論考

Thesis

日本語就学生を取り巻く問題について

「留学生」と「就学生」のちがいを知っていますか?
「留学生」は、誰もが想像するとおり、大学もしくはこれに準ずる機関(短大、高専、専修)で教育を受ける外国人をさし、「就学生」は、高校、各種学校で教育を受ける外国人をさすと出入国管理及び難民認定法(入管法)で定められています。
日本語学校で学ぶ外国人学生は、「就学生」に分類され、大学に入学すると「留学生」になり在留資格も変更しなければなりません。

また、「留学生」に関しては、文部省が管轄していますが、「就学生」においては、法務省・入国管理局の直轄管理です。一般には知られていませんが、外国人学生までもが複雑な縦割り行政の弊害を被っているのです。

驚くことに、就学生の日本在留資格申請に関しては、毎年、国によっては申請内容が変化します。そして、国によっては膨大な申請書類を出させ、手続きを煩雑かつ入国しづらくさえしています。

これには、歴史をさかのぼった説明が必要になりますが、1983年に中曽根内閣が「留学生受け入れ10万人計画」を打ち出しました。その年、留学生および日本語就学生に対し、アルバイトの規制緩和が実施され、翌年には、日本語就学生の入国手続きに関して、事前審査終了証制度が導入されました。

当時、日本の国際的地位の向上や90年までのバブル景気も加わって、日本語就学生として入国しようとする外国人が急激に増加し、これを受け入れる日本語教育施設が国内に多数設立されるようになりました。

それに並行して、本当の目的は就労であるにもかかわらず、日本語教育施設への就学を仮装して入国し、就労する不法就労という問題が発生してきました。また、日本語教育施設の中には、不法就労をあっせんしたり、在留期間の更新許可申請等の際に虚偽の記載を行った出席証明書を提出する等のずさんな管理を行っている施設も現れてきました。

そのため、法務省は、88年に定員を大幅に上回る数の入学許可証を乱発していた23の日本語教育施設に対し、日本語就学生の受け入れを認めない措置を取り、その後も入管法改正など日本語教育施設に対する強力な行政指導を継続しています。

現在は、不法就労者や不法残留者の多い中国、バングラディシュ、パキスタン、ミャンマー、フィリピン等に対して、在留許可に関する審査が非常に厳しくなっています。聞くところによると、中国人に関しては、10人中1人しか認可されないそうです。これらの国人に課す提出書類を積み上げると、3~4センチにもなり、当然チェックも厳しく、いかにして認定を許可しないかということに執心しているかのようです。

逆に、OECD諸国、韓国、台湾等に対しては、提出書類も簡素化されて数も少なく、ほとんどが認可されるそうです。これは、不法就労や不法残留の可能性が極めて低いということを根拠としています。

西暦2,000年までに留学生数を10万人まで増加させるという「留学生受け入れ10万人計画」が実現不可能な様相を呈してきて、今年の1月から文部省では「留学生懇談会」という対策会議を設け、法務省は4月から「入国の際の身元保証人制度」を廃止しました。

ところが、入国窓口である入国管理局では、特定の国から勉強しに来ようとする日本語就学生に対し、締め出しに近い対応を取っているのが日本の矛盾している対応であり、その実態です。

加えて、日本語教育施設に入れる(在留資格を得る)チャンスは、年に2度しかありませんし、入学手続きに、最低でも半年はかかります。その後も、日本語就学生には厳しい勉強の毎日、高等教育機関での学習を希望する日本語就学生には過酷な受験もが待ち受けているのです。

留学生数を増加させたいのならば、まずは、留学生の7割を輩出する日本語就学生の抱えている問題を解決しなければならないはずです。文部省と法務省の連携協力、日本語教育施設の法的整備、日本語就学生の留学政策への組み込みなど、難しい問題が山積していますが、ひとつひとつ解決させていけば、明るい展望が開けてくると考えます。

Back

高野靖子の論考

Thesis

Yasuko Takano

高野靖子

第17期

高野 靖子

たかの・やすこ

東京大学大学院法学政治学研究科 助手・留学生担当

Mission

留学生政策、入管政策、移民政策、 国際交流、夫婦別姓、ワークライフバランス

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門