語に惹かれた。いまの時代は、さとうきびだけでなく、他の作物や漁業も島振興につながるはずだ。)

(シャーベット状のスラリーアイス)

3、見えてきた課題と解決策

 一般的に、離島周辺には豊かな水産資源が存在し、漁業が離島住民の主な収入源となるが、両大東島はそれに該当しない珍しいケースである。鹿児島県や宮崎県などから燃料代を使ってでも来る価値のある好漁場が周囲に広がっているにも関わらず、両大東島を基点とする漁業は地の利を活かせていない。そもそも漁業関係者が少ないためだ。

 筆者は、上記で述べたような、南北両大東島での漁業の現状を知り、スラリーアイスなど新技術を積極的に導入した結果、収入が増え、新規漁師にも増加がみられる北大東島はモデルケースになると考えた。

 しかしながら、実のところ、人口約550人の北大東島の漁業はうまく行っているものの、人口が微増したため、過疎地域から外され、過疎債などのこれまでの恩恵を受けられなくなっている。今後の島の発展には、国が主導して任意の漁業組合を正式な組織にし、漁民の経済的社会的地位の向上や水産業の生産力増進を図ることが鍵である。

 今回の研修において、大東諸島での事例から、今後の全国の漁業協同組合のあり方について、また、どのような役割を担っていくべきか、考えさせられた。漁協は漁業経営安定化にむけた事業展開を期待されているが、事業損失を計上する漁協が多いため、農水省は新たな漁業組合は作らせず、合併を推進している。しかしながら、離島同士が合併するメリットも少ないため、大東島のように、正規の漁協組合に属さない地域も多い。

 全国津々浦々で過疎が進む中、近隣で合併を繰り返して経営基盤を守っていくとしても、いつかは漁業者の減少で行き詰まる時が来る。そのため、南大東島と北大東島が、共有、共存できる組織を作り、漁場のポテンシャルを活かし、漁場利用を再編し、権利と責務を遂行できる法人団体になることがベストであると考える。共通課題を抱える日本全国の過疎地域への示唆となるであろう。

 また、国として、このようなEEZの基点となる、地理的に重要な離島の漁業管理ができていない状況を放置していること自体が、前述した尖閣諸島のようなケースを生み出す可能性を孕んでいるとも言え、筆者は大変危惧している。

 今後も、南北両大東島のみなさんと共に、課題に向き合い、様々なステークホルダーの潤滑油のように、塾生として、それぞれの立場を超越した話し合いをスムースに進められる働きをしていきたい。

おわりに

 大陸国家であるお隣の中国は、「海洋強国」と自らを位置づけ 、海洋プラットフォーム、海上移動式餌いらずサーモン養殖、海底資源の開発、空母建設など、海洋進出への欲望はとどまることを知らず、実力行使もステップアップしている。

 日本は世界第61位の国土面積の島国で資源には恵まれていないが、海洋面積は世界第6位で、深さを加えた体積では世界第4位だ。

 なぜ日本は堂々と海洋国家として戦略を打ち出せないのであろうか。国益を最大限にできるように、日本が持つ領海と排他的経済水域をしっかりと守って、水産物だけでなく、あらゆる海洋資源を利活用していける「海洋大国ニッポン」の国家百年の大計を作り上げたいと思った次第である。

 その一環として、今回は、国境離島と漁業について活動し、書いてまとめた。海に囲まれ、海洋資源に恵まれた日本にとっては、そこにある資源をしっかりと利活用する仕組みづくりを常に刷新していくことが背負うべき宿命である。

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松田彩の論考

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Aya Matsuda

松田彩

第42期生

松田 彩

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米中関係を踏まえた総合安全保障の探求

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