論考

Thesis

新たなる市場・国防としての宇宙

人類初の月面着陸からまもなく半世紀を迎えようとしている。大航海時代には星を頼りに地球を知ろうとしていた人類はいまやその星を目的地に設定し、更なる未知へと足を進めている。

宇宙は遠い世界ではなく、われわれの身近な空間として存在し、人類全体にとって利益をもたらすと同時に、その利益を誰が享受するかという熾烈な戦いの最前線にもなりつつある。

本稿では宇宙競争のパイオニアであり、同盟国としてわが国の政策にも大きく影響をもたらし得る、アメリカ合衆国の宇宙政策に関わる歴史的背景と(2018年7月)現在の状況を紹介するとともに、同分野においてわが国の担うべき役割について考察する。

国防と宇宙

宇宙の歴史は安全保障の歴史と言っても過言ではない。

第一次大戦期に航空機の技術が高まり、陸・海に加え空が戦場となったように、第二次大戦を一つの契機に宇宙分野も発展の兆しを見せる。

ドイツ・ヒトラーはより遠くの目標を攻撃することを目的にミサイルの開発に注力、実際にイギリスやベルギーなどに向けてミサイルを発射している。当時開発を行っていたペーネミュンデ(Peenemünde)でプロジェクトに携わっていたのが「ロケットの父」として知られるフォン・ブラウン(Von Braun)であった。ドイツの敗戦ムードが高まった終戦期、フォン・ブラウンは米国に亡命、後の米国の宇宙開発を牽引することになる。時を同じくしてソ連はペーネミュンデの基地からミサイルに関する資料を押収、コロリョフ(Korolev)を筆頭にソ連の宇宙開発が進められ米ソの宇宙競争が幕開けを迎えることとなった。

脅威に後押しされた冷戦期の宇宙政策

1961年、時の大統領J.F.ケネディは一般教書演説で「アメリカは60年代中に月面着陸を成功させる」と宣言し、その8年後に実際にアームストロング船長ら3名の宇宙飛行士が月面に着陸、無事に帰還を果たした。その背景に高まるソ連の脅威があったことは誰もが知るところである。

上記ケネディの演説の4年前、1957年10月にソ連はコロリョフ主導で「スプートニク」を打ち上げ、世界で初めて人工衛星を地球周回軌道に送り込むことに成功する。想定外の技術力を見せ付けられたアメリカは政府だけでなく国民までもがソ連の脅威に怯え、国家を挙げて宇宙分野への関心を高めることとなる。

この“スプートニクショック”をきっかけに、宇宙のパイオニアを自負していた米国のプライドは傷つくとともに、改めて宇宙分野におけるリードを取ることを決意するきっかけとなった。

スプートニクショック後に大統領に就任したケネディは、宇宙での勝利が喫緊の課題であるとして国防省を中心に、軍事・科学・研究分野への予算を増額、Space Raceとまでよばれた宇宙開発競争に乗り出した。上記一般教書演説を行った1961年にはソ連が世界初の有人宇宙飛行としてガガーリンを宇宙に運ぶことに成功、アメリカへの大きなプレシャーとなっていた。冷戦期に過熱した宇宙開発競争は、米国の月面着陸を契機に表面的な落ち着きを取り戻すことになる。この時代を契機に世界は宇宙における技術発展が安全保障に直結することを意識せざるを得なくなった。

冷戦期世界の緊張が高まる中、1959年開催の国連総会において「International cooperation in peaceful uses of outer space(宇宙空間の平和利用に関する国際協力)」と題する決議が採択され、宇宙空間平和利用委員会(COPUOS: Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)が常設委員会として設置されることとなったのもこのスペースレースの過熱が影響しているものと捉えることができる。

アメリカにみる宇宙政策の歩みと現在

冷戦期に国家レベルで進めてきた宇宙分野は昨今、民間の躍進著しく、様々なかたちで成長を続けている。ビジネス分野で更なる宇宙活用の期待が高まる中、これまでに加え安全保障面においても大国間の競争が激化していることも事実である。

米国安全保障のインフラの7割以上(一部では約9割)は宇宙に依存していると言われており、GPSや気象観測などをはじめ、誰もが日常的に宇宙との関わりを持っている昨今、宇宙空間においてこのインフラを維持し守ることが国家の至上命題となっている。

現在米国(トランプ政権下)では宇宙分野の活用に関し、1) 産業(Commercial)、2) 探査(Civil)、3)軍事・安保(Security)の大きく3つの軸で語られており、本稿においては主に同盟国アメリカの安全保障分野における現状を中心に紹介する。

