論考

Thesis

未曾有の国難に思う

一年以上にわたって、時には批判もされながら、こうした論調を繰り返し続けているのはこの国が、そして世界が向かう方向が私にはある程度見えているからである。私の話を極端だとか、陰謀論者だとして聞き流していた人達には危機感の無さを猛省して頂くとともに、この時期に日本の政治を担おうとすることの意義を認識する必要がある。

 先日行われた民主党の代表選は、もはやこの党が日本の政治を担う能力・気概に著しく欠けている事を露呈した意義ある選挙だったと感じる。まず、時代の役割を終えた菅直人氏がこの時期に代表に選ばれること自体が不思議でならない。反体制を無意識のうちに刷り込まれた戦後教育、そしてそれを政治の場に反映した旧社会党、社民連の流れをくむこの政治家に、現在の国難の舵取りを任せることなど到底出来ない。「ならずもの国家」北朝鮮との国家の命運をかけた交渉、アメリカのテロとの戦争への態度、国内では経済政策、教育改革、など確固とした国家観・人間観がないとその本質さえ見えない危機ばかりである。残念ながら菅氏には荷が重いと言わざるをえない。

 イラク問題が攻撃、もしくは他の方法で解決した場合、次なる危機は朝鮮半島北部に起こるというのが一般的な見方である。核開発再開を表明した北朝鮮に対してアメリカが強硬に出るのは必至であり、隣国である日本もその影響は不可避である。危機管理の常識として、日本に核ミサイルが発射されることも視野に入れたマニュアル作りが本当の急務である。また、訪れる可能性のある危機に対して、正当に国民に説明をするのが政治家の使命である。こうした観点から見て、自ら選んだ代表をたった数ヶ月で引き摺り下ろし、時代の要請を終えた政治家を代表に選出する政党には国の舵取りを担う資格はないのである。第一、世代交代の必要を掲げてたった数ヶ月前に選挙を行なった政経塾出身の政治家はいったいどこへいったのか。売名行為であったと非難されても仕方がない。

 一方、与党自民党にも失望の連続である。小泉総理は行き当たりばったりの政局運営に終始しているし、確固たるビジョンもないままに「構造改革」をお題目のように唱えているだけである。その子分である竹中大臣は売国奴の汚名を着せられ、そう言われても仕方のない政策に固執している。またこの国難におよんでまで党内のゴタゴタは収まらず、しっかり一枚岩で国家危機に対処するまでにいたっていない。もはや政権党内部からの自浄作用に期待するすべもなく、かといって野党民主党は先の体たらくであるから、日本の政治は半ば死に体と言って差し支えない。

 しかしキラリと光る期待の星もないわけではない。官房副長官の要職に在って、対北朝鮮の外交交渉に当たってきた安倍晋三氏はそのトップであろう。原則論なき外交を行なってきた外務省に流されかけた今回の拉致問題も、安倍氏の原理原則論で今回の風向きへと変わることとなった。日本人が国家の役割を初めて明確に意識出来たのではなかったか。「プリンスメロン」と揶揄された父親の遺伝子よりも「妖怪」と言われた祖父の遺伝子を強く持つこの政治家は今後間違いなく国家運営の中枢に加わってくるであろう。

 後生、2002年という年は、大きな転換期になったと評価されるに違いない。戦後の永遠に続くと思われていた平和の中で完全にぼけてしまった日本人が、そして自分が日本人であることを忘れてしまいアイデンティティーを失った日本人が、ワールドカップ・北朝鮮問題という全く性質の違う二つの出来事で当然人間が持つべきナショナリズムを意識しはじめたのだから。これまで眠り続けてきた日本人の遺伝子はきっと目覚めることであろう。そしてこれは戦前の軍国主義の復活などという、日本歴史を全く理解していない輩の言うレベルのものではなく、「日本は21世紀の繁栄の受け皿になる」という松下塾主の言うレベルでの目覚めである。

 2003年という年は、今年胎動が始まった様々な出来事が世の表面に現れだす一年になると思われる。場合によって想像もしないような国家的危機が起こらないとも限らない。アメリカの北朝鮮戦略、韓国大統領選挙の結果、日本の外交方針、によっては北朝鮮が内部崩壊しないとも限らない。こうした状況にありながら、政経塾に帰るたびに危機感が欠如しているように思えてならない。私達が迎える新年がこうした可能性を秘めていることをしっかり自覚した上で、政治を正すものとしてこの国難を乗り切っていきたい所存である。

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二之湯武史の論考

Thesis

Takeshi Ninoyu

松下政経塾 本館

第21期

二之湯 武史

にのゆ・たけし

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