論考

Thesis

住民による住民のための組織

米国には「コミュニティ財団」という組織が約400ある。行政の手が届かない部分を補い、非営利組織を支える存在として市民の期待を集めている。民間非営利組織と自治体の関係も含めこの組織について紹介する。

◆コミュニティ財団とは

 「ここにいる人全員、体の中に熱い熱い炎があるようね」。55歳は超えていると思われる女性が突然私に話しかけてきた。私が「あなたはどうですか?」と聞き返すと、「私? もちろんよ!」とにっこり笑いうなずいた。この会話は、9月7日から10日にシカゴで開かれた第13回秋季コミュニティ財団会議でのものである。会議には全米のコミュニティ財団から1,000人を超す関係者が集まり、60近くの勉強会・情報交換が行われた。
さきほどの女性はオハイオ州の小さなコミュニティ財団の代表だった。
 コミュニティ財団は、近年米国で急成長を続け、87年から93年の6年間で、その資産額・助成額・寄付受入額のいずれも2倍以上の伸びを示している。年1回の秋季会議出席者も12年前の161人から今年は1,321人と大きく増加した。また米国だけでなく、南米や東欧でも設立されており世界的規模で広まっている。
 しかし日本ではまだまだ馴染みが薄い。「コミュニティ財団って何?」というのが正直なところだろう。一言でいえば、「ある特定地域の住民・企業から寄付金を募り、そのお金で地域の民間非営利組織を助成し、地域社会に貢献することを目的とする組織」である。その運営は地域住民から構成される役員会に任されている。私の故郷、岐阜県関市を例にとると、関市民または刃物関連企業(関市は刃物の産地)などから寄付金を集め、そのお金を関市で活動している福祉や給食サービスなどのボランティア組織に助成金として支給する。助成は関市以外の組織には行わない。こうした寄付金・助成金などの管理・運営をするのが役員会である。役員会のメンバーは企業経営者や医者、税理士、一般住民とさまざまだが、とにかく関市民でなければならない。つまり「住民による、住民のための組織」、それがコミュニティ財団である。

◆住民の「何かしたい」を実現

 ここで、コミュニティ財団についてさらに紹介する前に、米国における民間非営利組織(NPO)について、簡単に述べておきたい。
 米国では、約120万の非営利組織が活動している。こうした組織の活動は、教育・福祉・芸術・環境・住宅など広く生活全般に及び、米国社会を構成する大切な一要素となっている。このため非営利セクターは、第一セクター(政府)・第二セクター(企業)と並び、第三セクターと称される。もちろんその活動規模や範囲は前二者に及ぶべくもないが、政治や市場の失敗により発生する問題を解決する上で、非常に重要な役割を果たしている。また独立セクターと呼ばれることもある。政府の干渉を受けず、自らの「志」、「使命」を実現させるために非営利組織を結成し、社会活動に打ち込む。まるで体の中に炎があるように。
 しかし、「地域の為に出来ることを何かをしたい」と思っても、現実には忙しくて時間がなかったり、「地域のために使いたい」と考えているお金があっても、歳を取り過ぎていて自分自身では直接活動出来ないという場合がある。コミュニティ財団は、こうした人々のための活動もしている。その金額がたとえ少額であっても、寄付者は基金に自分の名前を付け、その使途に関して、助言を行うことができる。
 こうした地域住民から寄せられた寄付に対してきめ細かな対応をするのが、コミュニティ財団の特色である。財団内には多数の基金が存在している。たとえば私が研修している首都圏地域コミュニティ財団では、その数は500を超す。住民の「何かしたい」という気持ちを、プロとして具現化させるのが、コミュニティ財団の役割である。

◆第二の市役所

 非営利組織が日本で注目される理由の一つは、行政がやるべきと考えられてきた業務を肩代わりする可能性が出てきたからである。たとえば、介護保険法案が採択されれば、地方自治体の負担は増す。この場合、地域のボランティア団体とパートナーとして組むことは、自治体の財政負担を軽くできる。こうした効果は、自治体に対する「補完」機能と言える。
 しかし、非営利組織の存在はこうした「補完」機能だけでなく、さらに積極的な意味合いを持つ。「対案」、「チェック」の役割である。確かに自治体に対する「対案」機能は易しいことではない。しかしそれを目指すことにより「チェック」機能を果たすことになる。米国では自治体の政策に関して、議会でNPO代表が質問に立ち、意見を表明することで、その質疑が政策に影響を与えていく。
 自治体にすれば、「補完」ではない「対案」や「チェック」機能は、決して心地よいものではないかもしれないが、適度な緊張関係はどんな場合でも必要であり、カウンターパートが存在することは、自治体運営の上で必ずプラスに作用するはずである。
 それでは、どのようにして非営利組織をこうしたカウンターパートにまで高めていくのか。もう既に一つの答えはある。地域から寄付金を募り、地域の非営利組織に助成することを目的とする組織、そう、コミュニティ財団である。「第二の市役所」、これがコミュニティ財団の別名である。


(おぜきけんじ 1972年岐阜県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、松下政経塾入塾。現在、「自治体経営と民間非営利組織」をテーマに、アメリカのシンクタンク、コミュニティ財団で研修中。)

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尾関健治の論考

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Kenji Ozeki

尾関健治

第17期

尾関 健治

おぜき・けんじ

Mission

地方分権、行財政改革、自治体経営、NPO

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