論考

Thesis

地球環境とエネルギー

1.気候変動に関する自治体サミット

 10月24日(水)埼玉県の大宮ソニックシティにおいて「気候変動に関する世界自治体サミット」(主催埼玉県、国際環境自治体協議会)が開催された。アジアで初めて開かれたこの会議には、世界各国の自治体や国際機関が集まり、地球温暖化に関する各国の事例紹介や、意見交換が行なわれた。

(1)エネルギー供給構造分科会報告

福岡市の事例(温暖化防止計画)

 環境への負荷をかけない生活へと誘導するよう、自治体レベルにおける行動計画が必要である。福岡市では、1986年に「福岡市環境プラン」を作成。1993年5月には、「福岡市自動車公害防止計画」1994年には「地球温暖化対策行動計画」を定め、二酸化炭素排出量の削減に努めている。

 福岡市の二酸化炭素排出量は、1980年の109万トンから1990年には169万トンへと増加しており、その内訳は家庭用26%、産業用29%、交通30%、となっている。第三次産業が主力であるので、市民一人当たりの二酸化炭素排出量は136トンと全国平均2、59トンを大幅に下回っている。

 エネルギー供給構造と、自治体の役割についてであるが、政府は2010年には石油依存度を現在の58、2%から、45%に引き下げる計画を立てており、その為には地域の特性にあったエネルギー供給構造の見直しが必要である。又これまで無駄に捨てられてきた廃熱利用は、ローカルエネルギーの位置づけとして重要である。

 福岡市では、アジア太平洋博覧会跡地である「シーサイドももち」において、通産省の補助を受けながら、新エネルギーを利用するプロジェクトを行なっている。具体的には、海水の温度差利用と大型ビルのコジェネレーションシステム設計により、41%の省エネが達成され、これだけで2900トンの二酸化炭素排出量が抑制された。

 その他にも、福岡市庁舎、小中学校、保健センターなどで積極的に太陽熱パネルを設置している。今後自治体は、国際的に考え(Think Global)地域の特性や経済性を考慮しながら、環境自治体の創造に向けて、積極的に行動していく(Act Local)重要な役割を担っており、自治体間の交流や情報交換がますます必要になってくるだろう。

インドの事例

 現在、インドにおけるエネルギー供給構造は火力69%、水力28%、原子力と風力がそれぞれ5%である。化石燃料の内訳は石炭60%、石油30%、その他10%となっており、石炭依存度が高くなっている。
 インド政府は、開発途上国におけるエネルギー計画は、地球環境問題に大変大きなインパクトを与えるとの認識を持っており、1982年に早くも「持続可能なエネルギー」を積極的に推進する為の国家計画を作成している。

 特に、風力エネルギーの導入には目ざましい成果が見られる。インドにおける風力エネルギーの潜在的可能性は、2万メガワットと算定されている。1986年、タミルナド州において0.55メガワット(10台の風車によるウィンドファーム)の最初の発電が行なわれ、93年には19.35メガワットに達した。これらの公共セクターによる成功は、民間セクターの参入を得て、さらに大きく広げられている。
 インド政府は、風力エネルギーの導入に対し、次のような政策をとっている。

  1. 風力発電機器の輸入は、輸入税を免除される
  2. 風力発電による利益を再投資にまわす場合、100%免税される
  3. ソフトローンにより、プロジェクトの75%まで貸し付け可能である
  4. 政府が風力発電のプロモーション事業を補助する
  5. 4メガワット以上の大型風車によるウィンドファームには、政府が補助金を与える

 これらの政策により、インドは「風力発電大国」の地位を、着々と築きつつある。95年4月のデータによると、国全体の風力発電総量はアメリカ(1800メガワット)、ドイツ、デンマーク(約600メガワット)に次ぐ4位(530メガワット)であるが、デンマークを抜き3位に踊り出るのは、そう難しい事ではないと言う。

 風力発電のメリットとしては、1設置のための時間がかからない 2インド国内に多い、強い風が吹く乾燥した(水がない)地域では、コストも安くつく(償却期間が短い)3環境に負荷をかけない 等が挙げられる。インドでは、州政府もプロジェクトコストの10%を補助したり、州税を100%免除するなどの施策をとっており、売電も可能とあって、民間セクターは強い関心を示している。

 インド政府は、自国の開発、エネルギー政策を進めるにあたり、先進国とは異なる独自の路線を目指している。地球環境に与える汚染を出来るだけ少なくし、環境とのバランスをとりながら経済成長を進めていくためには、太陽や風、バイオマスなどのソフトエネルギーを十分に活用しなければならないと考えているのである。