産業(Commercial)分野における変化

近年米国では、政府の積極的な民間活用、民間への投資が進み、市場への新規参入も活発になってきている。

盛り上がる民間活用

スペースシャトルが運用されるまではNASAはボーイングなどのサプライヤーによって宇宙船を独自に保有していた。現在は複数の企業とサービス契約を結び、打ち上げ機の所有権は提供側に残すことでリスクマネジメントをすると共に、市場の競争力を高める効果をもたらしている。スペースシャトル計画などに代表される、ISSへの宇宙飛行士輸送は、これまでNASAが予算提供し、すべての詳細なプロセスを管理し運行していたが、現在ではプロジェクトの目的のみをNASAが設定し、その目標を達成させることのできる契約者に対し予算が提供され実際の運営は契約者側が行うことが多くなっている。

現在ISSへの輸送に対してもこの方式が採用されており、2012年以降SpaceX社、Orbital ATK社等の民間企業が複数回のミッションを成功させている。また、これらの新規参入企業はこれまで以上に経済性の向上に取り組み、SpaceX社やブルーオリジン社はロケットブースターを再利用することで経済性を高めると共に、米国の国際競争力をも高める役割を担っている。

小型衛星

小型衛星の進化は、地球観測をこれまで以上に容易にすると共に、地球低軌道(LEO)による宇宙ベースインターネットを可能にするなど、新たなサービスを提供できるようになっている。例えばPlanet
Labs社は36個の小型衛星をLEOに配置し地上の画像情報を収集し顧客に売っており、これまでの高度からの撮影に比べより安価で撮像頻度の高いデータを提供することを可能にしている。近年では小型衛星の開発のスピードは需要の高まりにあわせて多角化しており、さまざまなビジネスチャンスにつながり、特にこれまで政府や大企業などしか手を出すことができなかった衛星が、小型化・低コストされることにより、研究者や民間企業などでも活用できるようになったことは市場の競争力を高め成長を大きく後押ししている。また、これら小型衛星の軌道投入に大きな衛星打ち上げの空いたスペースに小型衛星を搭載することで経費を削減することにも成功している。これまでのロケットによる衛星の軌道投入に加え、ヴァージンアトランティック社は民間機(747型機)の翼に小型ロケットを搭載し、高度1万メートルからロケットを発射するプログラムを進めており、これまで以上に大幅なコストダウンが可能になると見込まれてる。またロケット打ち上げによる衛星の軌道投入だけでなく、国際宇宙ステーション(ISS)から宇宙飛行士がロボットアームを操作して衛星を軌道に投入することもサービスとして提供しており、2015年には42個の小型衛星がISSに届けられている。

ロケット打ち上げ

これらさまざまな産業でのニーズの高まりと、衛星の小型化や多角化により、打ち上げビジネスも大きな成長を見せている。2015年にはアメリカで86回の打ち上げが実施され、うち83回で衛星の軌道投入に成功、86回のうち22回は民間の商業衛星を、64回は政府の衛星を搭載(うち数回は商用も搭載)し、26億ドルの市場規模となっている。国際的には衛星だけではなく、ISSへの補給線なども入れて、官民合わせて80億ドル規模の市場となっていると推計されている。

特にアメリカで打ち上げ産業が成長している背景には、1)NASAによるプログラムの民間移行、2)SpaceXなどに代表される民間の挑戦的な価格設定、3)小型衛星分野の成長や宇宙旅行への期待の高まりがあるとされている。これらの背景から宇宙港の建設も活発になっており、新たな産業として広がりを見せている。

これまで、宇宙港(射点)は政府により管理・運営されており、ケープカナベラルやケネディ宇宙センターから政府・民間の打ち上げを実施していたが、近年では民間で自らの宇宙港設置を進めており、連邦航空局(FAA)はこれまでに10港を認定している。いくつかの宇宙港では垂直ロケット発射だけではなく、翼の付いた機体で主に宇宙旅行を想定した機体の打ち上げもできる施設がすでに完成している。

上記を一例に、宇宙関連分野の産業的な成長は著しく、市場全体で3000億ドル程度の直接的な支出があり、その3分の2以上が民間マーケットとなっている。政府単体では800億ドル程度の市場になっており、その6割をアメリカ一国で占めている、当面はアメリカが宇宙分野におけるリードを続けるよう考えられているが、各国民間部門の躍進によりその構造も大きく変わる可能性を持っている。

