論考

Thesis

わが国がとるべき経済財政政策を考える

今回示されたレポートのテーマは「わが国が取るべき経済財政政策を考える」である。よって、本課題に沿って、私が希求する日本の姿に言及しながら、この国が取るべき経済財政政策について、主にその方向性を中心に論じていきたい。

はじめに

 「やるべきことは分かっているんです。問題は、どう進めるかです」

 経済財政担当大臣を経験したある方の言葉である。円高、デフレ、高い法人税率、グローバル化、労働規制、環境規制、電力不足、少子高齢化等々。激変する国際社会の中で、様々な課題を抱える日本の経済財政。この国がとるべき施策にはどのようなものがあるのか。私が希求する日本の姿に言及しながら、この国がとるべき経済財政政策について、その方向性を中心に論じていきたい。

1 私が描く国のカタチ

(1) 「努力が報われる国」へ

 色々な巡り合わせというものもあろうが、基本的には、努力をすればするだけ、それに応じた結果に行きつく社会に私はしたい。例えば、遊びに興じて宿題をやらなかった者よりも、やるべき宿題をやった者が。やるべき宿題のみをやり、予習復習をしなかった者よりも、宿題と予習復習をやった者が。やるべき宿題と予習復習まではやったが自ら他の参考書をとることがなかった者よりも、それらをやった上で参考書を手に更なる自学自習に励んだ者が、それぞれ報われる世の中にしたい。もちろん、これはスポーツや武道、芸術などどの世界でも同様である。意志と能力さえあれば誰でもやりたい事に打ち込める環境づくりを私は進めていきたい。

 「結果平等ではなく、機会平等を追求する社会」

 こうした社会を目指すことが、「世を経め民を済う」ことに繋がるのだと信じている。

(2) 「自他55(ごーごー)」

 「自他55」といっても選挙の議席の話ではない。「自助5割、他助5割」という、社会保障政策におけるこの国のあり方を示したものである。ちなみに、この場合の「他助」とは「共助」と「公助」の2つを意味しており、それぞれの割合は「3:2」で考えている。よって、自助・共助・公助という3つのウエイトを表現するならば、「自助:共助:公助=5:3:2」となる。
まず、何よりも基本になるのは、国民または市民自らが立つということである。自分の人生には、自分自身が責任を持つということである。これが「自助5割」の部分である。しかし、世の中には、様々な理由によりそれが本当に困難な方が大勢いらっしゃることも事実である。ある時までしっかりと自ら立っていても、災害や病気、事故など思いがけない出来事により、自ら立つことが厳しい状況に陥ることもあるであろう。そうした時には、やはり、他の者の力を集めて支えていかねばならない。それが「他助5割」の部分であり、「共助:公助=3:2」という部分である。

 「基本は国民自らが自らの人生に責任を持つ。しかし、やむを得ない時には、それを皆で支え合う。」

 私は日本という国を、そういう国にしたい。

(3) 「適度な政府」

 特に財政を巡る議論をすると、よく低負担低福祉の「小さな政府」を目指すのか、高負担高福祉の「大きな政府」を目指すのかという議論になる。二者択一で答えを求められるのであれば、私自身は「小さな政府」を志向する者である。しかしながら、同質性を重んじるこの国ではその志向がこの国の風土や文化には合わないという感覚も強く持っている。一方、消費税25%というような高負担をこの国の国民が許容できるとも思わない。よって、日本に合う政府の規模は、中福祉中負担を志向する、「適度な政府」だと私は思う。
 ここで一つ明確に言えるのは、少なくとも低負担高福祉である現状を是正しない限り、安定した社会保障制度は構築しえないということである。しかしながら、負担の度合いはさて置き、これまで国民皆保険や国民皆年金に象徴される「高福祉」を実現していた日本が「中福祉」へ移行するにあたっては、大きな政策方針の転換を図らねばならないことも事実である。よって、ここで、私が考える新しい政策方針を示したい。それは、「生活ではなく『いのち』を守る」というものである。国の役割の一つは、国民が幸せになれるようその基盤を整えることである。日本という国であれば、国民に「日本人でよかった」と思ってもらえるような環境整備をしていかねばならない。では、その前提になるものは何か。それは、「生活」ではない。そもそも生きること、すなわち、「いのち」を守るということである。

