論考

Thesis

バリアフリーを考える ~車椅子議員との2日間の随行から~

今回は、車椅子の鎌倉市議会議員の付き添いで、障害者の政治参加を進めるネットワーク(以降、障害者政治ネット)の神戸での例会(8月4・5日)に参加した。車椅子議員の2日間の随行で分かったことや、感じたことについて書いていきたい。

 ※介助全般についてではなく、移動時の交通機関のバリアフリーについて書いていく。

◆「車椅子議員との2日間の随行でのできごと」

 今回、私は友人である鎌倉市議会議員の介助者として、障害者政治ネット(注)の神戸での例会に参加した。彼は、脳性まひにより身体障害者の1級(最重度)の認定を受けており、手はほとんど動かない。移動は電動車椅子だが、手が動かないので、左足のスティック操作で動かす。コミュニケーションは、聞くことはできるが、話すことはできなくはないが、こちらが聞き取る上で慣れないと難しい。したがって、彼の意志伝達の主な方法は、左足にペンを持ち、ひらがな・アルファベット・簡単な受け答え(はい・いいえ)・数字・単位が書かれたボードを押えることによって行われる。私は、一字一字読み取り、確認をしながら、彼と会話する。

 私の役割は、2日間彼に付き添い、移動と日常生活全般(食事・着替え・入浴・トイレ等)の介助を行うことである。

 注:障害者の政治参加をすすめるネットワークについて

 この団体は、障害者や障害者団体に所属する全国の議員と政治参加を目指す当事者を中心に呼びかけ、意見交流、学習、政策提言などをしていくことが目的で、阪神大震災のあった翌年(1996年)、神戸で結成大会を開き、できた団体である。
(障害者の政治参加をすすめるネットワークのHPより)

<出発準備:8月3日>

 出発前日、彼の自宅で2日間の行程(鎌倉-神戸往復)確認の打ち合わせを行うとともに、JR鎌倉駅での切符の手配を行った。

 この行程確認で初めて知ったのが、新幹線には多目的利用室と呼ばれる部屋があることだった。今回も新幹線では、この多目的利用室を使おうということにした。

 行程確認後、鎌倉駅にて往復の切符の手配を行った。ここで知ったのは、多目的利用室を利用したい場合には、その利用予定日の2日前までに手配をしなければならないということだった。残念ながら前日だったので、それもできず、とりあえず押えることのできた8時20分台の“のぞみの2号車”のチケットで移動することとなった。

 ※乗車代についてだが、障害者本人と介助者(1名)については、普通運賃はそれぞれ半額になる。新幹線はどちらも半額にはならない。チケットを購入すると、左上に「C制」という表示がなされる。

<出発:8月4日(往路)・5日(復路)>

 ここでは、各駅ごとでの出来事について書いていきたい。復路の出来事については大半が、往路と変わりないため、往路とは異なる出来事があったケースについて記載する。

~往路編~

 当日、車椅子の移動があるため、鎌倉から新横浜まで1時間半くらいかかるだろう思い、6時半に出発することにした。

鎌倉駅にて

 鎌倉駅は出口が2つあるが、車椅子の移動対応ができるのは片方だけである。駅員は、改札-駅の地下道と、地下道-フォーム間の2度の対応を行う。1回目の移動は、たった5・6段の階段に、なぜか上りだけのエスカレーターがついていて、それを駅員が動かして対応する。2回目の移動は、こんどはなぜか下りだけのエスカレーターがついていて、それを駅員が動かして対応する。電車に乗るときは、駅員が車椅子乗車用のプレートみたいなものを乗車口にセットし、それから乗り込む。
 この2度の対応にかなり時間をとってしまい、1本電車をやり過ごすことになってしまった。

横浜駅にて

 鎌倉から横須賀線にて横浜に向かった。横浜駅では鎌倉駅で連絡を受けていた駅員が待っていて、乗ったときと同様の方法で降車した。横須賀線のフォームから京浜東北線のフォームへの乗り換えは、実は一度改札を出て、違う入り口から再入場しなければできない。横須賀線のフォームではエスカレーターで駅員が対応する。京浜東北線では、階段の横についた昇降機で駅員が対応する。電車の乗車は、鎌倉駅と同様である。