現在世界には日本、アメリカを含め11の国(と地域)が独自に開発、製造、打ち上げ、運営を単体で実施、それ以外にも50カ国以上が衛星を購入・運用している。現状ではアメリカを筆頭にヨーロッパ、ロシア、日本が市場を支配しているもののここ数年でインド、中国が急速に成長を見せており、特に中国はマーケットのシェア拡大に積極的に動いている。また、アラブ首長国連邦や韓国なども商業宇宙産業に名乗りを上げ始めている。

宇宙分野技術の多くはデュアルユース技術であり、これらの技術が安価になればなるほど安全保障上の戦略に大きく影響をもたらすことになる。

宇宙探査(Civil)

国際協力のもと運営されているISS計画は世界15カ国が参加し、日本は最も大きな実験モジュール(きぼう)や補給船(こうのとり)などの形で参画しているが、アメリカの予算打ち切りが大きな契機となり、2024年にはプログラムの終了が見込まれている。もともと2016年に運用を終了し大気圏に再突入させることが想定されていたプロジェクトで、過去複数回の延長の経緯があるが、これまでとは違い、アメリカが明確な、かつ新たなるプロジェクトを掲げていることからISSの引退(または別の形での利用)の可能性が高まっている。

2017年、NASAは2030年までに人類を火星に到達させ、探査を行うための「ディープスペースゲートウェイ(DSG)」構想(後にプロジェクト名を”Gateway”に変更している)を発表。月の軌道上に宇宙基地Gatewayを設け、物資・燃料・人員の補給基地を設け、火星を目指すための基地とするもので、いわば火星を目的地とした高速道路のサービスエリアとしてGatewayを設置し、月(Gateway)はあくまでも経由地として火星を目指すプランだ。

このプランには火星到着までのプロセスを3段階に分け、具体的な準備や研究の内容を示している。計画では2018年からDSGの主要なパーツを順次打ち上げ、組み立てるとしている。また同時に火星の調査も進めており、その一環で2018年5月5日、カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地より火星探査機「インサイト」が打ち上げられ、探査の本格的なスタートが切られた。探査機は順調に行けば6ヶ月程度で火星に到着し、火星の内部構造を調査することとなっている。

Gatewayの完成後にはディープ・スペース・トランスポート(DST)と呼ばれる大型の施設を打ち上げ、DSGから先の星を目指す際の宇宙船として活用する考えだ。数年にも及ぶ火星への道のりに必要となるDSTは2027年に打ち上げ予定で早ければ2028年、遅くとも30年までには試験運用を開始する見込みとなっている。

また、火星探査にはNASAだけでなくSpaceX社などの民間企業も火星移住を想定したロケットの開発を行うとしており、そのコンセプトでは同型のロケットを使うことで、地球上の移動を飛行機ではなくロケットに代替することも想定されている。東京とハワイ間の移動は30分、地球上の移動は最も遠い場所でも30分以下にすることができる、としており乗客にかかるGや安全性、宇宙港の問題など様々な課題をクリアする必要があるものの、技術的には実現が可能なところまで来ている。

宇宙安全保障(Security)

2018年3月15日アメリカ太平洋統合軍のハリー・ハリス司令官(当時・2018年5月退役)は連邦議会上院の軍事委員会の公聴会に証人として立ち、宇宙における中国の脅威について証言をしている。司令官は証言の中で、「中国は宇宙兵器の開発を進めており、人工衛星破壊ミサイルや、軌道を利用した人工衛星破壊システムを構築しようとしている。また他国の宇宙作戦を妨害する地上配備型の設備やサイバー利用の宇宙兵器、エネルギー兵器などの開発も進めており、今後米国の軍事活動に大きな妨害、影響を与えうる」と発言。

また、同年6月米国国防総省のアシュリー国防情報長官が「近い将来、ロシアと中国は宇宙における兵器を保有する」と明言、米国諜報機関のトップが公の場で宇宙における中露の脅威について言及したのはこれが初めてで、アシュリー長官以外にも米国国家情報局コーツ長官が「世界の脅威評価」という報告書において中露の宇宙における積極的な活動に懸念を示しており、米国が宇宙安全保障に危機感・強い関心を持っていることが伺える。

大きな懸念としては宇宙に大きく依存しているインフラへの脅威が挙げられる。前述のように米軍のインフラの7割以上が宇宙に依存しているとされており、直接地球上の標的を攻撃しなくても、相手の宇宙アセットを攻撃することで相手の能力を著しく低下させることが可能になっている。実際にこれらの懸念を裏づけるように、アメリカ軍がGPS(全地球測位システム)を一切使わない戦争を想定し、陸軍では兵士に対し、紙の地図の読み方の訓練を再開すると共に、海軍では星を利用した自己位置測定及び航海の訓練を再開したことを公表。また、米国防総省の研究技術機関である国防高等研究計画局(DARPA)はGPS無しで機能する新世代の正確なシステムが必要との見解を示し、宇宙分野が国防にもたらす影響力の大きさが明らかとなっている。