ドイツの事例

 ドイツは近年、家庭におけるソーラーパワーの利用普及に努めている。現在ではエネルギーの50%を石油に依存しているが、1エネルギー需要の削減 2エネルギー利用の効率改善3再生エネルギーの使用という目標を掲げ、国家レベルで取り組んでいる。

 現状の問題点と解決策については、以下に述べる通りである。
 まずコストについてであるが、化石燃料の価格が安い為、なかなか再生エネルギーが普及しない。エネルギー価格の中に社会コストを加味し、エネルギー税を大幅にあげ、その代わりに所得税は減税するといった、思い切った措置が必要である。

 次に技術開発であるが、太陽電池にしても、今の2倍(30%)に効率を上げなければ、償却期間が長く普及は難しい。実験段階では既に、このレベルに到達しており、さらなる研究が望まれている。

 最後に国際的な協力関係の構築である。再生エネルギーの導入は、国の政策にかかっている。開発途上国におけるプロジェクトで、太陽熱や風力を大規模にとりいれる事で、スケールメリットが生まれ、コスト削減につながるであろう。このようにドイツの再生エネルギーの普及については、欧州のエネルギー価格と、政府の政策次第である。

(2)ライフスタイル分科会報告

板橋区の事例

 板橋区は工業都市であり、空気や河川の汚れが深刻であった。1989年頃から議会、区民の間で議論をすすめ、1992年「環境都市宣言」を行なっている。

 1地球市民として行動する 2資源を大切にする 3良い環境作りをする を柱とし、アジェンダ21板橋区の行動計画を作成した。さらに、環境学習の場として今年、エコポリスセンターを設置している。
 具体的には、全ての人が環境に対する知識を身に付ける、行動するをモットーに、次のような施策を行なっている。

  1. 区民に環境についての監査を行なってもらう
     200名ほど、環境監査委員を募集し、河川の汚れなどを調べてもらう。これを専門家が集計し、エコポリスセンターに展示する。
  2. 環境家計簿を、各家庭に配布する
     さらに小学生向けに、「環境探検隊」と題する冊子を、4000部作成。
  3. 企業、工場に対する市民、行政のチェック機能強化

 エコポリスセンターは、これらの環境情報の発信基地として、これまでに100の自治体から中学校、高校の修学旅行先に選ばれるなど、有意義に活用されている。
 ライフスタイルの変革は、「これはいけない」「あれはいけない」と我慢を強いるのではなく、「こうした方が環境にもやさしく、健康にも良い」と呼びかけるものでなければならない。例えば自動車を出来るだけ使わない事で、ガソリン代も節約出来るし、足も丈夫になる。無理がある事は長続きしないので、無理なく、無駄なくを心がけている。
 分科会の後には、気候変動における自治体の役割の重要性を再確認し、様々な行動計画を盛り込んだ「埼玉宣言」が行なわれた。

2.全国風サミット

 10月27日、「島のエネルギーを考える」をテーマに、全国風サミット(主催、同実行委員会、日本風力エネルギー協会)が宮古島平良市中央公民館大ホールにて行なわれた。この中では、基調講演、パネルディスカッション、サミットなどが行なわれ、「風」を中心とした自然エネルギー推進の重要性が再確認された。

(1)基調講演 「地球環境とエネルギー」芝浦工業大学教授 平田賢氏

 化石燃料の燃焼に基づく、大気中の二酸化炭素濃度の増加は深刻な問題である。日本の気象庁による岩手県における観測では、94年度において年平均362ppm程度であり、毎年1.2ppmほどの割合で確実に増加しつつある。
 二酸化炭素濃度の増加によって、地球温暖化が引き起こされるかどうかは、未だ確認されたものではないが、これが実証された時には全く手遅れになる事から、実証されようと否とにかかわらず、二酸化炭素排出量の削減に努めなければならない。

 日本政府は、94年12月に「新エネルギー導入大綱」を策定しているが、これによると風力発電は2010年度に、15万KWとなっている。日本のエネルギー需給の見通しは、94年6月に通産省総合エネルギー調査会が発表しているが、これには大きな矛盾がある。

 第一にこの計画によると、2010年までに原子力発電所を後35基作らなければならないが、計画段階に入っているのは6、7基しかない。どんなに努力をしても、10其までである。となると、2010年の時点では、2000万キロワットの電力が不足する事になる。
 平田氏は、「日本は島国で風も強く、風力発電に向いている。又国内では政策の遅れから普及が遅いが、風車の輸出大国である事から分かるように、技術力もトップレベルにある。2010年までに300万キロワットを風力でカバーする事は、十分可能である」と言う。(現時点では、風力発電は10メガワットしかない)

