論考

Thesis

世界炎の博覧会見物記

9月の7日に佐賀県で開催されている世界炎の博覧会に行ってきた(正式には「ほのお」 は火が3つ)。この博覧会は、九州で始めてのジャパンエキスポ(通産省の認定による)であり、「燃えて未来」をメインテーマに、そして、

 技術と自然との共生
 ものとこころとの共生
 伝統と未来との共生
 地域と世界との共生

の4つをサブテーマとしている。

 今回の炎博行の目的は、博覧会が地域おこしにどのような影響を与えるか、体験するこ とにあった。

 1798年に開催された最初の万博、パリの産業博覧会や1877年に開催された日本初の博覧 会、第一回内国勧業博にみられるように、博覧会とはそもそも社会の産業化、都市化にあわせ、それらを博覧するためのものであった。一般大衆を対象とし、産業のパノラマ的博 覧、都市イメージの表現をする。そのような場であった。それが1939年のニューヨーク万 博(日本においては1970年の大阪万博)を転機に娯楽性を強め、企業パビリオンを中心に 、未来都市を情報スペクタルでみせる、といういわば巨大な「祭」とでもいうべきものに 変わってきた。そしてそれにともない、博覧会の第一目的も産業の博覧からへと変わって きたのである。

 さて、炎博であるが、総合評価をいえば、「小成功」である。ここ数年地方博はことご とく失敗したといってよいほどの惨憺たる状況にある。なかにはひどい赤字に終わったものもある。そんな中で炎博は、赤字も出さず、目標入場者数である120万人もクリアできそうである。では何故炎博は小成功を収められたのだろうか。

 要因の一つは、県の職員、関係者にノルマを課し、前売り券をばらまいたことにある。 しかし、会場にいった感じでは前売り券の効果だけではなさそうだ。佐賀県庁の職員にき いた話からみても、前売りを買って、まだ来ていない人が結構いるようである。やはりテーマのとり方、コンセプトの作り方にポイントがあるのだろう。

 炎博のメインテーマ、サブテーマは前述のとおりだが、これらを表現するアイテムとし て、「やきもの」を選んだことは悪くなかった。。企業パビリオンの派手さだけが目立つ 近年の博覧会において、アミューズメント中心の思考から、(地域の)産業の博覧を中心 に据えた総合計画は見事であった。有田地区の会場では跡地は公園にされる、ということ で、地域PR、地場産業の高揚に集中できる環境もあった。

 ただし、問題がないわけではない。肝心の地元への経済波及効果が薄いという声もあが っているし、企業パビリオンと県のパビリオンの性格があまりに違い過ぎたために、全体 に中途半端なイメージが持たれる点も悔やまれる。

 炎博は主要3会場(有田地区、九州陶磁文化館、吉野ヶ里サテライト)と10の地域サテライト会場で開催されている。地域サテライト会場は佐賀、福岡、長崎の3県にわたり点在し、また3県交流館というパビリオンがあることからも佐賀だけの地域起こしだけでは なく、北部九州3県を視野に収めた考え方が伺える。地域サテライト会場の存在意義に関しては、今回十分な調査ができなかったので、有田の本会場に話を絞るが、有田の本会場 を見る限りでは炎博に地域に開放された博覧会というコンセプトがあるとは思えない。

 有田地区会場への交通アクセスは自家用車かバスか電車である。自家用車での来場者はまず 会場から車で7分ほどのところに設営された駐車場へと向かう。そしてそこからシャトルバスで会場とを往復する。バスはJR佐賀駅などから発着している。そして、電車で会場 へ向かう人は、MR(松浦鉄道)に設けられた世界炎博駅から5分ほどの道を歩く。マイカーとバスに関しては点と点を結ぶだけの動きなので、地元とのふれあいは会場内にとど まる。遠方から来た人は、温泉やハウステンボスとワンセットで炎博見学のプランを立て るだろうし、本当にやきものを見るために来た人は別として、わざわざ地元の町にはいっ ていこうという意欲を起こさせる仕掛けが少ないし、意欲をかきおこされた人を導く仕掛 けも少ないのである。

 もう一つの問題点は、「中途半端さ」である。例えば私が観た九州電力のパビリオンは 、ブラックライトを使った劇を上演していたが、その劇の内容たるや、夢の国に現われた 悪の魔王を倒すために女の子が活躍するというほとんどできの悪いネバーエンディングス トーリーだったし、まったく「どこがテーマに関係してくるの?」という感じであった。 やはり企業パビリオンにどれだけ共通のテーマ性を持たせるか、企業と自治体の比率、地 元企業をどれくらいいれ込んでいくかなどが鍵になるだろう。

 ガイドブックによると会場全体が6つのゾーンに分けられていて、それぞれが「技術と自然」「交流」「テーマ」「レストラン・ショッピング」などのテーマに分けられてはい るが、歩いていてそれを感じることはできなかった。レストラン・ショッピングゾーンな どはほとんど大学の学園祭ののりで、世界各地の軽食と、うどん屋やラーメン屋が軒を連 ねていた。それを地域の交流というならばそれはそれでもよいが、せめて、食器にやきも のを使うなど、どこかで佐賀色をだせばよかったのではないだろうか(食器については検 討はされたが、諸々の事情により実現できなかったそうだ)。

 自治体は、県内へのPRを行う媒体は持っているが、県外へ県内のことをPRする媒体を 持っていないのが普通である(最近では新聞に県の広告が打たれているのをみかけるが、 やっとその程度である)。その点博覧会はPRには適しているし、地域に対する経済波及 効果、地域間の情報交換効果などを考えると、今後地域の活性化策の一つとして再評価さ れるであろう。

 愛知県、福島県を始めとして、今後博覧会を計画している自治体は幾つもある。これら の自治体には、その開催に当たっては、近年の博覧会の姿、都市基盤整備型・開発型の博 覧会ではなく、博覧会発祥当時の形である産業振興や現在の日本の課題にあわせて分権、 地域間交流をテーマとした博覧会を実現することが求められてくる。分権の流れの中で自 立していくためにも、地元の官・民・企だけで博覧会を運営できるぐらいの企画力・創造 力・情報力をつける必要があるだろう。

Back

栗田拓の論考

Thesis

Taku Kurita

栗田拓

第16期

栗田 拓

くりた・たく

Mission

まちづくり 経営 人材育成

プロフィールを見る
松下政経塾とは
About
松下政経塾とは、松下幸之助が設立した、
未来のリーダーを育成する公益財団法人です。
View More
塾生募集
Application
松下政経塾は、志を持つ未来のリーダーに
広く門戸を開いています。
View More
門