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2017年6月

精神障害とは何か
土屋正順/松下政経塾第36期生

病気や障害を治療することは、病気や障害を抱える人が安心して暮らせるための手段の一つに過ぎない。何よりも大切なことは、みんなで寄り添いながら支えあい、安心して暮らせる街づくりにある。本当の意味での障害とは何か。地域での実践活動を通じて、私が実感することをまとめてみた。

 

 精神障害とは、一体何であろうか。これには大きく二つの概念がある。一つ目には医学的見地からみた概念だ。統合失調症、うつ病など、精神科における治療の対象となる疾患(病気)のすべてが精神障害とされる。二つ目は、障害者基本法における概念で、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当の制限を受ける者、とされている。私は、二つの概念の中でも、後者の障害者基本法の中にある「社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当の制限を受ける者」という文言にこそ、この分野における深い問題が横たわっていると思っている。医師にできることは病気であったり、障害による症状を抑えることである。それは、患者の苦しみを緩和することはできても、病気や障害を抱える人の生活や人生、家族が抱える悩みのすべてを解決できるわけではない。私たちが考えなければならないことは、「社会的障壁」を取り払うことである。
 近年、精神障害に苦しむ人たちが急増している。問題は、社会の中に障害を抱えた人たちの生活の場や職場、人とのつながりを得る場が少ないところにある。その理由はどこにあるのか。私は、自分が生まれ育った地域で、こうした障害を抱えた人たちに対して就労支援に取り組む、ある社会福祉法人の現場で約一ヶ月の現場研修を行った。そこでの研修で見えてきたものは、精神に障害を抱えた人々の居場所が、社会の中になぜ少ないのかといういくつかの理由であった。
 その中でも最も大きな理由は、社会の側に障害に対する理解が足りていないという点である。この現場で、就労支援を受ける通所者のほとんどが社会の側の無理解に悩まされているという現実と出会うことになった。例えば、身体や知的の障害と異なり、精神障害者は見た目には障害の有無がわかりにくい。それに加えて、病気や障害を抱える側も「周囲に知られたくない」という心理がはたらく。障害を公にすれば、差別の対象になるかもしれない。自分だけではなく家族までもが、どういう目で見られるかわからない。職場だけでなく、自宅の隣近所や引越しの際の賃貸契約で不利益を被ることも少なくない。しかし、障害を隠して生活や就労できるほど、症状は甘くない。病気や事故が原因で、感情のコントロールができず、人とのコミュニケーションがうまく図れない人。ある日、突然幻覚や幻聴、妄想に悩まされる人。
 もしも自分の働く職場に、住む家の隣に、精神の障害に苦しんでいる人がいたら、障害を抱えてはいない私たちは何を感じ、何を心がけるだろうか。この問いに答えられる人や、自らの良識どおりに行動できる人は今の社会にはほとんどいないのではないだろうか。障害を抱えた人たち、それを支える専門家、ご家族と出会い、そのご苦労を知る度に、自分ならどうするか?という問いと葛藤し続けた期間となった。まずは私自身がこの障害を知り、向き合うことから地道に始めたい。社会的障壁を取り払われるその日まで、長い道のりのスタート地点である。

2017年6月 執筆
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