論考

Thesis

ドイツの循環経済法 ~リサイクルは設計段階から

1ドイツの循環経済法

 廃棄物問題は、原因者が特定しにくく、「私よりもあなたが、責任をとるべきだ」という議論になりやすい。この問題に対してドイツは、「ごみを出す人は誰か」に着目した法規制から、「ごみとして出てきた物」を中心とする法規制へと、根本的に法そのものを変えようとしている。
 86年制定の「廃棄物の発生防止.処理規制法」にかわるものとして、94年10月に「循環経済法」が成立した。これは、モノの危険性、分別のしやすさ等によって規制する、「モノ別規制」になっている。

 さらに、製造者及び販売者に「製品責任」があることを明確にし、それぞれの特定製品における具体的義務は、政令で定めるとしている。この製品責任は、道義的責任というよりも、「作った人でないと、処理の方法が分からないのではないか」という意味での責任である。
 製品の廃棄にあたり、最後にだけ処理しようとすると非常に難しい。そこで、設計段階から考えていく重要性が問われている。例えばダイオキシンの問題についても、プラスチックの処理だけでなく、どんな含有物をいれるか、そこから規制をしていくという動きが、ドイツでは既に始まっている。
 それぞれの「製品責任」については、特定製品を指定し、政令で定める事になる。
 91年には、包装材に関する政令と、それに基づくDSDという包装容器のリサイクルシステムが動き出した。

 この包装材に関するリサイクルシステムは、全くゼロからのスタートであったが、今国会で審議中の「自動車の政令案」については、現実に自動車のリサイクルに関わっている業者が多数おり、システム作りが難航している。現時点で検討されているのは、自動車、情報機器、バッテリー、(実施の方向でかなり進んでいる)建築廃材であるが、それぞれの対応は、かなり異なっており、まさに今生みの苦しみを味わっていると言えよう。

 自動車に関しては、96年2月に自動車業界が自主規制宣言をし、これを連邦政府が受領したことから、自主規制にそったリサイクルが行われる事になった。
 この自主規制は、1 乗用車の引き取りとリサイクルのためのインフラ整備 2 リサイクル率の向上(2002年85% 2015年95%) 3 指定した引き取り場所に持ち込まれた廃車の製造者による無料引き取り 等を骨子としている。
 検討されている政令は、自動車メーカーを対象としたものではなく、自動車の最終保有者に対する義務としての引渡し、及び証明義務、処理業者に対するリサイクル義務並びに証明義務を課すものとなっている。

 日本と大いに異なるのは、部品そのもの(ドア、エンジンなど)を扱う、中古市場が存在することである。又現在、保険を使って修理をする時には、中古以外は使えないようにする規制などが、政府と保険業界の間で検討されている。

 次に情報分野であるが、コンピュータ、ファックス、コピーなど、従来から比較的回収が進められていた分野において、検討がなされている。現時点では、政府と業界の間では合意が形成されているが、自治体の関与をめぐる議論がある。
 もともと自動車は別として、コンピュータなどは、一般ゴミとして自治体が回収していた。そこで連邦政府は、自治体もある程度負担すべきと考えており、これに自治体が反発している。
 費用に関しては回収時に負担を求めると、不法投棄につながりやすいとして、基本的には販売時点での上乗せを求めるという立場をとっている。
 意外にも日本に比べると、30%車の不法投棄が多いと言う。消費者に負担を求めるのは、現実的には難しいらしい。 エネルギーに関しては、基本的には自主規制により、石炭から天然ガスへの転換が進んでいる。天然ガスはコストも安く、北欧から簡単にひいてくることができる。
 EUでは、炭素税をめぐる議論があり、産業界は自主的に二酸化炭素排出量の削減に、取り組んでいる。
 7月1日からは、リッター50キロのエネルギー効率の良い車に対しては、自動車保有税を免税するなど、何段階かの環境基準にあわせて税を課すことになっている。
 循環経済法の成立過程であるが、緑の党が支持率を伸ばしており、これに対する与党の危機感も大いにあったという。コール首相が、初代環境大臣テッファーに対し「緑の党が言っているような事を、そのまま取り込んでしまえ」と、全権委任をして制定させたのが、この法律である。

2.ドイツのゴミ処理事情

 ドイツでは国内統一で、普通ごみはグレーの容器が配られている。
 持参ごみは、それぞれセンターに持って行き、包装材はDSDのイエロー、紙はブルー、ワンウェイびんは透明、茶、緑の三色に分けられた容器(イグロ)にいれる。
 DSDシステムは都市によって異なり、ボンなどは、自宅の前に黄色いイグロが置かれ、好きな時に捨てる事が出来る。これは2週間に一度、DSD社が回収にくる。

 一般家庭に貸与されているのは普通ごみと、生ごみの容器の二つである。
 生ごみは煮炊きしていない、じゃがいもの皮等を捨てる。これは、自治体が回収にきて、自治体のコンポスト工場に運びこむ。
 ドイツのゴミ政策には、3つの原則が在る。
 第一の原則は回避である。「発生段階から、ゴミになるものを回避する」
これは環境省も自治体も、力を入れて説明するところである。

 第二に、どうしても出てくるものを、リユース.リサイクルする。中でも、リユースが優先されている。

 そして第三には、どうしてもリサイクル出来ないものだけを、無害化して処理する。 しかしながら、日本では回避ではなく、最初から「リサイクル」の話をしている。
 本来必要なのは、最初からごみを作らない事を考える事である。環境ビジネスによって、企業イメージをあげるとか、そう言うことではない。地球全体の環境容量から、いかに資源.エネルギーの消費量を減らすかが、重要なのである。
 DSDのシステムの中でも、リターナブル容器について、96年のデータでは75%の飲料容器は、デポジットでなければならないと定められている。牛乳びんは、30ペニヒがびん代として含まれており、60回使用出来る。これはワンウェイに比べると、60倍ごみを作らない事になる。
 ドイツでは今後、枠組法である「循環経済法」にもとづき、17の州が個別の法律を作る。州においては、社民党と緑の党が、連立政権をとっているので、連邦法より厳しい内容になるケースもあると言う。

 ドイツでは、ゴミ処理は初めから有料である。自治体から貸与されるゴミ箱の大きさによって、料金が違う。市民にとっては、ゴミを出さなくしたほうが、経済的にもメリットがある仕組みである。
 ゴミが無料であると、市民にとっては、「ごみを出さなければ損」という意識が働く。 日本も今後は、いかにごみを回避するシステムを作っていくか、真剣に考えるべきで時期にきている。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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