論考

Thesis

最近カンボジア事情(1)

5月に8度目のカンボジアを訪問しました。8ヶ月ぶりでした。主目的は第2回七五三基金プロジェクトの選定にありました。今年度のプロジェクトは、昨年9月号の「ちにか」 でレポートしましたカンボジア人僧侶、ヘン・モニチェンダ師をパートナーに、学校建設を推進することになりました。本件に関するレポートは来月致します。今月はまず、カン ボジア人の生活状況のレポートをし、それについての所感を述べたいと思います。

 この問題に触れるとき、どうしても語らねばならないのが民衆の収入である。以前もレポートしたことがあるが、公務員、兵士、教師の給料は20ドル。ウエイター、ウエイトレ スはおよそ50~70ドルほどである。比較的良い収入は海外NGOで職を得た人々で、150ドル 程度の収入は普通である。しかし彼らは英語あるいは仏語を話す。一般人には遠い存在である。また、国民にとって厳しいのはいくら技術があろうとも現在は求人が少ない。日本の某NGOは電気・機械関係の職業訓練学校を経営しているが、そこをでたところで職がないそうだ。

 3年前、現地通貨リエルの対ドル交換レートは4,500であった。最近は2,5OOリエルほどに落ちついている。カンボジア民衆の出費はどうであろう。

 カンボジア人は殆どが外で朝食をとる。6割ほどの人々が食べるのが『ボボ』。日本で言うところのお粥である。大根の煮物などを添えて食べるのだがなかなか旨い。この値段 がおよそ500~1,800リエル。2~3割の人々は『クイテオ』を食べる。東南アジア共通のラ ーメンだが、カンボジアでは殆どが細麺である。この値段は1,500~2,500リエル。1~2割 の人々が食べるのが、カンボジア風ラーメン『ノンバンチョ』。値段は500~1,800ほどだ。家族3人が夕食で多少良い食卓を囲もうと思えば、市場で6,000リエルを費やさねばならない。

 言うまでもなく、カンボジア人の主食は米である。今は多くの日本人も口にしたであろうタイ米と同じ長粒種を食べる。カンボジア第3種米100キログラムで20ドルである。貧しい人々はそう毎日副食を得ることはできない。長粒種はスカスカなので、消化が早い。日に5~6ど食事をとらねば、食べ盛りの子供はとても持たないのだ。故に、家族5人もいれば、一月で100キロのお米を消費してしまう。

 カンボジアで庶民の足となっているのは、モトドップである。乗客はカブの後部座席に乗って目的地へ行く。メーターもないため、値段は適当なのだが、およそ1キロメートルで500リエルである。カンボジア人は殆どが家で昼食をとるため、都合、日に2往復する事になる。とすれば、最低でも日に1ドルを交通費に費やさねばならない。

 最低限の食事と交通手段のみでもこれだけの出費なのだ。庶民はまともな生活ができな いでいる。これを満たせない人々の問題は複雑である。汚職、売春、不登校(親が行かせない)など、一朝一夕には解決の仕様も無い問題が多い。

 それは、私が七五三基金で取り組んでいる教育支援にも大きく関係している。教師の給料は20ドル。自活できるだけの農業を自宅で営んでいる教師は殆ど問題はない。しかし、そうでない人々の行動は理解を越えていた。現在カンボジアは7:00~11:00、13:00~17:0 0の2部制が殆どである。午前部の子ども達の授業が終わると教師はドアを閉め、市場で仕入れた飴を取り出し、子ども相手に商売をするのだ。買った子どもだけ家に帰れるのである。これは勿論、例外的な先生ではあるが、これだけの低給料で、特に首都においては良い人材が集まるはずもない。

 私のような援助団体が教師の給料も、という論もあるが、私はそれに賛成できない。なぜならば、そこに自立心は育たないと思うからである。また、私はカンボジア人ではない。

そこまですべきではないと思っている。よって、教育に熱意を燃やす校長先生、またはその地域を見守る指導者の存在は私にとっても不可欠になっている。

 これらの問題解決に向けて、残念ながら私自身に明確な回答はない。しかし、根本問題が貧困にあることは間違いない。そして社会を、自国の未来を真剣に考える人材を育てる 手助けをすることが私にできる最大限のことであると思っている。

 最近よく感じるのは、社会システムの差こそあれ、カンボジアが抱える問題は、ほんの 50年前まで日本にもあった問題だということだ(今もあるのだが)。この点と、私自身は外国人であることを今後も明確に意識しつつ活動を続けていきたいと思う。

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堀本崇の論考

Thesis

Takashi Horimoto

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第13期

堀本 崇

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