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2019年6月

~誰もが生きやすく、働きやすく、暮らしやすい社会の実現のために~Life-Workによるまちづくり
松木香凜/松下政経塾第38期生

私は誰もが働きやすく、生きやすい社会の実現を目指して、子育て中の女性たちと地域での仕事に一緒に取り組んでいる。暮らす場が働く場となる、「Life-Work」によるまちづくりをキーワードに、お母さんの力を活かせる場づくりを考える。

 

1.ビジョン

 様々な立場の人がいて、皆それぞれの人々が自分の大切にしたい人やことのために日々努力している。少しでもその努力が報われるように、より幸せを感じられるように、誰もが生きやすく、働きやすい社会を私は実現したいと考えている。
 「幸福な国」として知られるデンマークを2年前に訪れた。多様な家族の在り方について調査をし、男女ペアも含めたジェンダーを越えたカップル・家族に話を聞いた。そこで誰もが「自分たちは幸せである」と言っていたことが非常に印象的であった。ヨーロッパ、特に北欧は手厚い社会保障があり、国連の幸福度ランキングを表す「World Happiness Report」[1]の上位の常連国である。日本人の私から見ても公的なサポートや恵まれた住環境は羨ましいものである。しかしながら、「幸せである」と思う理由を彼らに尋ねてみると「自分または自分たちが決めた暮らし、或いは働き方ができているところにある」というのである。その背景には、デンマーク国民や社会の自由と相互扶助・尊重の意識、自分の人生への責任感など様々な要素がある。さらに先述の国連のレポートによればデンマークが2013、2014、2016年に1位を取った際には「寛容度」と「人生の選択肢の自由」が高く評価されていた。加えて、国民の多様性への寛容さが大きいと考える。
 日本とデンマークでは国民性も慣習も、社会情勢や文化的背景も全く異なる。しかし、誰もが働きやすく、生きやすい社会という私のビジョンを考えた時に、デンマークで出会った人々の姿が思い出されるのである。
 「たくさんの選択肢がある中で、自分で選んだから幸せである」、そのように胸を張って言える人々が生きる国こそ、本当に松下幸之助塾主の言う「物心一如の繁栄」[2]が遂げられるのではないだろうか。

2.現状の課題

 上記のビジョンを実現するためには、人生の中でそれぞれの人に多様な選択肢が提供され、またそれを選ぶ力を身に着けることが必要になる。人生の選択はあくまで個人の持つ自由な権利である。しかし、そこで提示されるものが一つであるのか、複数であるのかは、社会の外部要因によって異なる。様々な選択肢があれば、より自分に合ったものを選ぶことができる。多様性が認められる社会であれば、本人の自由意志で決定できる。本人のためだけではなく、自由意志による選択を果たすことによって、その人の能力が最大限に活かされることになれば、社会貢献にも繋がることになるだろう。そこで、必要となるのがライフステージに合わせた、生活やキャリアの選択肢である。社会情勢が目まぐるしく変化する中で、これまでの日本型雇用慣行などの既存のシステムが合わなくなっていることは顕著になってきた。
 また、一方で自分の人生設計をする意識を正しく持つことが必要不可欠である。これまでとは異なる速さで変化する社会情勢の中で、自分がどのように生きていくのかを整然と考えることも求められている。AIやロボットの技術が急速に進歩し、今まで想像もしなかった選択肢が増えた時に自分にとってより良い選択ができる力を持つことが、充実した人生や幸福に繋がるのである。

3.活動の方向性と背景

(1)活動の方向性
 共働き世帯、家族が変われば今の状況だけではなく、そこにいる子どもたち、将来を変えられる流れを作ることができると考える。とりわけ、子育てをしながら働く女性、あるいは働きたいと考えている女性に対するサポートは、現在の女性の労働参加が進む中において、益々必要とされている。それに対応するため「人材の多様性」が有効であり、その多様性が労働生産性の向上に繋がると考えられている[3]。近年のグローバル社会においては女性が加わることにより、保育サービスの充実や育児休業制度の導入などこれまでの男性中心の働き方や職場環境から変化が起きてきた。人によって働く事情も条件も異なる様々な事情が生じ、個々の対応が必要になってきた。それは企業側だけではなく、働く人それぞれが自分のライフプランを考えることが必要となったということである。さらに、それを考える力の獲得、選択肢の提供が肝要であるだろう。

(2)背景
 育児休暇・出産を機に離職する人など、その人によって事情は異なるが、子どもを育てながらも働きたいと考える女性もいる。育児をしているからこその気付きや学び、できることや活かせる場所があるだろう。しかし、一方で幼稚園・保育園児や小学校低学年の子どもたちの生活時間と合わせた働き方ができる職はそれほど多くない。特に、都心から離れた所に住み、通勤に時間がかかる場合には、さらに働ける時間が減ることとなり、職場や条件の選択の幅は狭まる。もちろん、女性だけではなく男性やその親などの周囲の協力を得ることも重要ではあるが得られない、得づらい場合もある。または、そもそも子育てを優先させたいと考え、なかには以前の職から離れている人もおり、それぞれの理想とする働き方が異なる状況である。
 子育て中の女性の就業状況について、2015年に行われた出生動向調査の報告書[4]を基に紹介する。子どものいない既婚女性の72.8%、そのうち子どもを望む女性の77.7%が正規またはパート・派遣、自営業などの形態で就業している。また、子どもを産んだことのある女性の就業状況を下の図にて表す。