米陸軍は主要な戦闘システムの70%を宇宙から送信されている信号に頼っており、他国からみれば自国で新たな対抗システムを構築するよりも、現在あるアメリカのシステムを妨害したほうが効率が良いことは明らかであり、米国における安全保障の課題となっている。

宇宙軍創設

2018年3月、トランプ大統領は遊説先の演説で、宇宙空間がこれまでの陸・海・空と同様に新たな戦場になるとして「宇宙軍」創設の思いを明らかにし、同年5月1日、ホワイトハウスの会見で改めて「宇宙軍」創設の意向を表明。同年6月18日には国防総省に対し、(陸海空、海兵隊、沿岸警備隊に続く)米軍第6の組織となる「宇宙軍」創設に必要なプロセスを直ちに開始するようこれまで以上に具体的な指示を出すなど、米国は宇宙の安全保障、宇宙軍創設に本腰を入れようとしている。トランプ大統領は指示の中で「米国を守るためには宇宙における優位性を保たなければならない」と語っており、冷戦期、本格的なスペースレースに乗り出したケネディの懸念を彷彿とさせる発言をしている。

現在米国軍における宇宙部門は戦略軍(Strategic command)の一部として空軍が所管しており、宇宙に依存するインフラや通信・偵察に関わる業務を担当しているとされている。

宇宙軍の創設には議会の承認が必要となるため、今後審議に時間を要すると考えられているが2018年6月の大統領の指示に先立ち、2017年には米国議会下院が2018年度のNDAA(国防権限法・National
Defense Authorization Act)に宇宙軍の設立を明記、可決させている。その後上院で否決されたため、軍の創設は実現していないが議会においてもこの流れが高まっていることが伺える。

宇宙デブリ(宇宙ゴミ)への対応

宇宙空間の活用が高まるのにあわせ、デブリの数も増え、衛星軌道が混雑するなどの課題が高まっている。宇宙空間を安定的に活用する上でデブリとどのように向き合っていくかが大きな課題となっている。

現在アメリカは日本、欧州、同盟国などと連携し宇宙状況監視(SSA)を実施、宇宙空間にあるデブリや不審な衛星の探知・識別を行っている。その一方で中国はデブリをレーザーで除去・移動する研究を積極的に行っているとされており、ロシアでは国営宇宙開発企業ロスコスモス(Roscosmos)がレーザーキャノンを使ってデブリ問題の解消を目指している。他方、中露のこれらの技術はデブリの除去以外に特定の衛星を破壊する兵器への転用が可能とされており、表面上は平和目的で開発を進めているが実際には宇宙における攻撃能力の開発を行っていると考えることもできるため米国は監視の目を強めている。

また、中国は2018年2月に新型のDN3ミサイルの試験発射を実施。防衛目的の迎撃ミサイルであると説明しているが、実際には前述の衛星破壊ミサイルとされており、アメリカの衛星はどれも射程圏内であると警戒。同月に連邦議会上院で公開された情報によると、中国は衛星破壊ミサイルの開発を進める一方、米国同様に宇宙軍の創設を進めているとしている。

アメリカ合衆国国家情報局コーツ長官は証言のなかで、「中国の目的はアメリカを攻撃することではなく、アメリカと同盟国の軍事能力を低下させることにある」と指摘しその脅威がこれまで以上に高まっていることに警鐘を鳴らしている。また、2017年12月に公表された国家安全保障戦略には、宇宙分野における自由な活動はアメリカの重要な利益であるとして、衛星に対する攻撃には断固たる手段で対抗することを明確にしている。

21世紀版宇宙競争における 日本の立場と役割

米国の宇宙における安全保障上の懸念は日本においても同様に危機感をもって取り扱われている。

安倍首相は2018年3月、防衛大学校の卒業式訓示で「サイバー、宇宙といった新たな領域分野に本格的に取り組む必要がある。専守防衛は当然の前提としながら、従来の延長線上ではなく真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めていく」と述べ、宇宙分野においても防衛力の整備を高める方針を示すと共に、「もはや、陸海空という従来の区分にとらわれた発想のままでは、あらゆる脅威からこの国を守り抜くことはできない」と強調した。

この流れを汲むように、同年7月小野寺防衛大臣はJAXAを訪れ、デブリ解析施設などを見学、「JAXAとの協力関係を強化し、安全保障目的の宇宙利用を深化させたいと述べた。あわせて年末に改定が予定されている「防衛計画大綱」において宇宙空間の活用を検討することが重要であると発言している。