 一度出口を出て、違う入り口に入場しなければならないという対応で、ここでもかなりの時間のロスがあり、鎌倉駅での時間のロスと合わさって、予定していた”のぞみ”に乗れない事態へと発展することになった。

東神奈川駅にて

 横浜から直通で新横浜までいけないため、京浜東北線で東神奈川に向い、そこで横浜線に乗り換えて、新横浜に向かうことになった。

 東神奈川では、向かいのフォームに移動しなければならなかった。新横浜での新幹線の時間がかなり迫っていたので、横浜駅でその事情を話しておいたこともあって、2度のエスカレーター対応だったが、ここでは3名くらいの駅員が連携を取ってくれて対応をしてくれたので、スムーズに移動することができた。

 ※新幹線に乗り遅れる可能性もあったので、3人がかりで連携を取って対応してくれたのだと思われる。そうでなければ恐らく、駅員1人の駅員での対応だろう(実際に、帰りは、急いでいるとは伝えてなかったので、駅員1人の対応だった)。

新横浜駅にて

 ぎりぎり乗ることができるか、できないかという、かなり焦る状態の中で、横浜線から、新幹線乗り場までの移動となった。まず、エスカレーター対応で上にあがり、改札を出て、駅構内のエスカレーターで食堂やみやげをうっているフロアーに降りる。荷物用らしきエレベーターにて新幹線のフォームに上がる(普段から自由に使えるのではない)。このとき行き違いがあり、私が介助者であることが伝わっておらず、対応の駅員から改札を通りなおしてくれといわれ、急いで改札に走っていった。そうすると、もう1人の駅員から、なぜエレベーターで一緒に行かないのですかと言われ、正直まいってしまった(私は、エレベーター対応の駅員に、乗せることができないから改札を通れといわれたことを説明はした)。

 急いで上がったが、のぞみは行ってしまった。もしや、乗っていってしまったのではなと思ったが、フォームで駅員と待ってくれていた。

 とりあえず、次のひかりで行くことを駅員にお願いした。このとき、鎌倉駅でとった2号車のチケットについて駅員から注意を受けてしまった。新幹線で車椅子の対応ができるのは11号車しかないということで、2号車をとってもらっても、入り口が狭いので乗車できないということだった。この注意については、鎌倉駅では聞いていなかった。私は車椅子の彼と一緒に切符を買いに行ったので、駅員はその車椅子を見ているはずだが、11号車でしかダメだとは説明してはくれなかった。こちらとしてはそのような注意は、みどりの窓口でしっかりとするべきであると思ったし、そのようなことは切符購入の際に説明がなかったことを駅員に伝えた。

新幹線(多目的利用室)


 のぞみには乗り遅れてしまったが、駅員が多目的利用室の空きを確認してくれたので、次のひかりで新神戸に向かうことになった。

 11号車の多目的利用室側の入り口は、他の車両の入り口よりもかなり広い、ここに駅員がプレートを置いて乗車した。

 車椅子をデッキに置き、多目的利用室に入った。そこは、個室になっていて、新幹線内の2人用シートとその向かいに折りたたみのシート(一人用)がついている。2人なら十分ゆったりと過ごすことができる。この多目的利用室は、車椅子利用の障害者だけでなく、妊婦や気分が悪くなった人でも利用できる。当然のごとく禁煙である。

 新神戸到着の5分前くらいに駅員が下車の準備をするようにやってきてくれた。

 ※鎌倉駅でチケットを買うときは、2日前までにと言われていたが、空いていれば当日でも使用可能であることが分かった。

新神戸について

 新神戸側の駅員もフォームで待っていてくれた。乗るときと同じ要領で降りた。新神戸駅にはエレベーターがついていて、自由に使うことができる(新横浜と大きく違う点)。だから、駅員がついていなくても改札まで降りることが可能である。新神戸では乗車・降車には駅員の対応が必要だが、それ以外の移動については駅員の対応は不要である。

