論考

Thesis

小選挙区制度は政治改革の芽を摘んでしまうのか?

10月20日、衆議院選挙が行われた。「行革選挙」と言われた今回の選挙はもう一つポイントがある。むろん、従来の中選挙区から小選挙区比例代表並立制への変革が、いかに選挙結果に反映されるかだ。

 選挙結果はどうであったか。自民党が239・新進党156・民主党52・共産党26・社民党15・さきがけ2・民改連1。この議席配分をどう理解するか。

 その議論は一端置き、なぜ小選挙区比例代表並立制に移行されたのだろうか私なりの考えを述べたい。 それは「政治改革」のためである。

 「政治改革」のシンボルとも目された選挙制度改革法案を成立させたのは細川内閣。およそ30年余りに渡った自民党単独政権を倒して誕生した。従来の常識であった自民党総裁=内閣総理大臣の図式を崩壊させた同内閣は、設立そのものが既に革命的な事件であった。では細川内閣は誕生できたのか、それよりもなぜ自民党一党支配が終焉したのか考えてみたい。

 私は詳しい経過はもちろん当事者でないため知らない。また専門に研究してきたわけではない。しかしその当時、時代の空気を感じ、またその時代の流れに共感して生きてきた国民の1人として理解しているのは、長期に渡る自民党政権の構造疲労に対して、多くの国民が嫌気がさしたためではないか。言い換えれば自民党・官僚・財界・マスコミ界と繋がる日本権力システムが1955年以降、基本構造が不変であったため発生した「権力の癒着による腐敗」を拒否したのではなかろうか。

 それがアンチ自民党連合である新生・社会・さきがけ・民社各党に国民が負託を与えた大きな原因であり、連合体の紐帯としての適任者であった細川氏が首相に選出された理由であろう。

 国民の「権力の癒着による腐敗の拒否」の思いの上に立った細川内閣が、「政治改革」を自らの使命としたのは当然の帰結であった。

 では「政治改革」の中身は何であったのかもう少し考えてみたい。
 「権力の癒着による腐敗」を一掃することが目的であるのは既に述べた。では「権力の癒着による腐敗」とは何か。それは「国及び地方公共団体等の予算を巡る、予算配分の大義を忘れた、人間の欲望による略奪行為」である。

 例として公共投資を挙げる。なぜ公共投資を行うか、その正確な定義は知らない。しかしおそらく公共投資によって対象地域の経済が活性化されて新たな雇用をも創出、長期的に投資金額以上の収益=税収をあげる事が大枠の目的ではないのだろうか。

 公共投資の予算はどのように配分されているのだろうか。全国で公共工事が行われており、多くに建設業界は公共工事がなくては存続が困難な状況がある。当然、少しでも多くの公共工事が欲しい。そこでどうするか。選挙に協力することで政治家に恩を売り、その政治家の圧力によって行政から工事指名を受ける。そこでは集票マシーンとしての建設業界と予算提供者としての政治家、仲介役を果たす行政のシステムが機能している。

 かつて社会資本が乏しかった日本ではそれでも上記の目的は達成できたのだろう。しかし、欧米諸国に比肩するほどの規模を持つようになった現在においては、今までの公共工事に偏重した公共投資はその有用性に疑問がある。例えば従来であれば道を整備すれば、交通至便となり地域が活性化することは容易に予想されうる。が、農道や林業業者しか使わないような林道まで舗装するようになっては、果たしてどれだけ経済活性化に貢献できるのだろうか。

 私は先の政治家・行政・建設業者に聞いてみたい。「本当に公共工事が、他の手段例えば減税等と比較して、経済の活性化に貢献できていると信じているのか?」と。

 もし、彼等が心から信じていなければ、それは「予算配分の大義」を失っていることになる。それにも関わらず予算に関わり合っていることは単に予算を「略奪」しているにすぎないのではなかろうか。

 国民も以上のように感じていたのではないか。だからこそ現状を改善したいと願い、先の3者の連携を打ち破りたいと感じたのではなかろうか。故に「政治改革」が「選挙制度改革」に繋がっていったと考える。

 その思いの結果はどうであったか。
当選のためには総有効投票数に対する自らの獲得票数の割合は中選挙区時代よりも高くなくてはいけない。それは何を意味しているのか。ある地域において非常に多くの割合の人の支持がなければ当選しない事だ。

つまり圧倒的な量の票を獲得しなければ当選できない。

 その為には何が必要か?
 組織である。大きな組織の支援無しには、従来よりも当選しにくい状況が生まれてしまったと私は考える。

 ところが既存組織は多かれ少なかれ先の権力システムの構成要素に関わりを持っている。大組織に発展すればそれだけその傾向は高まるだろう。ここで一つのパラドックスが発生する。

 それは「既存権力構造を変革するためには、既存権力構造に頼らなければならない」。 言い換えると政治改革のためには政治改革する対象により頼らなければならない状況が今回の選挙、小選挙区制度によって産み落とされたのではないか。

 この矛盾は非常に大きい。また乗り越える壁は極めて高い。社会変革を志す者はこの事実を厳粛に受けとめなければならないと思う。

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豊島成彦の論考

Thesis

Naruhiko Toyoshima

豊島成彦

第16期

豊島 成彦

とよしま・なるひこ

公認会計士・税理士

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