安全保障目的の宇宙活用の促進

平成29年度の防衛白書において防衛を担う組織と実効的な抑止の一つとして宇宙空間における対応の必要性が明記されている。特に人工衛星の活用は地球上あらゆる地域への観測や通信が可能となり、我が国の防衛力を高める上で情報収集能力、指揮統制・情報通信能力の強化に欠かせないツールであるとしている。また、宇宙の秩序を守るうえで同盟国アメリカに加え友好各国と共同で宇宙状況監視(SSA)を継続し、宇宙インフラの安定的な利用確保を掲げている。

専守防衛を旨とする我が国においては防衛力の向上により積極的な宇宙技術の活用が期待されており、内閣のみならず国会の場においてもその活用に向けた法整備を進める必要がある。

また、これまでの陸海空の枠を超え、防衛のための宇宙活用に関し自衛官幹部などが各国と連携を高めることも積極的に行う必要がある。米国は2001年から米空軍宇宙コマンドにおいて概ね10年~12年先の未来(衛星攻撃など)を想定した宇宙空間における机上演習(シュリーバー演習)を実施しており本年2018年から我が国からも参加予定となっている。この演習にはアメリカに加えイギリス・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・フランス・ドイツが参加。国際的な枠組みで宇宙活用の秩序構築に日本が積極的に関与し続けることが重要である。

国際的枠組み・対話の牽引役として

2018年第二回国際宇宙探査フォーラム(International Space Exploration Forum: ISEF)が東京で開催された。ISEFは宇宙探査における国際協力の促進を目的とした閣僚級を含む政府レベルでの対話・意見交換の会合で、2014年1月に米国・ワシントンDCで開催された第1回会合を引継ぐ形で日本での開催となった。宇宙探査に関心を持つ世界各国・地域の宇宙分野の閣僚級を含む政府ハイレベルの関係者や宇宙機関長等が60か国から500名程度来日し本会合を実施。会議の成果は共同声明として発表されるとともに、宇宙探査における基本原則である「東京原則」を採択した。宇宙活用の原則の一つに”TOKYO”の名前が冠された事は大きな成果であり、日本の宇宙に対するコミットメントを世界に発信する上で大きな役割を担っている。宇宙空間のルールはいまだ整備されていない部分が多く、今後もISEF2で行われたように日本が国際的な枠組みや対話の牽引役としてプレゼンスを示し続けることが重要である。

民間の活用と宇宙広報

本稿の主題でもある国防としての宇宙活用の重要性はこれまで論じてきたとおりであるが、その推進には何よりも国民の理解が重要である。宇宙分野における政策や戦略の必要性を国民が理解し、サポートする体制を作ることが安定的な発展の基礎となる。そのために国家を挙げて宇宙分野に取り組む必要があることを様々な形で広報することそして、民間事業の発展を後押しし、多くの国民がその恩恵にあやかることのできる社会をひろく実現する必要がある。いまや携帯電話が国民にとって当たり前の存在であるかのように宇宙が国民一人一人にとってすぐそばにあるツールとして実感の持てる社会が宇宙分野の発展への理解を促進し、ひいては国防のツールとしての認識・価値を高めることが重要である。

参考文献・資料

H.R.2810 – National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2018(2018年度米国国防権限法)

https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/2810/text/eh#toc-HD6CAA416CAF74D1B9DE4FC89CF24A69F

US Congressional Research Service( http://www.crs.gov/ )

・The International Space Station (ISS) and the Administration’s Proposal to End Direct NASA Funding by 2025

・Threats to U.S. National Security Interests in Space Orbital Debris Mitigation and Removal

・Challenges to the United States in Space

・Changes in the U.S. Commercial Space Industry

・Commercial Space Industry Launches a New Phase

・Defense Primer Ballistic Missile Defense

・Space Exploration

小塚荘一郎・佐藤雅彦編著-宇宙ビジネスのための宇宙法入門(有斐閣)

WORLDWIDE THREAT ASSESSMENT of the US INTELLIGENCE COMMUNITY

(https://www.dni.gov/files/documents/Newsroom/Testimonies/2018-ATA—Unclassified-SSCI.pdf)

参照記事・ホームページ等

米国の宇宙交通管理(STM) に関する検討状況 – 宇宙政策委員会宇宙安全保障部会

http://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-anpo/anpo-dai26/siryou2.pdf

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深作光輝ヘススの論考

Thesis

Koki Jesus Fukasaku

深作光輝ヘスス

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深作 光輝ヘスス

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