新幹線新神戸から地下鉄新神戸への乗り換えについて

 新神戸から三ノ宮へは、地下鉄を使う。新幹線の新神戸から地下鉄の新神戸への移動がとても厄介だった。

 車椅子でない場合は、エスカレーターを何回か乗り継げば新幹線と地下鉄の乗り換えは可能である。

 車椅子の場合、そのエスカレーターは車椅子対応を行っていないし、そのようなことをする職員もいない。従って、エレベーターを探してということになる。このエレベーター探しが苦労した。

 なぜなら、新神戸駅での乗り換えは、いったん駅外に出て、新神戸のオリエンタルホテルのエレベーターを使わないといけなかったからである。まさか、ホテルに入るとは思っていなかったため、新神戸駅でしばらくの間、さまよってしまった。

市営地下鉄新神戸駅について

 JRでは、障害者とその介助者は券売機で直接、こども料金の切符を買うが、神戸市営地下鉄では、改札で駅員から購入する。料金はJR同様の半額であるが、障害者特別割引用の緑色の切符を購入する。

 地下鉄はエレベーターがついているため、駅員の手を借りずに移動することが可能である。乗車の際に今までのJRと大きな違いがあった。それは駅員の対応がまったくないということだった。地下鉄に乗るまではずっと駅員がついていたが、市営地下鉄ではつかない。とても大きな違いだった。

 だから、乗車は、段差部分を彼の電動車椅子のパワーと私の補助で乗り込んだ。別にこれといった問題もなく乗り込むことができた。

三ノ宮駅での乗り換えについて

 三ノ宮駅は、JR・阪急・阪神・ポートライナー・地下鉄と多くの交通機関が集まる一大ターミナル駅である。地下鉄三ノ宮駅(B1相当)からポートライナー三ノ宮(2F相当)に移動するのだが、残念ながら直接エレベーターでつながっていない。したがって、どこかを経由していかなければならない。三ノ宮の案内板に最短経路の説明が載っているかと思ってみたが、載ってもいなかったので、とりあえず地上に出て、神戸の観光センターで、バリアフリーマップ(正式名称:中央区おでかけマップ -バリアフリーガイドー)をもらって、調べることとした。

 マップは、どこにエレベーターや車椅子用トイレがあるのかといったことは分かるが、乗り換えの最短通路を見やすく表示する工夫が足りず、おそらく神戸に始めてきた人にとっては、苦労するだろうなと思いながらも、自分はもともと神戸で育った人間なのである程度位置関係がわかるので、行き方を見つけることができた。


ポートライナー三ノ宮駅について

 例会の会場(神戸国際会議場)と宿泊先(ポートピアホテル)はポートアイランドにあるため、ポートライナーで市民広場駅へ移動する。

 ポートライナー三ノ宮駅は、切符の買い方はJRと同じで、券売機でこども料金の切符を買えばよい。駅構内にはエレベーターがあり、それで移動できる。駅構内の移動や乗車・降車については、市営地下鉄と同様で駅員はつかない。何をするにしても駅員を待つという必要がなく、こっちのペースで移動ができて楽だった。

 ※会合内で、例会出席の地方議員の人も、JRは乗降等で駅員の対応があるが、ポートライナーでは駅員の対応がないのが大きな違いだと言っていた。

~復路編~

新幹線新神戸駅について

 帰りは、指定席を取っていなかった。自由席しかとっていない状態で、新神戸駅へと向かった。新神戸駅でこちらから18時台に多目的利用室が使用可能なひかり号に乗りたいことを伝えた。自由席であったために指定席への変更に伴い、差額を支払わなければならなかったが、当然の手続きとして支払った。駅員は丁寧に対応をしてくれ、走っている新幹線に連絡をとり、11号車の多目的利用室が空いていることを確認してくれて、18時00分の一番早いひかり号に乗ることができた。

