論考

Thesis

揺らぐ日本の若者たち

「十七歳」の事件が続いた年が明けた途端に、成人式での「二十歳」の〝暴走〟が全国を駆け抜けた。「何を考えているのか……」。大人たちの怒りや嘆きにも、どこかに虚しさが漂う。若者たちの内面で「何か」が崩れかけている。それは、これまでの日本社会を支えてきた「大切なもの」であったはずだ。九州の地方都市で新聞記者をしながら、その答えを手探りしている。

▲ハプニングを警戒しながら取材した前原市の成人式。
平穏に終わったが、全国の会場では「新成人の騒乱」が相次いだ。

 「成人式の記事はいらない。警戒を頼む」。
 成人の日、総・支局の記者たちは、各自治体であった成人式の会場に一斉に散った。式典そのものの取材ではない。会場で騒ぐ若者らを来賓が「一喝」する事態に備え、〝警戒〟するためだ。

 もし、そんな場面に遭遇すれば全国のニュースになる可能性もある。「虚しい取材だ」と自嘲しつつも、カメラを手に会場の最前列に陣取った。成人式の取材に「事件(ハプニング)の警戒」が加わったのは、三、四年前からだ。
 担当した福岡県前原市では何事もなかったが、無事に終わったのは訳があった。成人式のマナーの悪さに懲りた市は、新成人全員に事前に式典への出欠を確認していたのだ。「来たい人だけが、来ればいい」。行政の苦肉の策だった。

 翌日の朝刊各紙は、全国で相次いだ「新成人の騒乱」を大きく報道した。ついに逮捕者まで出した新世紀の成人式を、多くの識者が批判し、若者たちに潜む危うさを指摘した。
 無自覚、無節操、自己中心、責任回避……。若者らの非常識な行動に、当てはまる言葉はいくらでもある。だが「果たしてそれだけが原因だろうか」。識者たちの談話にも、私たちマスコミの報道にも釈然としない思いが残った。

 「人を壊してみたかった」「親に恥をかかせたかった」。世紀末の社会を震撼させた「十七歳の事件」。少年らの信じられない動機が、さらに衝撃を与えた。人間の尊厳や人格に考えが及ばない稚拙な犯罪心理と、成人式での若者らの無軌道ぶりが、どこかで重なっているように思えてならない。
 彼らが社会の中核になる二十年後の「この国のかたち」はどうなっているのか。「今の若者たちは……」などと批判をする前に、若者たちの揺らぎをただすのは大人たちの責任であることを自覚したい。
 〝異星人〟として、遠ざけてきた若者たちと、向き合うことから始めよう。携帯電話や電子メールではなく、あいたい相対で語るのだ。その機会を大人が厭ってはならない。

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手嶋秀剛の論考

Thesis

Hidetake Teshima

松下政経塾 本館

第6期

手嶋 秀剛

てしま・ひでたけ

一般社団法人・福岡県自家用自動車協会専務理事

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