 各国の政策を見てみると、デンマーク1500メガワット、イギリス1000メガワット、オランダ1000メガワット、の風力エネルギー導入目標を立てている。IPCCの報告によれば、ただちに二酸化炭素排出量の60%を削減する必要があると警告されており、日本もこれに向けて真摯な対応が求められる。自然エネルギーに対する補助金等、強力なインセンティブを与えて普及を進め、メーカーの生産台数を増やす事で、コスト削減の努力をする必要がある。300キロワット級機を全国に1万基程度、300万キロワットの目標をたて、本気で推進を図るべき、と言うのが平田氏の主張である。

 風力発電の問題点は、エネルギー密度の希薄さと風の不規則性であるが、これは大型化、集合化によってカバーする事が出来る。ドイツには風車マニュアルがあり、国民への普及に努めている事もあり、日本においても自然エネルギーの利用に関する環境教育が必要であろう。

 日本のエネルギー需給の問題以上に深刻なのは、中国、インド、ベトナムなどである。そのエネルギー消費量の伸びは、日本が60年代に経験した指数関数的なものになるだろう。中国のように、これを石炭で補うとすれば、地球環境にとって、大変な問題である。アジアの発展に伴う環境問題の解決は、技術先進国としての日本の責務でもあるだろう。

(2)風サミット

 山方県立川町、北海道室蘭市など15の自治体が参加した。その多くは、強風に悩まされてきた地域である。これを逆手にとって、風をエネルギーとして利用すると同時に、風をテーマにした「まちおこし」が着々と進められている。
 例えば愛媛県ひかわ町の「風の博物館」岩手県東山町の「風の城」など。地域の特性を十分に生かしながら、さわやかな風をテーマに、21世紀に向けたそれぞれのビジョンを描いているのである。
 最後に行なわれた「風サミット共同宣言」では、風のクリーンさ、有用性を訴えていくとともに、風力エネルギーの推進に努力する事で合意がなされた。

3.終りに

 国内におけるソフトエネルギーの活用は、日本にとって緊急の課題であると思う。エネルギーの大部分を石油に依存する危険性もさる事ながら、これ以上原子力を推進しようとする通産省は、何か勘違いをしているとしか思えない。世界の潮流は、確実に変わりつつある。今後は、それぞれの地域でエネルギーをある程度自給していく、その為にソフトエネルギーを十分に活用する事を、もっと真剣に考えるべきではないだろうか。

 今、都市を中心とする開発モデルが、破綻しつつある。山手線で使われる電気は、新潟県のダムから延々と送電されているが、その途中で多くの環境破壊を引き起こしている。東京のごみ処理場は、後5年で満杯になり、その後は仕方がないので、地方に持って行く計画があるらしい。これには大変なコストがかかるだろう。

 上海では、進出する外国企業が使う電気を作る為に、地方にダムが作られ、100万人が立ち退きにあっていると言う。都市の発展のために、(都市の工業のために)農村が犠牲になっている。環境が破壊され、人権は無視される。私達は一体いつまで、このような「自己破滅型」の経済を、追い求めるのだろうか。

 いなごの話を聞いた事がある。いなごの大群は、全ての物を食いつくしながらどこまでも飛び続ける。最後に群全員(全匹?)が、湖に落ちて死んでしまうまで、一直線に飛び続けると言う。果して人間も、いなごと同じなのだろうか。

 私は、今月「環境維新の会」(仮称)という勉強会を作った。会の目指すものは「持続可能な循環型社会」である。具体的には、1自然エネルギーの導入推進 2有機農業保護法 3自然保護法 4食糧基本法 5環境ビジネスの育成 などについて、勉強会を重ね、これを政治家に訴えていく事を考えている。持続可能な社会をつくるためには、制度面での改革は勿論であるが、私達の意識も、価値観も、教育のありかたも、全てが大きく変わらなければならない。

 自宅にソーラーパネルをはり、エネルギーを自給しながら野菜を作る、究極のエコロジストである桜井薫さん(自然エネルギー事業組合)は、言う。

  「現在の石油文明は、人間がもっと高度な素晴らしい文明に移行するまでの、過渡期にあると思えばいいんです。資源の枯渇が騒がれてますが、光や風はなくなる事はありません。人間がそれをうまく利用しながら、そのキャパシティの中で生活し、経済活動を行なう。それが本当の姿ではないですか。」

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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