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2020年6月

塾生レポート

子ども安心立国~松下幸之助塾主研究から考える国家百年の大計~
冨安祐輔/松下政経塾第41期生

松下幸之助塾主(以下、塾主)が目指した社会とは何だったのか。これまでの塾主研究で学んだことを生かし、私なりの「国家百年の大計」として述べたものが本稿である。未来を拓く明るい社会に必要不可欠なのが人であり、これから生まれてくる子どもたちである。私は国家百年の大計として「子ども安心立国」を宣言し、子どもが健やかに、そして落ち着いた環境の中で成長していくためにはどのような政策が必要なのかについて述べていくこととする。

 

はじめに

 「『百年先にはこうなる』という青写真をもってなきゃいかん[i]」これは松下政経塾第1期生に対して発せられた塾主の言葉である。本稿では、国家百年の大計として私が考え、実現させたい国のかたちとして「子ども安心立国宣言」と題して、塾主の理念を交えながら展開していくこととしたい。

1 子ども安心立国とはいかなるものか

 冒頭で私が実現させたい国のかたちとして「子ども安心立国」と述べた。まずその概要について話を進めていくことにしたい。その意図としては「子どもが安心して成長していくことができる社会の実現」と言い換えることができる。安心の対義語として、不安、心配といった言葉があげられる。不安、心配と言えば、犯罪や事故に巻き込まれないというイメージもあるかと思われるが、本稿では児童虐待やいじめがない社会と定義した上でそういう社会を実現していくためにはどのような政策が必要なのかについて述べていく。では次章では考えの根本となる塾主が考える人間のあるべき姿について触れていくこととする。

2 塾主が考える人間のあるべき姿とは

 まず人間とは何かということについて、塾主は「新しい人間観の提唱」において、「人間には万物の王者として、絶えず生成発展する宇宙に君臨し、万物を支配活用する偉大な権能なり役割というものが、その天命として与えられている[ii]」とし、「お互いにこの新しい人間観に立って、衆知を集めつつその偉大な本質を逐次発揮し、物心ともに豊かな共同生活を営んでいかなければならない、そこに人間の長久なる使命がある[iii]」と述べている。そして、「新しい人間観」に基づき人間の歩むべき道を考えたものが「新しい人間道の提唱」となるわけであるが、人間道とは「いっさいのものをあるがままに認めた上で、これを適切に処遇し、すべてをともどもに生かしていくということ[iv]」であるとし、「現実の人間生活の万般にわたって具体的にあてはめ、実践していかなければならない[v]」としている。
 その上で、人間道の実践にあたっては、礼の精神、すなわち「いっさいのものに対して感謝の心をもつとともに、その心を素直に表していく[vi]」ことが重要で、「現代に生きるお互い人間同士は、感謝にもとづく隣人愛をもって睦みあい助け合っていくということが非常に大切になってくる[vii]」と塾主は説いている。
 この睦みあい助け合っていくということは、思いやりの気持ちにつながるものであって、共同生活の基本的なものであろうと私は考える。『道をひらく』においても「有為転変のこの世の中、よいときにもわるいときにも、いかなるときも素直に謙虚に、お互いに心を通わし、思いを相通じて、協力し合ってゆきたいものである[viii]」と述べられているが、私人間においても、そして公と私人の間にもこの考え方が必要なのではないだろうか。個人主義の傾向の強まりや核家族化といった背景がある中で、地域のつながりが希薄となっているが、お互いを思いやって助け合う社会、そしてその助け合いの精神を持った人間を育てていくことが必要であると考えられる。

3 西暦2100年の社会を考える

 2100年の日本はどうなっているであろうか。国際連合の推計データによると、日本には14歳以下の子どもは2020年現在1570万人前後いるが、2090年には1000万人を割り、2100年には915万人となることが想定されている[ix]。総人口そのものも7500万人となることが想定されていることから人口比として全体の12.2%となり、2020年現在と比較して大差はない。しかし、人口減と高齢化が社会に及ぼす影響として、労働力人口減少に伴う経済規模の縮小や社会保障制度の崩壊[x]といったことが懸念されている。国の将来の発展のために子どもの存在は不可欠であるが、子どもを育てやすい環境を作ること、そして子ども自身が社会の一員としてふさわしい人格を持つことができる環境の提供が必要であると考える。
 その上で、子どもを育てやすい環境とはどのようなものであろうか。合計特殊出生率日本一の鹿児島県伊仙町にその鍵を見出すとするならば、家族や地域一体が子育てを応援する精神基盤や地縁を超えた支援の手が多数存在しているというところにあると考えられる[xi]。また東京都の調査に基づき子どもの保護者が子育てでどのように感じているか、それを紐解いていくと末子が0~6歳児の母親のうち、約75%の母親が「1人になりたい時がある」という項目に「よくある」「ときどきある」と回答しており、また約37%の母親が「子どもを叩きたくなることがある」という項目に「よくある」「ときどきある」と回答している[xii]
 また脳研究からの視点からアプローチすると、情動は生まれてから5歳くらいまでにその原型が形成されると考えられ、乳幼児期に感覚・知覚・認知・行動・睡眠リズム等が学習されること、この学習は感受性期と呼ばれる生後発達の一定の時期に生じることが明らかとなっている[xiii]
 以上の点から社会全体として保護者と子どもを支える体制、そして現在の義務教育のあり方そのものを改めて考える必要があると考える。

