論考

Thesis

研究生出願資格の統一を

研究生と一口に言っても、大学、研究科によって出願・選考方法が異なるのはよしとして、出願資格がケースバイケースというのは、どういうことなのだろうか。

研究生とは

 「研究生」は一般的にあまりなじみのない言葉なので、イメージしにくいかもしれない。
 いわゆる「研究生」とは、特段の法令上の根拠なく各大学の学則等に基づき認められてきたもので、大学の正規学生とは別に、1学期または1学年の期間、特定の専門事項の研究等に従事することを許可された者をさす。
 大学院修士課程入試は、留学生も一般学生とほぼ同じ試験を受けなければならないため、平たく言えば、大学院での研究活動、大学院入試の準備段階といえよう。専門分野の講義を聴講しながら、担当教官のゼミナールにも出席して、受験に備えるのである。

確立されていない出願資格

 研修先の財団法人アジア学生文化協会日本語コースでは、6月から大学院進学希望者に対して「大学院進学セミナー」と称する進路指導を行っている。私は、自分の研究もかねて国公私立大学大学院の研究科研究生の受験に関して、各大学院の研究科をたずねて調査を行った。
 調査を重ねていくうちに、「研究生」の取り扱いがつけ焼き刃的で、きちんと確立されていないといった印象が強くなっていった。

 ある国立大学大学院の6研究科を調べた結果、出願資格がかなり異なっていた。
 たとえば、「外国人(日本の国籍を持たない者)で、外国の大学を卒業した者、またはそれと同等以上の学力があると認められる者」とかなりおおざっぱに記述しているものがあると思えば、それとは逆に、学校教育年数を示して詳細に書いているものもある。(1)大学を卒業した者または卒業見込みの者、(2)外国において学校教育における16年の課程を終了した者、または終了見込みの者、(3)外国において学校教育における15年の課程を修了し、所定の単位を優れた成績をもって習得したものと本研究科において認められた者、(4)本研究科が大学を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者、のどれかの条件を満たすことを求めている。

中国のケース

 ここで、「学校教育における15年の課程」と「大学卒業と同等以上の学力」という点が問題になってくる。
 それは中国の場合であり、小学校5年、初中(中学校)3年、高中(高校)3年、大学4年の計15年のケースがある。これは、小学校を5年で終了したということで、学士取得については問題はない。

 もうひとつのケースは、学士の授与があいまいなものである。中国では、日本で短期大学に相当する学校を卒業しても研究機関である一定期間研究活動を行えば、研究生院(大学院)に進学できる。また、専科といって短期大学とも大学ともいえない専門学校に該当するコースがある。ここで専門科目を取得して、ある一定期間、研究活動を行ったり、専門職についたりしても、研究生院(大学院)に進むことができる。

判断は個別対応

 この二番目のケースが、果たして「大学卒業と同等以上の学力」といえるかどうかということが一番の問題なのである。各研究科によってこの判断が異なっているのである。
 なぜ問題なのかといえば、第二のケースが学位取得と同等ならば、研究生の試験に臨むことができる。しかし、認められなければ、大学受験から始めなければならないからだ。
 これでは、修士課程を修了するまでの年数が、なんと大学在学年数分だけ違ってきてしまうので、修士取得後の人生設計にも大きく影響を及ぼすことになる。
 その上、人生を左右する重要な判断が、来日してからでないと判明しない。3月に文部省専門家会議でまとめられた「留学生の入学選考の改善方策について」の中で、渡日前の入学許可を奨励しており、国立大学では初めて信州大学経済学部が中国本土で選抜試験を行ったところであるが、来日して大学もしくは大学院を受験することが、まだまだ日本留学の主流である。
 この点が、日本語コースでの学生募集および進路指導においても、非常に判断の難しいところである。

 調査の際に、この点について問いただしてみたところ、明確に学士取得が条件であると回答する研究科もあれば、個別対応である(受験資格を認める場合もある)とする研究科もある。なんとも釈然としない回答である。おそらく、留学生の応募状況、研究内容をもって判断するのであろう。

大学入学資格を得るには

 学校教育の年数に関して付加するならば、大学入学まで10年しかかからない国(フィリピン等)があるが、日本では大学院はおろか大学でさえ受験する資格がない。そのための救済策として、国際学友会日本語学校等の指定教育施設で教育を受ければ、受験資格が得られるとしている。
 しかし、5月に中央教育審議会でまとめられた「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の中で述べられている、18歳未満であっても大学入学資格を認める、いわゆる飛び級制度が確立されれば、この問題は解消するかもしれない。

地道な制度改革を

 先日、自民党「留学生問題に関する特別委員会」の委員の代議士にインタビューを行った。
 留学生問題に対する政策を検討してくださるのは大変ありがたいことなのだが、予算取りや目新しい政策ばかりに話が終始し、留学生問題の本質をとらえていないような印象を受けた。
 政治家としてのパフォーマンスも理解できるが、研究生の出願資格の整備といった地道な制度改革をひとつひとつ積み重ねていくことが、一番の留学生問題解決策なのではないだろうか。

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高野靖子の論考

Thesis

Yasuko Takano

高野靖子

第17期

高野 靖子

たかの・やすこ

東京大学大学院法学政治学研究科 助手・留学生担当

Mission

留学生政策、入管政策、移民政策、 国際交流、夫婦別姓、ワークライフバランス

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