論考

Thesis

少子化対策 -幸せな子育て、楽しい子育てを

速まる「人口減少時代」への突入

 丙午にあたる1966(昭和41)年を下回るそれまで最低の合計特殊出生率1.57を記録(当時1.57ショックと言われた)した1989(平成元)年(当時)以降、政府はエンゼルプラン、新エンゼルプラン等の少子化対策に取り組んできた。しかしながら、少子化に歯止めが掛からない。

 今年6月5日に発表された厚生労働省の2002年人口動態統計(概数)によると、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む平均の子供の数)は1.32人と過去最低を更新した。これは、昨年公表された将来推計人口の予測値を2年連続で下回るもので、少子化が予測を超える速度で進んだことを意味している。これまでは再来年の2006年をピークに日本の総人口が減少に転じるとされていたが、「人口減少時代」への突入が早まる恐れが出てきた。

子育て支援計画策定業務(プロジェクト)への参加

 先月の月例レポートでも書いたとおり、私が取り組んでいるのがこの人口減少・少子化の問題であるが、この度、ご縁をいただき、都市部のある基礎自治体の子育て支援計画策定業務(以下プロジェクト)に参加させていただくこととなった。この計画策定業務を請け負った某外資系コンサルティング会社の公共部門で勤務されている松下政経塾塾員(OB)のお二人より、お声掛けいただいた次第である。子育て支援に関する国や地方自治体の施策を調べ、子育て支援家庭へのアンケート調査・分析及びインタビューを行うという業務の内容は、まさに私のテーマとやりたいことに合致し、いただいた好機にとても感謝している。

プロジェクトの概要、計画策定の背景

 ここで本プロジェクトについて、簡単に説明したい。

 政府の少子化に対する考え方は「急速な少子化の進行は、今後、我が国の社会経済全体に極めて深刻な影響を与えるものである」というもので、1999(平成11)年12月に「少子化対策推進基本方針」を策定し、子育てと仕事の両立支援を中心として、様々な対策を実施してきた。しかし、一向に少子化には歯止めが掛からなかった。そこで「少子化の流れを変えるため、改めて政府・地方公共団体・企業等が一体となって、従来の取組に加え、もう一段の対策を進めていく必要がある(次世代育成支援に関する当面の取組方針。平成15年3月少子化対策推進関係閣僚会議決定)」として、今通常国会に「次世代育成支援対策推進法案」を提出した。法案は、当レポートを書いているまさに今日(7月9日)、参議院本会議において全会一致で可決され、成立した。

 推進法は、従来からの仕事と育児の両立支援(主に保育サービスなどの支援)に加えて、男性の子育て参加の促進や、結婚や妊娠支援、さらに従業員300人を超える企業と地方自治体に対して、「行動計画」の策定を義務付けている。

 市町村に対しては、第8条で国の行動計画策定指針に即して、市町村行動計画の策定を行うことを課しており、附則第1条で第8条の施行期日を2005(平成17)年4月1日としている。市町村は2004年度に計画を定め、2005年度から実施することとなるが、国は53自治体を他の自治体に一年度先行して、2003年度に計画策定を行う「地域行動計画先行策定市区町村」(パイロット自治体)に指定した。今回参加の機会を得た本プロジェクトは、このパイロット自治体の一つで行われるものである。

アンケートに見る子育て家庭の実態

 松下政経塾の塾是には、冒頭に「真に国家と国民を愛し」とあり、創設者である松下幸之助は、常に国民の幸せについて考えていたという。私は、その理念に共鳴して、松下政経塾の門戸を叩き、最終的には、国民の幸せを実現する政治を目指したいと考えている。

 そのためにまずは「国民の幸せとは何か」を探っていきたいと考えてきたが一つのヒントとして次の様な調査結果があった。

 経済企画庁が、平成7年度に行った国民生活選考度調査によると、「あなたが幸せと感じるのに関係のある項目は?(複数回答)」という問いに対して、上位を占めた答えは、「(1)自分の健康に自信がもてること:98.6%、(2)家庭が明るいこと:98.5%、(3)子供が健全に育っていること:97.4%、(4)夫婦仲が円満であること:97.1%」と、(1)以外は、家庭・家族に関するものであった。

 しかしながら、現代の家族・家庭は幸せな状況にあるとは言い難い。

 私は、始動したばかりの本プロジェクトで、まずは地域の子育て家庭の実態と、支援ニーズを探るための「子育て支援アンケート」の集計・分析作業を行っているが、作業に先立ち精読した100通のアンケートの回答の中には、記述欄や欄外に苦境を訴えるものが多々あり、子育てに悩み、苦労する父親・母親の思いが読み取れた。残念ながら、自治体から委託を受けた業務なので、本アンケート回答の詳細な中身については、ここでは言及出来ない。

 そこで代わりに今回のアンケート分析にあたって、参考にするために調べた既に公開された過去の子育て支援関係のアンケート調査から考察していきたい。

 まず本年3月に厚生労働省が発表した「子育て支援策等に関する調査研究報告書」の未就学児を持つ親への全国アンケート調査によると、一世帯当たりの子どもの数は1.9人だったが、親の約7割もが「子どもはもういらない」と回答している。子どもが一人の場合でも、子どもをもうける希望のある親の割合は4割以下になっている。数字からは、このままでは少子化は止まらないこと、そして子育てに対する不安や悩みがあることが推測できる。子育ての不安や悩みについて「そう思う」「ややそう思う」と答えた回答のトップは、父親は「子どもとの時間が十分に取れない」(約7割)、母親は「仕事や自分のことが十分に出来ない」(約9割)ということだったが、父親に比して、約2倍の母親が「こどもとの接し方に自信が持てない」(43.6%)と答えていた結果が目を引いた。

 1993年に実施された医師による三歳未満の乳幼児を持つ母親に対するアンケート調査の結果は、「(1)育児ノイローゼに共感できる:61%、(2)子育てに悩みがある:52%、(3)子育てで、ひどく疲れやすい:32%、(4)虐待しているのではないかと思う:23%」というものであった。現代の子育てが、幸せとはほど遠い実態が読みとれる。特に(4)では、現代の過酷な子育ての象徴とされ、しかしながらごく一部の例外的と思われてきた児童虐待を、自分で行っているかもしれないと考える母親が、約4分の1にものぼる。こうした状態では、子どもを多く産みたいとは考えないであろう。

少子化対策 - 幸せな子育て、楽しい子育てを

 以前、児童虐待防止法の立案作業に関わったことがあったが、その際、実際に虐待をしてしまったお母さん達から話を聞く機会があった。多くのお母さん達は「『あなたはお母さんなんだから、しっかりしなさい。』と言われるのが一番辛かった」と話していた。都市化する以前の子育ては地域で血縁・地縁で多くの大人達が行っていたのが、現代では孤立した核家族の中で、親(特に母親)のみで行われている。虐待が発生する率が最も高まるのは、密室で母子が1対1になる時であることは既に報告されている。孤立・孤独な子育ての現状を改め、社会で子育ての負担を分かち合うことが必要ではなかろうか。そして不安や悩みを払拭し、子育てが幸せになる、楽しくなるような家族支援策を行うことが今こそ求められており、これこそが最も有効な少子化対策となるのではないかと思う。今後自治体のプロジェクトへの参加を通じ、現場の声を聞き、実態を把握し、どの様なサポートが必要か考えていきたい。

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橘秀徳の論考

Thesis

Hidenori Tachibana

橘秀徳

第23期

橘 秀徳

たちばな・ひでのり

日本充電インフラ株式会社 代表取締役

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児童福祉施設で現場実習

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