論考

Thesis

身近に活かす補助金(下)

補助金を利用するということは、総事業費の何割かの自己資金で事業を実施できることを意味する。行政改革の焦点の一つとなっている補助金の問題点とは何か。運用と利用の狭間から、補助金という税金の使い方の活路を探る。

前回は大ざっぱではあるが中小企業が利用しやすい補助金について紹介した。「行政目的実現型」「事業支援型」のいずれも、事業主にある事業の実行を義務づけている。特に「事業支援型」補助金の場合、申請以前から対象事業について行政と打ち合わせを行い、計画を立て、さらに審査に通ることが必要となる。
 審査があるとはいえ、補助金は、書類を提出し、一旦支給が決まれば交付される。民間企業にとって、受けた補助金はその数倍以上の売り上げに相当する。つまり補助金とは、返還義務のない(片務性)カネで、補助金の交付を受ける者が利益を受け(受益性)、一定の政策目的を達するために交付されるものである。しかしそれゆえ使途が特定される(特定性)。とはいえ政府の意向に叶ったものならば、返さなくても良いカネがもらえるのだから、民間企業にとっては実に有り難い。さっそく補助金を受給すべく、申請のシミュレーションをしてみよう。

 まず、いざ利用しようと思っても、どこへ聞いたら良いか分からない、そもそもどんな補助金があるのか、使えるのかも分からない。この問題を解決するために、既述の「補助金本」もいくつか読んでみる。そして受給可能性のある補助金を見つけた、あるいは知り合いからこのような補助金があるらしいと小耳にはさんだとする。
 具体的にどうしたら受給できるのか詳しく知る一番確実な方法は、役所に聞くことだと思われるだろう。補助金申請の窓口は、都道府県や特殊法人・外郭団体に委任されているものが多く、補助金ごとに細かく担当部課が分かれている。そのためどこへ行けば良いかが分かりにくい。本を参考に見当をつけて行っても担当が違うと「分からない」「担当が違います」。これならまだ良い方でひどいときには「やっていません」の一言で片づけられる。めげずに食い下がってどこで分かるかを聞き出し、やっとたどり着いたとしよう。「案内文書をください」といえば、もちろん案内パンフや申請書類がもらえるはずだが、返ってくる答が「作っていません(!?)」だったり、「実際に使う人でなければ渡していません」だったりすることもある。
 ここまでは「あの補助金について知りたい」と特定できている場合である。それさえ分からないとき、補助金全体を網羅しているものを見たいときはどうすればよいか。

 私の知る限りでは、行政庁自身が作る、補助金の全体についてまとめた本の有無・仕様は、省庁によってばらばらで、あったとしても有償の政府刊行物だったり、支給申請する側に分かりやすいようにできていなかったりする(労働省・中小企業庁は無料で管轄する補助金についてまとめた冊子を毎年用意している)。それでもどうにか申請のための案内や書式を入手した。「うちの会社では既にこの事業を実施しているからこの補助金がもらえる」と思うのは早合点。申請の前に行った事業は対象外、実施の前に対象事業の計画書を申請書と同時に提出、というものが少なくないからだ。
 それでいて「補助金目当てではいけません」である。交付決定は提出書類に依るものが多いので、補助金の申請をしようとする者は誰でも、審査に通るように書類を作るだろう。実施前に“補助金をもらうことを前提に”申請せよというのだから、補助金目的でないわけがない。しかし、それが極端にエスカレートしたとき、申請の目的が、事業の遂行から補助金の受給そのものにすり替わる可能性がある。「受けてしまえば補助金の使途など二の次」では、本来意図した行政目的は達せられない。
 上記のような運営上の、一見矛盾に見えるシステムは、補助金のチェック機能の甘さに内包されているように思われる。特に「事業支援型」の補助金について年度ごとのその交付状況と事業の実施実績が公開されているものはごくわずかだ。報告義務はあるものの、補助金の使われ方について、単に金額が合っているかだけでなく、どれほどの効果があったかをチェックし、広く国民に知らせるシステムは皆無に等しい。

 以上、補助金のわかりにくさとそのフィードバックの欠如という2つの問題点について述べた。逆に言えば、それらを克服すれば利用のコツに転じる。そのためには何よりも利用者にとっては情報収集が一番のポイントとなる。 ほとんどの補助金は、年に1回、限られた期間だけしか受け付けていない。対象となる事業、費用の範囲、対象者をよく調べて、申請期間と、自社の事業計画の全体像との整合性、十分な効果を発揮させるためのタイミングを計りつつ、実施できるよう計画を立てるのも、まず情報収集からといえる。
 予算の限られた補助金に対して申請者が増えれば、その交付を巡って新たな競争が生まれるだろう。そこに健全な経営感覚が活かされることを期待したい。すなわち知恵と活力を、最小のコストで最大の効果を生むように実現できる事業こそ、補助金の交付対象となるべきである。
 補助金という行政の手法を活かすには、行政からの十分な情報公開がなにより必要だ。単に補助金の紹介だけでなく、どんな審査基準でどこに交付したか、どのように利用されたか、窓口となる都道府県等がリーダーシップをとることにより、「知ってる人だけ得する」のではなく、行政と民間との身近な接点となるような使われ方を望みたい。


(すずきかなこ 1988年松下政経塾入塾。現在、社労士ネットワーク事務局勤務。)


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鈴木香奈子の論考

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Kanako Suzuki

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第9期

鈴木 香奈子

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