松下政経塾 The Matsushita Institute of
Goverment and Management

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2021年6月

塾生レポート

民間団体における子育て支援の現場から
冨安祐輔/松下政経塾第41期生

2年目に入り実践活動に入った私は、民間での子育て支援、そして事業運営のノウハウを学ぶため、地元福岡にあるNPO法人で現場研修をしている。今回は研修し始めて1か月ほどたっての振り返り、気づきについて報告したい。

 

1.はじめに~入塾までのことについて~

 先日、実家のクローゼットを整理していたところ、懐かしい物を見つけた。小学校時代の日記である。私が通っていた学校は日記を書くことが日課だった。1年生の秋から卒業するまで書いた日記の冊数は20冊を超えていた。いつも父と母に「日記に書くことがないから、どっか連れてって!」とねだっていたことを思い出す。日記を書くと毎回、担任の先生や教育実習の先生がコメントを書いてくれた。妹の子守をしたと書けば褒めてくれたし、母に叱られたと書いたら私と母を気遣うコメントが書かれていた。日記を読みながら「こんなことあったなー」と感じると同時に、家族や友達だけでなく、ご近所さんも登場しており、登場人物の多さに驚かされた。そういえば、ほんの20年前くらいまでは子どもたちが近所の人や知らない人に叱られる光景が見られたが、最近はとんと見かけなくなった。
 この20年程で地域の繋がりも希薄となり、子育ての環境も大きく変わってきた。“子どもの権利”が重要視されるようになったとともに、以前はごく一般的だったこと、例えば子どもの前で夫婦喧嘩すること、子どもを強く叱ることが心理的虐待と認定されるようになった。保護者は「あれをしてはダメ、これもしてはダメ」の状態で、抱えるものが増えてきた。法整備に伴い以前は役所が関わることのなかったような案件が急増し、児童相談所の職員は日々軽微な案件から重い案件まで毎日仕事に追われるようになった。そんな慌ただしい児童相談所で働く中で私自身、ある仮説を立てた。「子育て支援を地域で行うことを通して、マルトリートメント(不適切な養育)を防ぐことができるのではないか」。特に根拠がないまま、思い込みの状態で松下政経塾に入塾したのが昨年のことである。

2.認定NPO法人チャイルドケアセンターでの活動について

 入塾して1年経ち、実践課程に入った私は現在、福岡県大野城市にある認定NPO法人チャイルドケアセンター[1](地元ではチャイケアと呼ばれているので、以後「チャイケア」と呼ぶ)で活動している。チャイケアの大谷清美代表理事は私が福岡県職員だった際に仕事で関わりがあったので面識があった。いつもバイタリティーあふれ、「社会起業の現場で学ばせてもらうならこちらしかない」ということで、現場研修のお願いをしたところ快諾していただいた。チャイケアでの現場研修を決めた理由としてはもう1つある。「子どもを真ん中に、地域で育て、育ちあう」という経営理念(チャイケアでは「合言葉」と言っている)が自分の素志、ビジョンと重なったからである。事業運営のノウハウと子育て支援の現況を学ぶことがこのチャイルドケアセンターでの現場研修の狙いだ。
 つい1年前まで地方公務員だった私は、非営利法人の運営に必要なこと、ヒト・モノ・カネはどのように確保し事業運営をしているのか、さっぱりイメージが湧かなかった。行政から委託事業を受けて資金面を回しているんだろうといったザックリとした印象しか持っていない状態で「社会起業を通して子育てしやすい環境を作る」と言って入塾したはいいが、ある先輩から「どうやって君は生活していくの?」と言われた時には正直「しまった!」と思った。どうやって資金を回してくのかという視点がすっぽり抜けていたのである。そのためにも現場で生きた経営を学ぶ必要があると感じていた。
 ということもあり、「どうやって組織を回しているのか教えてほしい」と大谷代表に相談したところ、チャイケアで任せてもらったのが助成金の申請業務だった。助成金は国や自治体の他、財団などから公募されている。仕組みとしては、財団等が研究支援、体制整備など公益性が高いテーマを設定し、募集をかける。そのテーマに応じて応募者側が事業を企画提案し、書類審査、場合によってはプレゼンテーションを経て、採択されれば助成を受けられる。
 先日申請した助成金は、休眠預金を活用したものだった。助成額も数百万単位であり、人件費や固定費についても計上ができることから非常に魅力的な助成であった。休眠預金とは、2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金のことを指す。これを社会課題の解決や民間公益活動の促進のために活用するものである。今回の公募内容は、コロナ禍で影響を受けている子どもや家庭に対する事業の企画、実施であった。そのため、オンラインを活用した妊産婦の居場所づくり、子どもの体験活動、専門家への相談支援事業を企画し、事業計画書や資金計画書の作成を行った。事業計画書では事業実施の背景、社会課題に触れた上で、事業の概要、事業実施後に目標とする状態や成果目標の設定といった項目を埋めていくのだが、この資料作成を行うだけでも1週間程度を要した。こういった作業を人員規模の小さい組織が行うとするならば業務量も増加することになる。よって、ある程度人員体制が整った組織でなければ助成申請も難しいのではないかと感じられたところである。助成額が少なければ、提出書類も少なくなる傾向にあるが、非営利団体を新規に立ち上げて、基盤を拡大していくことの難しさを痛切に感じた。
 ちなみに今回の採択は5月末に決定するとのことで、その結果を今か今かと待っているところである。

3.こども食堂での取組

 そして現在、チャイケアが力を入れているのが「こども食堂」である。子どもの貧困対策の一環と捉える人もいるかもしれないが、チャイケアとしては子どもから高齢者まで全世代型の居場所として位置付けている。食堂といってもコロナ禍という状況に鑑み、テイクアウトで実施し、フードバンクから提供された調味料やお菓子もあわせて配布をしている(フードパントリー活動=食材を配布する事業)。この取組の鍵となるのがフードバンクである。地元農家の方、食品メーカー、小売店など様々なところから提供していただいたものを各こども食堂に分配をし、こども食堂での食材として活用してもらっている。こども食堂を運営する上でのネックが食材購入費や光熱費といった資金面である。フードバンクから得られた食材等を活用することで、定期的かつ継続的な活動が可能となる。そのため、フードバンクを設立し、活用する取組は非常に有用であるが、そのためには寄贈していただく企業や個人の存在が不可欠である。非営利団体で活動する上で、協力者の重要性を改めて実感している。

4 おわりに

 チャイケアでの現場活動を始めて1か月余りであるが、まだまだ自分自身、見えていないものが数多くある。本当に困っている、課題を抱えている人が支援にありつけているのか、また真に子育て家庭が必要としているのは何であるのか。これらを自らの目で耳で見聞きしない限り、今後、事業を形にすることは決してできないであろう。思い込みから始まった私の塾生生活ではあるが、これからも現場活動に取り組み、必要な支援の形を見出していきたい。


1. 認定NPO法人チャイルドケアセンターホームページ http://npo-ccc.net/index.html
2021年6月 執筆
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