論考

Thesis

真の指導者とは

松下幸之助は21世紀の日本を担う指導者育成を目指して松下政経塾を創設した。私は現在の日本には本物の指導者が極めて少ないと考える。それは政官財界をはじめあらゆる分野での不祥事や無責任体質が蔓延していることに象徴される。現在の日本を救うには「真の指導者」が必要なことは言うまでもない。しかし、我々が目指すべき「真の指導者」とは何なのか、今回は考えてみたい。

擬似経験

 私は今年になって、リーダー的な立場を三度経験することができた。指導者の役割、つらさ、充実感を擬似的に経験できたのではないかと思う。

 一つ目は、トイレ掃除のサブリーダーである。これはイエローハットの創業者である鍵山秀三郎氏(現相談役)の掃除哲学に学ぶために結成された「日本を美しくする会・掃除に学ぶ会」でのトイレ掃除である。この会では各地域で毎月一度学校などをお借りして主にトイレ掃除を行っている。10人前後で班をつくり一箇所のトイレを掃除するが、一人が一つの便器を担当して磨き上げていく。班をまとめるのはリーダーとサブリーダーで、適宜全体の進行状況を見たり、説明、指導を行う。過去にリーダーの方が「リーダーよりも便器を担当したい」と言われていたのを耳にしたことがあったが、自分が経験してみてその意味がよく理解できた。全体に目を配り、気を配るのは疲れる。自分の担当していることに集中した方が、大変な面もあるが、気分的には楽である。

 二つ目は、4月の神奈川県知事選挙にて二日間ほど務めた選挙カーの車両長である。車両長は全体の街宣スケジュールに気を配りながら、選挙カーを走らせる責任を持つ。時間通りだけでもそれなりに骨が折れるが、地図を見ながらのナビゲート、国会議員など応援弁士の入れ替わりへの対応、昼食や休憩のタイミング、本部との連絡など多くのことを「選択と決断」のもとにこなさなければならない。私が務めた二日間でもいろいろなことがあったが、指導者がなすべきことを学ぶよい機会であったように思う。

 三つ目は、先日の衆議院議員選挙での電話作戦責任者である。それまでにも電話作戦を担当したことはあったが、全体を取り仕切るというのは初めての経験でかなり不安を覚えた。ここでも、前述のトイレ掃除同様に電話をかける方が気分的に楽である。電話自体はストレスがたまりやすく疲労もかなりあるが、全体を取り仕切る方がやはり精神的にきつい。しかし、松下幸之助塾主の「心配するのが社長の仕事」という言葉にあるように、そもそも指導者の役割は「気を配る」ことであろう。であるから、精神的に大変なのは当たり前である。

「人間」を知る

 指導者とはある組織の長の立場にある。つまり、先ほども述べたとおり、自分で直接するのではなく、人を介して行うことに他ならない。つまり、「人間」をよく知り、その上で組織を動かしていくことで成果は大きく違ってくるはずである。ただ、実際にはこれは簡単なことではない。私は松下政経塾は「人間修業の場」であると考えている。単なる「政治家予備校」では決してない。人間を知ることが経営の本質であり、それが指導者の条件でもある、と私は考える。

指導者に求められる資質

 最後に、「指導者に求められる資質」とは何なのか、これを考えることにする。私は「この人のためなら」と思わせる「何か」があることだと思う。その「何か」はおそらく人によって違うだろう。それは必ずしもお金とは限らない。しかし、それがないことには人は動かない。「その人間の器に応じて、『人』・『物』・『金』・『票』が集まる」とは逢沢一郎塾員の元秘書の小山宣彦・岡山政経塾事務局長の言葉である。私はこの言葉を初めて聞いたときに体に緊張感が走ったのを覚えている。それは選挙に必要なことだとわかったからではない。選挙の本質を突いているように思ったからである。と同時にこれは指導者の資質にも同様に当てはまるのではないだろうか。「この人なら」と思うからこそいろいろなものが集まる。それらが集まるということは、その人の言動によって行動が変わる人間がいるということである。そういうことのできる人間こそ「真の指導者」とふさわしいと言えるであろう。

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福原慎太郎の論考

Thesis

Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

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「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

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