論考

Thesis

最適な行政・民間のパートナーシップ

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共同研究

2001/2/26

公共事業の全てを行政が担うやり方は、もはや限界にきている。時代に則した、新しい公共事業のあり方を見出さねばならない。それには、事業手法だけでなく、その考え方の根幹から変える必要がある。

公共事業運営のための新しい概念

 これからの行政と民間の関係には、「最適な行政・民間のパートナーシップ」という概念が重要である。行政は、住民にとって真に必要な事業を選定した後、「最適な行政・民間のパートナーシップ」という概念を通して、どの事業手法が最適であるかを判断する(図1)。このことは、事実上、行政の行う事業分野の全面的な見直しを意味する。それによって生まれる官民の協力体制は、より質の高い効率的なサービスの提供、それに伴う税金の効果的な支出、住民の満足を可能にする。
 この最適なパートナーシップを実現する一つの有力な方法としてわれわれが提案するのが、PFI(Private Finance Initiative)である。

PFIとは何か

 PFIは1992年英国で誕生した。当時「小さな政府」を目指し行政改革を行っていた英国は、それまで公共部門が担ってきた社会資本整備や公共サービスに、民間の資金や能力を利用することにした。 PFIの事業形態はサービス購入型、独立採算型、ジョイント・ベンチャー型とあり、これを交通 、医療、防衛施設、情報システム、刑務所、教育、上下水道など分野に応じて使い分けている。主流はサービス購入型である。
 英国がPFIを採用した根底には、「支出に見合った価値(Value For Money)」と「民間へのリスク移転」という考え方がある。税に対して価値あるサービスを提供する「支出に見合った価値」は、市民憲章以降広く普及し、PFIはこれを実現する重要手段と目された。「民間へのリスク移転」は、民間部門に全リスクを移転するということではなく、それを最も良く管理できるところに任せるということである。つまり、最適なリスク配分がなされた時に、最も優れた「支出に見合った価値」が現出される。

 では、PFIと従来型公共事業の違いは何か。大きく三つの違いがある。まず、従来型は企画立案から管理運営までの実施権限が公共部門にあるが、PFIでは企画立案のみ公共部門が担当する。第二に、PFIでは公共施設等の固定資産購入が目的ではなく、そこから生み出されるサービスの購入が目的となる。第三に、従来型公共事業は、施設等の建設費、施設の運営・管理費を行政が負担していたが、PFIでは建設も運営費も民間が資金を調達するので、公共側の支払いはサービス提供開始後となる。

 実際にPFIを採用した例として、在独英国大使館建設がある。老朽化のため、建て替えの必要に迫られたこの大使館は、どのような事業手法が最適かを検討した結果、採算性、財政面の問題からPFI方式を採用した。事業期間は30年である。入札の結果、ドイツのコンソーシアム(注1)が5000万ポンド(約90億円)で落札した。現在、このコンソーシアムは、施設設計・建設から車両管理、建物維持管理、医務室などの福利厚生、秘書手配などのオフィスワークまで様々な業務を請け負っている。
 PFI事業のメリットは、行政支出を削減、平準化、効率化でき、社会資本整備のための初期投資が要らないこと、適切に運営できれば、民間部門にとっては安定した収入源となり、公共部門にとっては民間部門を取り込むことで新規産業分野を開拓できることである。

 デメリットは、行政、民間で適切なリスク分担が難しいこと、契約交渉事務が複雑であること、契約交渉が長期に及ぶこと、支払いが長期間にわたるため財政支出が硬直化する恐れがあること、法律、財政コンサルタントなどの諸経費が別途かかること、などがある。
 しかし、このようなデメリットがあるにもかかわらず、英国では公共投資に占めるPFIの割合は着実に増加している。93年度にはわずか0.5%しかなかったのが、97年度は8.1%、99年度は19%と、6年間で約40倍の伸びを示している。

PFIは選択肢の一つ

 こうした英国の実績をみて、日本でもPFIを導入した。1999年に、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI推進法)が作られた。しかし、法案成立の背景は英国とは異なる。日本では、PFIは財政制約下、民間投資意欲の停滞の中で社会資本整備と新規プロジェクト立ち上げのインセンティブと考えられた。したがって、ここには冒頭で述べた「最適な行政・民間のパートナーシップ」という概念はない。

 公共サービスを提供するには、公共事業、第3セクター、一部委託、民営化、それにPFIといろいろ手段が考えられる。これらはそれぞれ長短がある。どれを採用するかは、提供したいサービスに対し、どれが「最適な行政・民間のパートナーシップ」を実現できるかという行政の判断に拠る。ところが現状では、行政にそれを判断する十分なノウハウがない。加えて、民間が容易に参入するための環境も整っていない。

 そこで、二つのことを提言したい。
 第一に、事業手法選択ノウハウを蓄積し、それを全国に配信する最適化推進組織を国レベルで設置する。そこに全国の事例データを集積し、あらゆる形態からベストの選択をし得るよう行政機関へ情報提供する。推進機関は、官民共同運用の時限機関とする。時限機関とする理由は、PFIはNPM (New Public Management)(注2)の流れを汲み、行政改革、地方分権、規制緩和を具現化したものであり、恒久的な組織はPFI本来の姿に反するからである。また、機関の目的が、それぞれの行政機関が蓄積したノウハウを利用し、独自に判断する基準を確立することにあるので、基準が確立されれば要らない。ただし、事業の成否を判断するにはある程度まとまった期間が必要である。メンバーは、民間の考え方が反映されるよう官民の集合体とする。そして積極的に国外事例研究を行う。後発の利点を生かして他国の経験から学ぶのである。これは英国会計検査院やタスクフォースを訪れた際に何度も言われたことである。

 第二に、民間経営能力を生かすため、事業提案者の裁量が大きい事業を積極的に実施する。日本で現在計画されているPFI事業の多く(注3)は、設計・運用に関する民間への裁量委譲が不十分である。行政は、大きな枠での効率化を目指し大胆な事業運営を展開すべきである。

 最も大切なことは、「最適な行政・民間のパートナーシップ」という見地に立ち、公共サービスの提供の仕方を根本から見直すことである。

(注1) コンソーシアム:特定の事業を遂行するために複数の企業などが結成した企業体。
(注2) New Public Management:公的部門に民間企業の経営方法を可能な限り導入しようという新しいマネジメント方法。
(注3) 現在、日本でPFI事業として10事業が実施方針を公表。3事業が実施検討中。着手済み事業として君津地域広域廃棄物処理場と、東京都水道局金町浄水所常用発電の2つがある。

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