 「国民の『いのち』は何としても守る」

 日本という国は、今まで以上に、国民の「いのち」というものを大切にする国になるべきである。

(4) 「社会規範が守られる国」へ

 社会の規範というものを経済財政という側面から見た場合、それ維持するためには、ある原則とある義務を遵守する必要がある。それは、「受益者負担の原則」と「国民の三大義務」である。受益者負担の原則を遵守するとは、サービスを受けるのであれば、それだけの対価が生じるという社会生活の大原則を守るということである。また、国民の三大義務を遵守するというのは、納税の義務、労働の義務、教育を受けさせる義務を果たして初めて、国民は権利を主張できるということである。

 「権利があって義務があるのではない。義務を果たして初めて権利を主張できる」

 こうした言葉が自然と口にされる国にしたい。

2 経済政策私案

 日本の経済財政を前に進めるためには、大きく2つの課題に取り組まねばならない。1つは経済成長であり、もう1つは財政再建である。第2項では、前者の経済成長という部分に焦点を当ててみたい。 日本の経済成長を促す分野を見出すにあたっては、「世を経め、民を済う」という「経済」の語源の両方の言葉に関係するものとして、雇用の受け皿となる「産業」に着目してみたい。
 私は基本的に民間で出来ることは民間に任せるべきだという立場をとっている。よって、国による規制や介入は基本的には望ましくないと考えており、民間の力を信じ、各活動主体が伸び伸びと経済活動に従事でき、競争を通じてそれぞれは成長・発展できる環境を整えていくべきだと考えている。しかしながら、重要ではあるが、膨大な設備投資が必要であったり、コストや比較的短期手的な利益を優先する民間企業では着手することが厳しい分野については、むしろ「国策」として、政官民学が一体となって取り組んでいくことも必要である。それが特に、潜在能力を有しつつも未成熟な分野であればなおさらである。よって、ここでは、今後日本が「国策」として注力すべき産業分野を、特に我が国が多くの強みを持つ製造業に着目して考察してみたい。
 日本が今後国を挙げて注力すべき産業を選定するにあたっては、以下の4つの条件を設定したい。

① 雇用を生む産業
② 成長が見込める分野
③ 既に技術力の優位性があり、かつそれを中長期的も維持しうる産業
④ 潜在能力はあるが、政治的・社会的制約により未成熟・未発達な産業

 まず1点目については、やはり経済政策であるがゆえに、特に「民を済う」ものでなければならない。「民を済う」とは何か。それは、食い扶持、すなわち、雇用を生むことである。雇用を生む産業ということは、裾野が広く、超大企業から町工場まで、官民の研究機関から大学のゼミ室まで、様々な主体が関わることができる産業ということである。これを示す一つの指標として生産波及効果及び乗数効果が高い産業に着目したい。
 次に2点目については、投資をする以上、将来的に投資を回収できるだけの市場の発展が見込めなければならない。つまり、今後、グローバル化、すなわち、ヒト・モノ・カネの動きが国境を越えてより一層活発に成る中で、その環境を上手く捉えられる分野でなければならないということである。
 次に3点目については、技術力の優位性という点に着目している。わが国は、「技術立国」といわれて久しいが、白物家電に象徴される製造業においては、諸外国の追随により、大変な苦戦を強いられているのが現状である。しかしながら、“偏り”と“陰り”がみえる日本の技術力とはいえ、何十年という単位で脈々と築き上げてきた技術、しかも、基礎技術力やノウハウ、人材、資金力という意味で、多くの国には真似のできない分野もあり、ここではその観点を大切にしたい。
 そして4点目については、制度的または法的枠組みなどの環境条件が十分に整備されていないがゆえに、起爆剤に火がつく機会を逸している産業ということである。
 これら4点をいずれも満たしている産業がある。それが、「航空宇宙産業」である。その需要は、セスナに始まり、ビジネスジェット、旅客機、ロケット、そして、人工衛星に至るまで多岐にわたる。上記の条件①に関して言えば、その裾野の広さが特徴である。航空宇宙産業は、鉄鋼から電子部品、精密機械に至るまで各種の産業分野に横断的に関係する産業であり、その生産波及効果の高さは下図からも見て取れる(図)。またある資料によればその乗数効果も1.7とされる1。次に、条件②に関しては、グローバル化の進展によって航空機需要は益々増加することが予想されており、また何より、今後色々な意味で宇宙という領域へ進出することが予想される。その市場規模は50兆円に達するとも試算され、民間航空機分野だけでも今後20年間4%の成長を続けると予測されている2。続いて条件③であるが、宇宙開発の四文字が出ると、直ぐに、「多額の予算」というような表現で否定的とらえる傾向も一部でみられるが、だからこそ、世界第3位の経済力を誇る日本に優位性があるのである。他の国では生産どころから、開発すらままならない分野である。事実、衛星打ち上げ能力を保有している国は、世界約200カ国の内10カ国程度しかない。国の総力を挙げて、この分野に注力し、遅れている部分は追いつき、既に先んじている部分はさらに差を広げるべく、全力を挙げるべきである。「航空宇宙分野を代表する国といえば、日本」と世界で語られるようになれば、日本は「新たな食い扶持」を得たと言えるであろう。モノづくりの底力を見せる、格好の産業である。そして、条件④については、国内の空港においては、ビジネスジェットの利用に際して制約事項が多く、それを保持・活用する魅力に欠けるなど、国内のビジネスジェット需要を喚起しにくい状況にある。つまり、改善余地が多いということである。こうした規制を諸外国の状況も踏まえながら柔軟に緩和し、需要喚起を側面から支援していくことが可能である。

