論考

Thesis

地方交付税改革

今年7月、地方分権一括法が国会で可決された。これにより一部の権限が中央から地方へ移行される。しかし、地方が真の独立性を獲得するためには、何よりも財源の独立が不可欠である。

●公平な受益と負担を

 戦後日本は、官僚主導の中央政府に極度に権限を集中させることによって驚異的な経済発展を成し遂げた。しかし、こうしたやり方が通用したのもさらなる発展が約束されている間だけのことで、発展が停滞した今となってはその害が問題となっている。まず第一は、中央政府への権力集中によって中央、地方間に上下関係を生んだ点である。次に、中央に巨大な予算配分権を与えたことで中央と地方に支配と依存関係が生じた点。最後に、上記二点によって、国政と地方政治の守備範囲が曖昧になった点が挙げられる。
 私は、こうした現状を打開する方策として、①中央政府は外交・国防・教育などへ特化し、その他は県もしくは市町村へ権限を委譲する、②地方に財源を与え、受益と負担の一致を図る、ということを提案したい。中でも②は、21世紀が「自己責任の時代」であることを考えたとき、避けて通れない道である。

 地方政府が受益と負担の一致を図るには、まず地方の歳入として地方税に次いで大きな交付税(地方交付税交付金)を改革する必要がある。交付税とは、国(中央政府)が国民や企業から集めた国税の3分の1を全国の自治体にその財政状況に応じて「交付」するものである。このような制度が設けられた理由は、各地方自治体の財源保障と財政調整のためである。財源保障とは、自治体が標準的な公共サービスを提供するのに必要な最低限の財源を保障することであり、財政調整とは、富裕な地域から財源の乏しい地域へ財源を移転し、地域間格差を調整することである。つまり、どこの自治体もやらねばならない最低限の仕事があるが、なかにはその費用を自分で賄えないところもある。そういうところへは、国がお金持ちのところからお金を持ってきてあげますよ、という仕組みである。
 東京都が財政再建団体に転落するのではないかということで、昨年来、新聞紙上をにぎわしているが、実は東京都は、都道府県のなかでは唯一、この交付税を受けてない自治体(98年度)だった。自治体は、年間の税収と交付金の合計額に対し、赤字額が一定の割合(都道府県5%、市町村20%)を超えると借金や起債ができなくなり、すべて国の管理下におかれる。これを財政再建団体と呼ぶが、景気の低迷で税収の厳しい今、東京都だけでなく多くの自治体がその危機にさらされている。
 しかし、東京には企業もたくさんあり、人も多く住んでいるのに、何故それほど財政的に苦しいのか。私は、その原因の一つは都市に厳しく、地方に甘い交付税にあるとみる。都市で集めた金を地方へばらまく地方交付税制度にである。そして、この仕組みゆえに、中央は地方に対して力をもつ。

●交付税の仕組み

 交付税額は、おおまかにいえば、自治体が標準的な仕事をしていくうえで必要な一般財源(基準財政需要額)と、普通の状態で集まると見込まれる地方税収額の一定割合(基準財政収入額)を算出し、必要な一般財源が見込まれる地方税収額を超えた場合、その差額に応じて決まる。当然、後者が前者を上回れば出ない。こうしたところを不交付団体と呼ぶが、全国に約3,300ある地方自治体の中でその数は150にも満たない。
 交付税と同様、中央から地方に配分されるものに補助金(国庫支出金)がある。交付税との違いは使途が限定されているか否かである。一般にわかりやすい説明として、補助金=ヒモつき、交付税=ヒモなしという言い方ある。補助金はその使途が例えば道路建設や教員の給与といったように限定されるのに対し、交付金は限定されない(実際には少し異なる)。
 さて、では「ヒモなし」の交付税制度が、どうして東京都などの大都市に薄く、地方市町村に厚いのだろうか。

●交付税の問題点

1.計算の複雑さ
 まずはその算定方法が複雑なことがある。交付税額は次の式から算出される。

 地方交付税額=基準財政需要額―基準財政収入額(基準財政需要額=単位費用×測定単位×補正係数、基準財政収入額=標準的税収入の80%(県分)、75%(市町村分))
 この中の補正係数なるものが曲者である。積雪・寒冷・山間・港湾・河川・過疎・僻地など様々な環境条件がプラス係数として加算され、その複雑さは自治体職員でも簡単には説明できない。

2.格差是正の行きすぎ
 1で補正係数が加えられる例として挙げた項目からわかるように、都市よりも農山村地域や過疎地域に該当するもののほうが多い。その結果、必然的に地方市町村へ多く配分される。それが「何でこんなところにこんな立派な建物が……」という理由である。

3.自助努力の阻害
 交付税の配分には、各自治体の意欲や努力を反映させる仕組みがないため、「やるだけ損」という状況を助長している。経費を削減しても、地方税収を上げても、その分交付税が減額されるとなれば、職員や住民の反対が多い政策など行うわけもない。極端な話、何もやらないほうが、何かやったより交付税の額は多くなるのである。

4.交付税配分の決定過程
 最後に、交付税を配分する際の決定過程の不透明さがある。交付税配分は算定の複雑さも手伝って一部の自治官僚が行っているが、その過程は必ずしもオープンではなく、自治体は意見を反映させることができない。約17兆円にも及ぶ税が一握りの人間によって、その過程も明かされず使途決定されることに問題がある。

●交付税の改革

 このように不透明で不公平な交付税をどのように改革すればよいか。可能な限り受益と負担の分離をなくし一致させていくことがその解決になると考える。ひいてはそれが地方分権へとつながる。ただし、交付税は地方税・補助金・地方債などと密接に関係しているので、その点を考慮し、改革は段階的に行う。

1.短期
 まず短期的に改革できる点は、交付税の算定方式の簡素化である。その際、農山村地域のみならず、大都市特有の問題もあるので、都市に考慮した指標も加えることである。さらに交付税配分の過程で地方の意見を反映させる仕組みを備える。地方六団体(全国知事会、全国市長会、全国県議会議長会など)の代表などと協議する委員会を設置するなどが考えられる。また、それにより決定過程が一般の目に触れやすくなる。

2.中期
 中期的には、自治体の自助努力が交付税配分に反映されるように改革することである。現在の「もらったもの勝ち」のような悪循環を断つため、課税努力に応じて配分するなどの方法を導入する。
 地方債の大部分が交付税で償還される今の仕組みは、自治体の金銭感覚を麻痺させている。分権一括法により2006年から地方債発行手続きが自治省の許可制から事前協議制に変わる。交付税との関わりについて、今後の推移を見守る必要がある。

3.長期
 既に述べたように、究極的には受益と負担の一致が目的地である。集めるときには中央と地方で2:1なのに、使うときには1:3となっている現行の徴税のあり方を、最初から使う人と払う人が一致するように、つまり地方は地方でお金を集めるようにすべきである。それは地方税の拡充を意味する。財源保障・財源調整の必要性は否定しないが、最終的には、交付税は可能な限りその規模を縮小するのが望ましい。
 いずれにせよ、変えうることころから、変えていくことこそ肝要である。

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尾関健治の論考

Thesis

Kenji Ozeki

尾関健治

第17期

尾関 健治

おぜき・けんじ

Mission

地方分権、行財政改革、自治体経営、NPO

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