論考

Thesis

最近カンボジア事情(2)

皆さんはカンボジアにどんなイメージを持たれているでしょうか?基本的に関心を持つ 人は少ないでしょうが、“危ない国”というイメージと“民主主義国家として何とかやっ ているのだろう”というイメージが共存しているかと思います。特に最近は、カンボジア 現地で頑張る日本のNGOの特集がテレビで放映され、のどかなイメージも広がっているようです。しかし、残念ながらどれも正確にカンボジアを描写しているとは言えません。今 月は続編としてカンボジアの政治情勢についてレポートし、所感を述べたいと思います。

 3年前、カンボジアでは国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)によって総選挙が行われ、フンシンペック党(王党派)が勝利を収めた。た。それまで政権を執っていたのはベ トナムを背景にしたカンボジア人民党(フン・セン首相、現第2首相)であった。その後、新憲法が成立し、新生カンボジア王国が誕生した。

 カンボジアは良くなったのだろうか?と問われれば、確かにそうだと言える。人々の顔 には笑顔が戻った。未だ生活は苦しいにせよ、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)主導によるものだけでも36万5千人の難民が故郷に戻ることができた。

 しかし、20年に及ぶ内戦を続けてきた国が、一朝一夕に良くなるはずもない。タイ・カンボジア国境では未だ内戦が続いている。政府など社会指導層には汚職が蔓延っている。公務員の末端でさえ、給料のみでは食べられないが故、汚職に手を染めざるを得ない。海外からの投資は確かにあるのだが、カジノやホテルなどの建設が主なものだ。とて も末端までは届くものではない。分かってはいても、国民の生活を見ていると何とかなら ないものか?、と思う。

 今回はおよそ8ヶ月ぶりの訪問であった。諸物価の上昇に較べ、人々の給料は以前として低く、犯罪も増えている。驚いたのは、民衆が極度に政府を恐れていたことである。家 の中で人々は口を開いても、一歩外に出ると政治の話は全くのタブーになるのである。

“どこにスパイがいるか分からない”、“トラブルはごめんだ”と幾人に言われたことか。実際、カンボジアでは政治問題に触れることさえ難しい。

 私がカンボジアに滞在していた5月18日、政府を批判し続けている前蔵相、サム・レンシー氏が作ったクメール国民党の主要メンバーであり、ジャーナリストであったタン・ブ ン・リー氏が、オートバイでやってきた2人組に射殺されるという事件が起きた。昨年、ジャーナリズムに統制を加える新聞法が制定されたが、それと前後して幾人かのジャーナ リストが他殺体で発見された。しかし、今回は白昼、首都プノンペンの路上での出来事で あった。皆、誰がやらせたことかは分かっている。しかし、後難を恐れて誰も口にするこ とが出来ない。

 タン氏の葬儀の日、氏を見送る人々と警官隊とで衝突が起きた。政府にとってはその存 在さえ邪魔なサム・レンシー氏への妨害行為である。また、私には真実を確かめる術さえ ないが、2日後の新聞に、タン氏が木材の密輸に係わり、女性関係でも問題があったとの内務省見解が載っていた。しかし、余りにおきまりのシナリオでありすぎる。

 今回も私が感じたのは日本政府の対応であった。わが国は対カンボジア援助では世界一 である(あらゆる国際機関も含め)。その立場を持ちながら何も言わないことがカンボジ アの為、日本の為になるのだろうか?勿論、内政干渉はすべきでない。しかし、タン氏の ケース等にはせめて遺憾の意くらい示すべきであったろう。わが国はいつ事勿れ主義にピ リオドを打つのだろうか。

 カンボジアに係わり続けて感じるのは、あのカンボジアPKOの終結でわが国の関心は大方終わってしまったという事である。PKO 法制定に際しては大騒ぎをした政府・国民であったのに、ましてや国策で高田警視が尊い生命を失われたにも係わらず、我々選挙監視 員が無事戻ると全てが“良かったね”で終わってしまった。その直後に行われた総選挙で、PKOについて訴えた候補者がいただろうか?結局の所、カンボジアPKOは日本の内政問題であったと言える。そう考えれば、PKOの後の政府・世論の動きも合点が行く。

 以前のレポートでカンボジアの基礎資料が、外務省を初めとしたわが国の機関で全く収 集する事が出来なかったと報告した。恐らく現在私が持っているカンボジア基礎資料は日 本で1、2を争えるものだと思う。

 わが国の外交下手は誰もが言うところである。それも当然である。以上に述べた理由に 加え、各国あるいは地域の専門家育成が足りないこと、外交方針が見えないこと等、根本 的な問題点が多い。細かいことであるが、わが国政治家の外遊に際し現地大使館員がツアー・コンダクター化していることも情けないことである。女性の世話を強要する議員もいる事に至っては最早言うべき言葉も失う。

 “政治とは愛だ”と言った議員がいた。無論そうであろう。しかし、それは公言するものなのだろうか?私には平和ボケとしか 映らなかった。多くの国民もそうであった思っている。私たちが政治に期待するのは本気 さなのだ。特殊法人の整理は一体どうなったのか?国会では住専問題ばかり追求していた が、国民に対するパフォーマンス的な要素はなかったか?年金はどうするのだろう?財政 は?国民はもう能書きに動かされはしないだろう。待っているのは行動である。

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堀本崇の論考

Thesis

Takashi Horimoto

松下政経塾 本館

第13期

堀本 崇

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