4 子ども安心立国を実現するための政策案

 先に述べた社会を実現するために、私が考える政策は2つである。それは、乳幼児社会養育制度の創設及び義務教育の見直しである。
 まず、乳幼児社会養育制度は、現在家庭保育を原則とする考えを改め、社会で子どもを養育するという考え方に基づき、0歳児からの保育園入園を義務付けるものである。そうすることで、朝から夕方までは保育園で子どもの養育がなされ、保護者に休息の時間を与えることができる。そうすることで保護者のストレスの軽減を図ることができ、育児ノイローゼの発生予防、そしてひいては虐待発生を未然に防止することが可能となると考える。労働基準法及び育児・介護休業法に基づく産後休業や育児休暇については、その枠組みを残した上で、保護者を社会でサポートする体制を構築するものである。
 次に、義務教育の見直しについては、現在満6歳から満15歳まで義務教育を受けることとなっているものを満3歳から満15歳までの12年間を義務教育とする提案である。いわば「3-6-3教育」とし、小学校、中学校に加え、幼稚園教育を義務教育化し、人間教育、道徳教育を3歳児から実施することによって、人を思いやる精神の醸成を図るものである。第一、指導というもののみで、人の持つ道徳力は向上するとは考えにくいことから、共同生活を行う中で、「自分がされて嫌なことは他の人にしない」「自分がされて嬉しいことは人にする」という考えの下、人間教育が施されることが望ましい。幼少期から人のあるべき姿を実践的に学ぶことによって、いじめといった意に沿わない他人を排除するという反道徳的な行動をしない人間性が構築できるものと考える。

5 政策案を実現するために

 政策の実現にあたってはどのくらい予算がかかるかを明確にしなければならないが、先に述べた政策案を実施するにあたって、最終的に予算はどの程度必要となるのかについて言及していくことにしたい。
 乳幼児社会養育制度については、0歳児~2歳児までの子どもの数が2019年4月現在293万人[xiv]であることから、事業費ベースで1人あたり年120万円かかると推計[xv]し、算出すると3兆5千億円程度の費用が掛かることとなる。現行制度であれば、国庫負担割合が2分の1であることから、国負担として1兆8千億円が必要となる。またハード面での整備も求められることから、こちらについては基本的に空き家や小学校、中学校の空き教室を活用するとともに施設整備費や人材確保に要する費用として6百億円を見積もることとする。
 そして、義務教育の見直しについては、2019年10月から3~5歳児の幼児教育・保育の無償化が実現していることから事業費の増加は見込まないものの、こちらも幼稚園の体制整備費用として5百億円の予算を確保する必要がある。

  

終わりに

 本稿では「子ども安心立国」と名付け、私の考えを述べてきた。その考えの原点は、私自身の児童相談所での勤務経験に基づくものである。児童相談所で勤務する中で、虐待案件に関わることが多かったが、単に保護者だけを責めるのが是であるのか、保護者自身が置かれている環境にも目を向け、支援策を検討していくべきであると私は考える。
 あわせて子どもへのしつけ、規範教育というものも保護者のみがその責務を負うのではなく、公教育として確立をさせなければならない。塾主は「道徳は実利に結びつく」とし、道徳を守ることは人間関係が良くなる、精神的に豊かになるだけでなく、物的な面でも利益をもたらすものである[xvi]と述べている。
 保護者への支援と人間教育を充実させることによって、塾主の提唱した新しい人間道、礼の精神を持った人間の育成と思いやりあふれる環境の中で子どもが成長することができる社会を実現したい。

[i] 松下幸之助『リーダーを志す君へ 松下政経塾 塾長講話録』PHP研究所、1995年、p.242
[ii] 松下幸之助『人間を考える 新しい人間観の提唱・真の人間道を求めて』PHP研究所、2015年、p.129
[iii] 同上、p.129
[iv] 同上、p.158
[v] 同上、p.158
[vi] 同上、p.158
[vii] 同上、P.160
[viii] 松下幸之助『道をひらく』PHP研究所、1968年、p.77
[ix] 国際連合経済社会局「世界人口推計 2019年版」
https://www.unic.or.jp/files/8dddc40715a7446dae4f070a4554c3e0.pdf
 (最終閲覧日2020年5月31日)
[x] 内閣府「選択する未来」委員会「選択する未来-人口推計から見えてくる未来像- 『選択する未来』委員会報告 解説・資料集-」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/index.html
 (最終閲覧日2020年5月31日)
[xi] 内閣府「選択する未来」委員会「選択する未来-人口推計から見えてくる未来像-」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s5_15.html
 (最終閲覧日2020年5月31日)
[xii] 東京都福祉保健局「29年度『東京の子供と家庭』報告書(統計編)」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/smph/kiban/chosa_tokei/zenbun/heisei29/29houkokusyotokei.html
 (最終閲覧日2020年5月31日)
[xiii] 文部科学省幼児教育課「幼児教育の無償化の論点」 https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/zero_pro/k_5/pdf/ref2_1.pdf
 (最終閲覧日2020年6月12日)
[xiv] 総務省統計局「統計トピックスNo.109 我が国のこどもの数-『こどもの日』にちなんで-(『人口推計』から)」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi1091.html
 (最終閲覧日2020年5月31日)
[xv] 文部科学省初等中等教育局幼児教育課・厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課「幼稚園・保育所等の経営実態調査結果(収支状況等)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/163-1a.pdf
 (最終閲覧日2020年5月31日)
[xvi] 世界を考える京都座会編『学校教育活性化のための七つの提言』PHP研究所、1984年、p.169

【参考文献】
松下幸之助『道をひらく』PHP研究所、1968年
同『PHPのことば』PHP研究所、1975年
同『リーダーを志す君へ 松下政経塾 塾長講話録』PHP研究所、1995年
同『人間を考える 新しい人間観の提唱 真の人間道を求めて』PHP研究所、2015年
世界を考える京都座会編『学校教育活性化のための七つの提言』PHP研究所、1984年
2020年6月 執筆
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