 如何に世の中が発展したとしても、「一家に一台セスナ」という訳にはいかないだろう。そういう意味で、航空宇宙産業は、自動車産業とは性質が異なる。しかし、戦後初の国産旅客機であるYS-11を世に送り出した後、未だに旅客機一機飛ばせないのが、「技術大国・ニッポン」の現実である。そうであるが故に、私は、ここに大きな可能性を感じている。何故、自らの力で飛行機を飛ばせないのか。それは、そこに未成熟または未発見の技術があるからである。今こそ、この「フロンティア」に国の総力を挙げて乗り出すべきである。

3 財政政策私案

 ここでは、経済財政を語る上でのもう1つの視点である、財政再建という観点から話を進めたい。その際、着手点を見出すために、一般会計予算の中でも基礎的財政収支対象経費の中で最大の割合を占める社会保障費に着目する。なお、データの統一を図るため、ここでは平成23年度予算を取り上げる。
 まず、平成23年度予算における社会保障費は約29兆円であり、これは一般会計予算のうち約31%を占める(図1)。次に、その社会保障費の内訳を見てみる。すると、年金が10.4兆円、医療費が8.4兆円となりこの両者で社会保障費の65%を占めているのが分かる(図2)。ここで、一般会計予算の中で最大の割合を占める社会保障費の中でも、特に大きな割合を占める年金及び医療に関する予算が今後どのように推移するのか、その予測を見てみたい。すると、2025年までに年金も医療費も更に支出が拡大することが予想されるが、医療に関する費用の伸び率(約1.5倍)の方が大きいことが分かる(図3)。これは、資料の中で予測されているGDPの増加分(約1.3倍)をも上回る。よって、今後増加圧力がかかる社会保障費の抑制を図る上で鍵となるのは医療費にあると言える。そこで、財政政策を考える際の着手点として、医療費に焦点を当ててみたい。

 医療費と言えば、「3割負担」という言葉を良く耳にするように、国が費用の大半を税金と保険料で負担していることは周知のとおりである。そこで、国の負担がどの程度保険料で賄われ、どの程度の資金が不足して税金が投入されているのかを確認してみたい。すると、5割強が保険料で賄われ、5割弱が税金で補填されている構図が明らかになる(図4)。ここで更に、社会保障給付費と社会保険料収入の関係を明らかにするために別の資料を確認してみたい。すると、特に平成8年以降、いわば収支に大きな隔たりがあることが分かる(図5)。つまり、社会保障給付費用を社会保険料収入で賄い切れず、年々、税金からの補填する度合いが大きくなっているのである。
 ここでどの世代が、どの程度の医療費を、どの程度の自己負担額と社会保険料を支払いながら利用しているのかを確認する。すると、45歳から徐々に利用額が拡大し、75歳になると急激にその拡大幅が増えることが確認できる(図6)そして、その際、特に60歳を境として保険料と自己負担の度合いに比して医療費が過多になることも分かる。

