論考

Thesis

大串正樹氏への手紙

・このレポートは大串正樹さんのレポート(97年5月号)への返事という形で書かせていただきました。先にそちらをお読み下さい。

 月例報告、興味深く読ませていただきました。大串さんの思考の中には、私にインスピレーション(というか、思いつき)を与えてくれる多くのヒントが含まれています。

 但し、よくよく考えてみれば,完全なるシステムは存在し得ない。あるものへの利 益は,必ず,他のものへの不利益である事を考えれば,政治そのものの不完全性が明白なのである。
 ここでいっている「完全なるシステム」とは、どういうものをイメージしているのでしょうか。私は、「完全な」とはいえなくても、ある特定の環境下で安定した(または調和的な)システムは存在すると考えます。システムにとって、必要なのは、「完全さ」ではなく「安定」と「ゆらぎ」のバランスではないでしょうか。

 現在の行財政システム(この言い方はまずいのかな?)の大きな問題点は、

  1. どんなシステムも必ず疲労する
  2. 外部(または内部)環境の変化に応じてシステム自体を組み替える必要がある

 などの概念が前提として 、用いれられていないことにあると思います。フィードバック機構、致死遺伝子、火の鳥、(昨年の大串さんの新人間講座に出てきたオーディオの話も同じ例えでしたね)、いろんな言い方があると思いますが、「システムに健全な状態を維持する機能」は、本当に必要だと思います。
 私の場合は、以下のふたつをキーワードにしています。

  1. 恒常性……ある程度の環境の変化に対してシステムを維持する能力。「安定」。
  2. 進化……限度以上の環境の変化に対してシステムを保護する為にシステムの組み替え、自己変革を行う能力。「ゆらぎ」。

 環境の変化を察知して、脳に伝える器官、感覚器がない(もしくは麻痺している)のが現在の行財政システムではないでしょうか。怪我をしても痛くなかったら?病気をしても熱が出なかったら?人間は簡単に死んでしまいますよね。痛みや苦しみを感じられるのは、大変ありがたいことです。

 さて、私も、
 あるものへの利 益は,必ず,他のものへの不利益である
と考えていました。特に都市計画、区画整理などの現場では、誰にとっての利益か、どれだけの空間的・時間的ひろがりを持った利益か、ということを常に意識していなければなりません。誰かの利益を必ず誰かは不利益と感じています。

 そこで、「じゃあ、みんなにとっての、共通点、共通の利益、共通の願いはないのだろうか」と考えました。たどり着いたのは、「みんな生きている」という事実でした。人間は生き物です。生き物は、みんな生きたがりです。生き物が死ぬのは、環境の負荷に耐えられなくなったときと(生物個体システムの外部からの崩壊)、(いろんな意味での) 寿命( 生物個体システムの内部崩壊)だけです。「人間は生物であり、社会システムは自然システムの一部である」という原点から出発したのが、「細胞都市 ~cell city~構想」でした。社会システムや都市構造に「健全な状態を維持する機能」を取り込むために、自然の持つシステムや生物体を手本にしようという考え方でした。

 国家と個人の関係について言及している「§4.システムの再帰性」は、そのまま自然と社会のシステムとの関係に拡張できないでしょうか。
 万物があり、自然があり、人間がいて、社会を、国をつくり、行政のシステムや多くのサブシステムをつくりあげたのだとしたら、どうでしょうか。自然のシステムがうまく働いているのに、人間のつくったシステムがうまく働いていないとするのならば、際限なく分化と内包を繰り返す中で、コピーミスが起きたのだとは考えられないでしょうか。

 私は人間をみたいと思っています。自然に学び、人間をみて、システムの法則(アルゴリズム)をつくれば、あとは自然に時間がフラクタルな図形を書き上げてくれると思うのですが。
 これは、非線形問題のひとつの解き方ではないでしょうか。
 長くなりましたが、とりあえず感想まで。
               雨の木曜日に
                         16期生 栗田拓

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栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

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