活動報告

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無一物中無尽蔵

 11月21日~23日の3日間、日本文化の一つである「茶道」の真髄に触れるために、裏千家の宗家にて研修を受けました。朝の作務(掃除・枯山水の庭園づくり)・実技研修・茶道の歴史講義・資料館見学・宗家拝観・大徳寺拝観を通して、大変貴重な経験をさせていただき、身も心もとてもしびれる毎日でした。

 私が、この研修を通して、「茶道」の精神とは、タイトルにあるとおり、「無一物中無尽蔵」であると思いました。この「無一物中無尽蔵」とは、茶道会館の部屋の床の間にかかっていた墨跡です。この言葉は、人はこだわり(=一物)をなくせば、可能性に際限はないということを意味しています。「茶道」は、亭主は私心を捨ててお客をもてなし、お客も私心を捨ててお茶を味わう。つまり、お互いが私心を捨てることによって、本当にお互いが触れ合える。計り知れないほどの深い触れ合いができることです。すなわち、「茶道」の精神は、「無一物中無尽蔵」であると思いました。

 私は、日本史の教科書で、「茶道」は室町期に、村田珠光が創始し、武野紹鴎がその後を継ぎ、そして戦国期に千利休がついで発展させたものだと習いました。したがって、一連の流れの中に千利休のお茶もあると思っていました。

 しかし、今回の研修で、河崎・中島・中塚業躰先生や谷端事務長から、この「茶道」の精神、「無一物中無尽蔵」のお茶を始めたのは、千利休ということを教わりました。それまでのお茶は、「道具」本位のお茶、つまり、道具を見せるためのお茶であって、人の触れ合いが主目的ではない。だが、千利休が始めたお茶は、「人」本位のお茶、つまり、道具見せるためではなく、人の触れ合いが主目的のものであるということを教わりました。

 話だけではまだ完全にピンと来ていませんでしたが、宗家拝観で今日庵に入らせていただいたとき、その話が腑に落ちました。

 薄暗い部屋、壁もわらが混ざった土壁でまったく飾り気がなく、しかも広さはたったの2畳の今日庵、ここでは自分を飾っていると恥ずかしくなってしまうような気がしました。千利休がこういった飾りを極力排した茶室や、飾り気のない茶道具を考案したのは、お茶を介して、亭主もお客も虚飾を脱ぎ去り、無尽蔵の触れ合いを楽しむためなのだと、今日庵に座って、はるか昔に思いを馳せながら、実感いたしました。

 千利休は、今までのお茶の流れを変えたのは、道具の見せるためなら、道具を飾って置けばいいが、それは人と人が本当に触れ合うためにはまったく意味のないことだと考えたからだと思います。確かに、道具を見せるためのお茶だと、亭主は道具を見せることに、お客は道具を見ることに意識がいってしまい、お互いがお互いの意識を触れ合わせることが困難になってしまいます。だからこそ、新たなるお茶を興したのだと思います。その自らのお茶を通して、人と人が本当に理解しあうには、お互いの虚飾を脱ぎ捨てなければならない、そうしないと理解しあえないことを説いているのだろうと思いました。

 虚飾を脱ぎさらなければいけない教えは、道具だけでなく、利休七則にも端的に表されているように思います。「茶は服のよきように点て」「炭は湯の沸くように置き」「冬は暖かに夏は涼しく」「花は野の花のように生け」「刻限は早めに」「降らずとも雨の用意」「相客に心せよ」この七則は、誰が聞いても、とてもあたりまえのことです。しかし、このあたりまえのことをきっちりとこなすのはとてもむずかしいものです。このあたりまえをこなすためには、自分自身の虚飾を捨てて、お客をもてなそうという気持ちを持って初めて可能となると思います。

 他にも、茶室で大名が後れて入ってきたときに、末席に座らせたこと、大名も末席に座ってお茶を飲んだというエピソードにも、お互いに虚飾を捨てることの大切さを表していると思います。人は身分で相手を見てしまいがちです。身分で序列をつけると、お互いに相手の身分にとらわれてしまいます。こうなるとお互いを真に理解することはできなくなります。だからこそ、茶室においては身分をなくしてしまわなければいけないと千利休は考えていたのだと思います。

 人と人が真に触れ合うためには、お互いが「無一物」にならなければいけない。お互いが「無一物」になれれば、お互いの関係は計り知れないほどに深いもの、無尽蔵のものとなることを千利休の「茶道」は説いているのだということを感じ、大変感動いたしました。

 この「無一物」の精神は、「茶道」に限らず、生きていく上で非常に重要なものです。今後いろいろなところで研修をしていく過程において、知り合った人を本当に理解するために、この「無一物」の精神を持たねばならない、そうして初めて人を理解することができると思いました。

 千宗室さまをはじめ、河崎・中島・中塚業躰先生、紺谷・加藤先生、谷端事務長、秘書室のみなさま、そして茶道会館のみなさま、たった6ヶ月程度しか、お茶を勉強したことのない私たちに、宗家にて研修をさせていただき本当にありがとうございました。自らを「無一物」にすることは大変難しいことですが、この稀有な体験を無駄にしないよう、私は、この「無一物中無尽蔵」を自らの座右の銘として、今後の活動に精進して行きたいと思います。

以上

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海老名健太朗の活動報告

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Kentaro Ebina

松下政経塾 本館

第22期

海老名 健太朗

えびな・けんたろう

大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長

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