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100km行軍 感想

 100キロの道のりを歩いた総括を一言で述べようとすれば「根性」ただこの一言である。基本的に精神論は嫌いだが、それでも今回の総括は「根性」。日頃の私らしくはないかも知れない。

 人間、理屈を考えていられるうちは元気である、余裕がある。一線を越えて以降、人間を突き動かせるものがあるとしたら、それは理屈でも体力でもなく精神力である。逆に言えば、限界を感じたその先に、時に精神論から切り開かれる更なる限界点がある。そんなことを改めて思ったのが今回の100キロ行軍だった。

 23時間40分、これが今回の記録である。このうち、40キロ地点以降、半分以上の時間は私にとって痛みとの戦いであった。痛みとは、なかでもヒザ裏とふくらはぎの筋肉である。足裏・足指にできたどんなマメよりも、一歩ごとにうずくヒザと足首の痛みよりも、なによりもこれら筋肉の痛みとの戦いであった。なかなか言葉では言い表せないが、かつて味わったことのあるどんな筋肉痛とも比較にならない。一歩進むたびに、痛みが足から腰をつたい額に脂汗がにじんだ。歯を食い縛り、こぶしを握り締め続けて何とか前へ進んだ。足が前へ出ず、もどかしくて手を振った。そう言えば、筋肉痛で痛む部分が外見上真っ赤に染まるという現象も初めての体験だったように思う。

 ゴールした後、いやゴールできた時のことを思いつつ歩いていた時も、自分が歩けた(歩けている)のはなぜだろうかと考えていた。こういう時によく出てくる表現に「みんながいたから」というものがある。そのとおりなのだが、私にとってはその表現だけではちょっと薄っぺらだった。みんながいたからと言うと、ともすれば連帯責任(一人のリタイアで全員失格)を回避するとの目的のみに突き動かされているように思えてしまう。その要素もあるかもしれないが、もっと気持ちのいい、大きな喜びを“みんな”で分かち合いたかったのではないか、今はそんな風に考えている。その思いが、私に久しぶりに「根性」を思い出させ、完歩する大きな後押しになった。結論としては、やはり「みんながいたから」にかえってくるのかもしれない。

 もちろん、そうは言ってもみんなの力だけで歩きつづけることができる人間などいない。自分の足、自分の力があってこそであることは言うまでもない。それぞれが様々な想いを持ち、死ぬまでの人生を賭けていこうとしている我々の環境においては、自らにムチ打つ孤独に耐えぬく力がなおさら求められる。後半数十キロ、全行程において爆笑しつづけることを「誓って」いたはずの我々も、ついに無口になった(私自身は50キロ過ぎからであったが…)。私を含め、皆、あらゆる方法で自らにムチを入れているのが分かった。私にとって最も辛いムチ入れは、痛みをこらえて歩きつつ遠くの景色を見ながら、時々作ってみた笑顔だった。

 過去から今回に至るまで多くの政経塾生がこの100キロを完歩している。それぞれの人がそれぞれの感想を抱くのであろうが、自分自身との戦いであるという点はおそらく一致するだろう。私は人に思われる以上に、かなり自らに甘いタイプだと思っている。これまではそれでも何とかやってこられたが、これから先そうはいかない。自らへのムチ入れを改めて自覚する良い転換点となった。

 歩ききることができて良かった、今はただこの思いである。こういう場合、よく使われる言葉は「達成感」だろうか。確かに達成感らしきものはあるが、ちょっと違う気がしている。まだ達成してはいない。100キロ歩いたという事実は、これから先に達成するためのプロセスを経ていく際の、必要条件の一つでしかない。そういう意味では通過点であり、100キロ行軍に例えれば10キロか20キロあたりのチェックポイントだろうか。ただ、いずれにしても100キロ歩ききった。今後の人生において何度も現れるであろう「限界」のたびに、更に向こうにある「限界」を切り開くパワーを一つ得たと感じている。

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