 これらのことから言えるのは、現在の制度が「身の丈」に合っていないということである。勿論、国民皆保険制度自体が素晴らしい枠組みである点には異論はない。しかし、その制度が機能不全に陥り、更には、違う形で国民への負担になるのであれば問題である。この点は、将来の世代のために、いかなる困難に出会うとも、早期に解決しなければならない。そこで、財政政策の私案として、末節ではあるが極めて重要な課題として、国民皆保険制度、その中でも特に医療費の「自己負担」という点に焦点を当てたいと思う。
 ここで、“そもそも論”として、「国のあり方」という点に立ち返りたい。私が描く国のカタチの一つは「社会規範が守られる国」である。すなわち、医療費に関連して言うのであれば、「受益者負担の原則」を遵守する社会である。医療は言うまでもなくサービスである。つまり、本来は、対価を支払うことで対価を支払った者が益を受けることができるものである。そうであるならば、本来あるべき姿は、保険料収入で社会保障給付費が賄える状況であるということである。それが現実的なものなのかは、不勉強な私には図り得ないというのが正直なところであるが、それにしても、そうした姿に近づける努力はしなければならない。さもなくば、「受益者負担の原則」が遵守“されない”ことになり、「社会規範が“守られない”国」になってしまう。「サービスを受ける者は、その対価を支払う」。こうした、ごくごく当たり前な姿を目指したいものである。
 それでは、ここで、上記の状況や思考を踏まえ、自己負担のあり方についての私案を提示したい。それが下記に示す図である。

 この私案のポイントは3つである。1つ目は、「受益者負担の原則」を尊重しつつ、「自他55」という私が提示しているあり方も加味し、医療費の半分は自分自身で負担するという「5割負担」を原則としている点である。2つ目は、「将来への投資」を重視した点。つまり、子供達の負担を軽減した点である。3つ目は、医療費の増加状況を踏まえ、45歳及び75歳で「区切り」を設けた点。つまり、医療費が比較的少ない15歳から45歳までは原則通りの「5割負担」であるが、統計上医療費の明らかな増加がみられる45歳から75歳までは、若干の負担軽減を図り「4割負担」に、そして、統計上医療費の顕著な増加がみられる75歳以降は、大幅に負担軽減を図った「2割負担」としている点である。私の試算が正しければ、この処置により年間3兆円以上の歳出抑制が可能である。
 さて、現行の「3割負担」を「5割負担」に引き上げると少なからぬ反発が起きそうであるが、そこは冷静に考えたい。例えば、「今日のランチは半額です」とか、「今お申し込み頂くと料金は50%OFFです」と聞いて、嬉しくない人はいるだろうか。恐らく、いないだろう。どの人も喜ぶに違いない。「医療費5割負担」と受け取るのではなく、「医療費半額」と解釈すればいいのである。受診という個人的な利益のために、半分も国がお金を出してくれる。こんな制度は、国が変われば、有り得ないことである。むしろ、感謝せねばなるまい。ましてや、自ら自らの行為に対して責任を負うことで、子供達や孫達、それ以降の世代の人たちの負担が少しでも軽減できるなら、こんなに喜ばしいことはない。私も三人の子を持つ父親として、子供達の負担は少しでも減らしてあげたいと心から思っている。要するに、発想の転換が求められているのである。「将来にツケを回し、自分達は楽をするか」、「自分達は少々我慢して、将来に期待するか」、その答えは明白であろう。

おわりに

 率直に言えば、完全なる門外漢の私が、経済財政を語ることは憚られる。しかし、経済財政が国家の基礎である以上、これらの分野と向き合うことなくして、私が「一生涯の軸」とする外交・安全保障分野も語ることはできないと判断し、強い抵抗感を有しつつも、何とか書き上げたのが本稿である。もしこの愚論をお読み頂けて、「あまりにも酷い」ということであれば、是非、ご指導を賜れれば幸いである。

【注】

1 “The Role of Aviation in the Economy and the Importance of Safety Regulation” Air Safty Support International PPT資料 http://www.airsafety.aero/assets/uploads/files/Role%20of%20aviation%20in%20the%20OT%20Economy%20without%20notes.pdf (2013.1.20アクセス)
2 「航空機分野」新エネルギー・産業技術総合開発機構、2012年 http://www.nedo.go.jp/content/100109960.pdf(2013.3.24アクセス)

【参考図書】

・西田安範編著『日本の財政 平成24年度版』東洋経済新報社、2012年
・湯浅 誠『ヒーローを待っていても世界は変わらない』朝日新聞出版、2012年
・N.グレゴリー.マンキュー著 足立英之他訳『マンキュー経済学Ⅰミクロ偏』東洋経済新報社、2005年
・N.グレゴリー.マンキュー著 足立英之他訳『マンキュー経済学Ⅱマクロ偏』東洋経済新報社、2005年

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廣瀬泰輔の論考

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Taisuke Hirose

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第32期

廣瀬 泰輔

ひろせ・たいすけ

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