図1 出産後のライフステージ別の女性の就業状態の構成と平均年齢(2015年)
出所)国立社会保障・人口問題研究所(2017)「第15回出生動向調査」より筆者作成

 上記の図より、2015年において子どもを産んだことのある女性のうち、子どもの追加予定ありの人は52.7%、追加予定なしの中で末子の年齢が0~2歳の人は47.3%、3~5歳では61.2%、6~8歳では69.3%が就業している。そして、調査によれば1977年の調査以降、いずれのライフステージにおいても女性の就業率が上昇していることがわかる。すなわち、子育てをしながら働く女性は増えており、特に末子の年齢が上がるほど就業率が高くなっている。

4.現在の活動について

 現在、私は子育て中の働く女性に注目し、活動をしている。柏の葉キャンパス駅を拠点につくばエクスプレスの沿線地域を中心に親子向けイベント事業などを扱う株式会社CROSSASIAで、様々な子育て中の女性たちと一緒に働きながら活動している。その活動を「“まま”の働く場の創出」という視点から紹介する。

(1)mamaT(ままてぃ)
 株式会社CROSSASIAでは、つくばエクスプレス沿線の育児情報検索サイト「mamaT(ままてぃ)」[5]を運営している。このままてぃのサイトには、子育てに関する専門家によるコラムと主に子育て中のライターによって作成される記事がある。専門家も助産師や管理栄養士など、子どもを育てる中で生じる悩みや疑問を近くの専門家から情報を得ることで身近なものにしている。また、ライターによる記事ではそれぞれ沿線地域の子育て世代ならではの情報を集め、発信をしている。
 ライターも毎年募集を行い、ライター養成のためにカメラ講座などを開催し、これまでの経歴とは関係なく、投稿記事を書くことのできる環境を整えている。基本的には、ライター自身が興味のあることを書いているため、自分が子育てをする中で、気になることや欲しい情報を集めることができ、他の子育て中の人々にとっても同様の有益なものとなっている。
 編集側もまた、子育て中の女性であるため、その視点を持って必要な情報をダイレクトに提供することができている。さらに、ライターとのやり取りなどコミュニケーションをとりやすくなっている。

(2)ママサロン
 上のままてぃでは、親子向けのイベントも開催している。子どもとお母さんが触れ合いながら遊べると同時に、お母さん同士の情報交換の場としても機能している。参加者にはマンスリーフォトアルバムをプレゼントし、子どもの成長を見られるようにしているとともに、継続的な参加を促している。
 子育てに初めてトライしている人も、経験者の人々との交流によって親にとっては気分転換となり、また子どもにとっても普段とは違う遊びや場所で自由に楽しむことができる。
 ここでイベントを運営するスタッフ自身も、この地域の子育て中のお母さんである。参加者同士の交流時間には、スタッフも加わり地元ならではの情報交換なども行われている。現在は、ママサロンとしては柏の葉とつくばで開催されており、それぞれのスタッフも地域のお母さんが担っている。



ママサロン@ららぽーと柏の葉(6月13日)

5.活動での気づき

 一人ではないことの重要性を感じている。自分と同じような働き方をしている人の存在は安心に繋がる。子どもという共通点によってお母さん同士のつながりが作られ、同じような状況を共有していることで心のゆとりを感じているようだった。そこにはシビアさや競争の雰囲気を作り出すことは難しく、求められにくいものになる。その結果、どのように持続的に経営をしていく、あるいは仕事への考え方、働くことをどう意義付けるのかといったところに課題は出てくる。
  しかしながら、地域とつながる仕事には、そこで実際に暮らす人、より長い時間をそこで過ごす人の情報にも価値がある。特に、子育て中の人々は子どものために、その居住地域に関する情報も必要となるのでより詳しくなり、そのコミュニティの伝達能力は非常に高い。情報源であり、強い発信力のあるそのような人々を生かすことができれば、そのまちで暮らす魅力の向上につながると感じた。

6.今後の展望

 働く場、時間、働き方を選べる前提に立った上で、自分がどのようなライフ・キャリアプランを考えるのかが重要である。
 地域で子育てをするお母さんの力をその地域で生かすことによって、新しいまちづくりに繋がることになると考える。そのまちづくりへの関わり方も、これまでのように行政からでなく、また男性中心の枠組み設計ではない形づくりから入ることも可能になる。
 これこそが本当の「Life(暮らし)-Work(働く)」である。暮らしと働くを別にするのではなく、1日24時間をどのように設定していくのかが重要であるだろう。また、このような働き方、暮らし方があるという見本の1つにできればと思う。

[1] UN Sustainable Development Solutions Network (2019) Word Happiness Report 2019 URL:https://worldhappiness.report/ed/2019/#read (最終閲覧日2019年6月30日)
[2] 松下幸之助(1991)『松下幸之助発言集9』PHP総合研究所研究本部松下幸之助発言集編纂室(編), PHP研究所, p.171
[3] 柴田悠(2016)『子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析』勁草書房 p.102,p.114
[4] 社会保障人口問題研究所(2017)「第15回出生動向基本調査 夫婦の調査報告書」
[5] mamaT(ままてぃ)ホームページ URL:https://mamatx.net/ (最終アクセス日2019年6月14日)

参考文献
淡路富男(2018)『こうして流山市は人口増を実現している』同友館
柴田悠(2016)『子育て支援が日本を救う 政策効果の統計分析』勁草書房
国立社会保障・人口問題研究所(2017)「第15回出生動向基本調査 夫婦の調査報告書」
松下幸之助(2014)『人間を考える 新しい人間観の提唱・真の人間道を求めて』PHP研究所
     (1991)『松下幸之助発言集9』PHP総合研究所研究本部松下幸之助発言集編纂室(編) PHP研究所
UN Sustainable Development Solutions Network (2019) Word Happiness Report 2019 URL:https://worldhappiness.report/ed/2019/#read (最終閲覧日2019年6月30日)

2019年6月 執筆
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