 これ以外については、行きとあまり変わらなかったために記載しない。

◆今回の体験を通して思ったこと、考えたこと

ユニバーサルデザインの考えに基づくバリアフリーを

 JRの各駅で、駅員の対応は丁寧でそれは良かった。しかし、よく考えるとこのサービスはすべての人が使えるサービスではない。逆にそのサービスを提供している間、他の人には不便が生じることになる。

 JR各駅での対応で、エスカレーターによる移動の対応が多かった。この対応の間、そのエスカレーターを他の利用者は使えないことになってしまう。またこの対応には結構時間がかかってしまうため、この間の時間のロスもかなり痛い。

 逆に、新幹線の新神戸駅や地下鉄・ポートライナーの場合は、エレベーターでの移動が可能なため、エスカレーター利用者に迷惑をかけることもなく、駅員の対応を待たないで良いので、時間のロスも少ない。それにエレベーター自体は、車椅子利用者だけでなく、ベビーカーを押している人も、妊婦の方も、すべての人が使うことができる。

 鎌倉駅で、5・6段の階段に対する昇りだけのエスカレーターも、それをスロープに変えたほうが、車椅子・ベビーカーにもやさしく、足の不自由な方にも安心して歩くことができる。

 これからのバリアフリーを考える上で、やはりすべての人が使うことができるデザイン(ユニバーサルデザイン)の考えに則ったバリアフリーの実施を考えるべきである。ハード・ソフト両面での特別な対応ではなく、老若男女を問わず、障害の有無を問わず、誰もが自由に使える状態こそがノーマライゼーション社会における交通機関のあるべき姿だと私は考える。

点ではなく面での対応を

 移動という点で考えると、たしかにそれぞれのバリアフリー対応が大切だが、それがうまくつながらないと、本当の意味でのバリアフリーは機能しない。

 横浜駅(横須賀線と京浜東北線の乗り換え)・新神戸(新幹線と地下鉄の乗り換え)・三ノ宮駅(地下鉄とポートライナーの乗り換え)で思ったことだが、乗り換えのある駅は、ラインごとの対応だけではなく、乗り換えを考えた対応が必要である。

 たとえば、横浜駅ではラインによっては同一場所(たとえば、東口内)で乗り換えが可能なものもあるが、今回のケースでは、改札を出て他の改札に回らなければ乗り換えができないというのは、同一会社の同一駅内にもかかわらず疑問である。同一会社の同一駅内くらいは、同じ場所での乗り換えを可能とすべきである。横浜駅のような一大ターミナル駅は、特にそのことを意識すべきである。

 点ではなく、面での対応は、特に他社の交通機関の乗り換えのときに強く感じることである。新幹線の新神戸駅も地下鉄の新神戸駅も個別に見ると駅員の手を借りなくて良いほどにバリアフリーは進んでいる。しかし、乗り換えとなるとなぜかオリエンタルホテルのエレベーターを経由しないといけないのである。

 三ノ宮駅でも同様だが、駅の掲示板などで車椅子利用者の最短の乗り換え経路を表示するようなことも必要だろう。確かに、乗換駅同士が直接つながるのが理想だが、そのためのハード整備費用は莫大なものになってしまい、今すぐというのは困難である。したがって、まず低コストの対応として、案内板での最短経路表示の徹底を行い、ターミナル駅やその地域を新しく開発していく際に直接つなげる方法を順次実施していくべきであろう。

 点から面で考える上で、交通機関各社の連携をハード面・ソフト面の両面で行うことができれば、バリアフリーの効果がより一層発揮され、それがユニバーサルデザインに基づいたものであるならば、本当の意味ですばらしい効果を発揮するであろう。

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海老名健太朗の論考

Thesis

Kentaro Ebina

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第22期

海老名 健太朗

えびな・けんたろう

大栄建設工業株式会社 新規事業準備室 室長

Mission

「ノーマライゼーション社会の実現」

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