論考

Thesis

環境問題へのデンマークの挑戦

「第三回気候変動枠組条約締約国会議」が、今年12月、日本が議長国となり京都で開かれ る。日本は2000年以降の二酸化炭素排出量削減においてイニシアチブをとれるのか。また 先進国として何をなすべきか。

1995年3月、ベルリンで開かれた第一回気候変動枠組条約締約国会議の席上で、日本は2 000年における二酸化炭素排出量の見通しを1990年レベルから2.3%増と報告し、途上国な どから批判を浴びた。一方で、1990年レベル以下の数字を提出した先進国は6カ国あり、 中でもデンマークは7.9%減と高い数値を挙げた。 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の知見によれば、地球の気候を安定化させるに は、二酸化炭素(その他の温室効果ガス)を90年レベルの60%削減することが必要である と言う。しかしながら現時点では、地球全体でその削減量をどのように配分するかについて、各国で議論が分かれている。

 たとえば、この問題に積極的なEU諸国が、先進国の二酸化炭素排出量の一律削減案を主 張しているのに対し、日本とアメリカは反対の立場を取っている。日本の主張は、70年代 に省エネルギーに取り組んだ結果、他の国よりもエネルギー効率が高く、一律削減は不公 平だというものである。アメリカは排出権売買などを含めた、市場原理の原則を打ち出し ている。また気候変動に関しても「科学的知見が充分でない」として、二酸化炭素排出量 の大幅削減に対し消極的な立場をとってきた。

 このように気候変動問題が国際政治の舞台で大きく扱われるようになったのは、1980年 代後半からのことである。ここで92年気候変動枠組条約成立までの経緯を簡単に見てみよ う。

 88年6月カナダのトロントで、世界的なレベルで初めて「変りつつある大気 地球安全保障にとっての意味に関する国際会議」(トロント会議)が開かれ、「先進国は2005年ま でに排出量を88年レベルの20%削減すべき」という提案がなされた。しかしこの数値では 各国の調整がつかず、90年から92年気候変動枠組条約の成立までの交渉で、「先進国は20 00年までに90年レベルで安定化」にまで後退した。さらにこれを法的拘束力のある数値目 標にすることに対して、アメリカが強く反発したため、条約では、「2000年までに排出量 を安定化することを目指し、先進国はその政策と措置を報告する」という内容に変わった (冒頭の報告はこれに基づくものである)。

 このように気候変動問題に対する各国の見解が大きく異なるため、実効ある取り組みは その問題の深刻さに比べれば、もどかしいほど進んでいない。こうした事態に「先駆的な 取り組みで具体的な成果を挙げ、先進国としてのモデルをつくろう」という考え方から、 国レベルでこの問題に取り組んでいる国がある。人口わずか500万、北欧の小国デンマークである。

 昨年10月初旬、コペンハーゲン市郊外にあるデンマーク工科大学を訪れ、デンマークの エネルギー政策の第一人者であるニールス・メイヤー氏から、最新のエネルギー政策と氏 の「エネルギーと環境」に対するビジョンを伺う機会を得た。デンマークは、95年国会決 議の「エネルギー21」のなかで、「2005年までに二酸化炭素排出量を88年レベルの20%、 2030年までに50%を削減する」という先進国の中でも一際高い国家目標を掲げ、全力でそ れに取り組んでいる。

 今回話を伺ったニールス・メイヤー氏は、早くから「省エネルギー(エネルギー利用の 効率化)と再生可能エネルギー(太陽、風力、バイオマスなど)」の重要性を説き続け、 デンマークのエネルギー政策をリードしてきた。デンマークのエネルギー政策は、85年ま ではエネルギーの安定供給とコストに重点が置かれていたが、90年に発表された「エネル ギー2000」からは、「環境への配慮」を最優先するようになっている。現在では「エネル ギー利用の効率化と再生可能エネルギーの拡大」に最も重点を置き、「一次エネルギー消 費は2005年までに15%削減、再生可能エネルギーは一次エネルギーの12%にまで拡大」す ることを定めている。

 さて省エネと再生可能エネルギーの必要性は、日本でも多くの人が唱えているが、実際 の取り組みは随分遅れていると言わざるを得ない。日本は「省エネ大国」と自称するが、 本当にそうだろうか。確かに産業部門でのエネルギー効率は良いが、民生部門においては 使い放題。デンマークのような断熱の工夫もない。また、豊富に存在する太陽や風力など の導入推進のための施策や予算も決して充分であるとは言えない。

 「各国のエゴを超えて、この人類最大の課題に取り組もう」メイヤー氏は日本の政策決 定者に、そう強く訴えている。日本は今こそ、これに応えるべきではないだろうか。

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吉田裕美の論考

Thesis

Hiromi Fujisawa

藤沢裕美

第15期

藤沢 裕美

ふじさわ・ひろみ

どんぐり教育研究会 代表

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環境問題 特に環境教育(森のようちえんなど)

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