論考

Thesis

「地域主権国家・日本」の実現に向けて

★なぜ「地域主権」なのか~私の問題意識

 私が松下政経塾に入塾する際の問題意識として、現在の日本に「個人、地方自治体、企業から国家に至るあらゆる面で自立していくという気構えが足りないのではないか」という思いがありました。政経塾の「五誓」にある「自主自立」でも「自らの力で、自らの足で歩いてこそ他の共鳴も得られ、知恵も力も集まって良き成果がもたらされる」とあります。最近の日本社会に蔓延する閉塞感、企業や行政の不祥事、先行きの見えない日本の政治からも「自立心のなさ」と「人まかせ」がまかり通っているように思うのです。ただ、ここでいう「自立」とは何もかも他に頼らないという意味ではありません。「気構え」が重要だということを申し上げたいのです。人間は一人では生きていけないので助け合わなければなりません。お互いに「自立」した上での「協調」できる社会にしていくことが必要だと考えています。そのために、「地域主権国家・日本」の実現に向けて取り組みたいと思います。

「地域主権国家」では基本的なことはすべて基礎自治体(現在の市町村)が担当し、広域的に処理した方が良いものは地方政府(現在の都道府県)が担当するのです。国防、外交、通貨政策、社会保障など国でしかできない国の枠組みづくりのみを国が担当するのです。現在、市町村合併が議論されていますが、基礎自治体はどうあるべきなのか、都道府県の役割の見直しを出発点に地方政府はどうあるべきなのか、ということを今後日本の伝統や歴史を踏まえながら研究していきたいと考えています。

★納税者の自覚とコスト意識

 私たち国民に納税者・主権者としての自覚とコスト意識は十分でしょうか。ご承知の方も多いと思いますが、現在の国と地方の借金は700兆円近くに膨らんでいます。国民一人当たり600万円近い借金です。小泉政権ができ、盛んに叫ばれている「構造改革」もこの危機的状況を脱しなければ日本がダメになるからです。しかし、相変わらずの選挙での低投票率や無関心さを見ていると、国民の納税者・主権者としての自覚とコスト意識の欠如を感じずにはいられません。いずれ支払う義務があるのは私たち一人一人です。私たちが主権者として積極的に政治参加をし、行政のムダをチェックしていかなければなりません。また、あれもこれもと要望するのではなく、コスト意識を持つ必要もあるのではないでしょうか。

★行政依存脱却から行政のシビリアンコントロールへ

 私たちの「行政依存体質」を変えていかなければ、現在の諸問題は解決されないように思えてなりません。現在の日本は行政の規制が多く、まるで「社会主義国」のようです。しかし、私たち自身がこれまで行政にまかせきりで、責任も押し付けてきたことが中央省庁の肥大化につながっているのです。その結果として、狂牛病問題や外務省をはじめとする数々の中央官庁の不祥事の温床になったことは否めません。

 そこで重要になるのは「政治」の役割です。「政治家」というと一般に良いイメージはないと思います。ただ、選挙で有権者が選んだ「政治家」が方針を示し判断を下さなければ、民意の反映とはいえません。「政治家」を悪く言うことは簡単ですが、民主主義を成熟させるためにも政治参加をしていく必要があります。選挙前に候補者について勉強するのはもちろんのこと、当選した後の政治家に直接または手紙などで意見を言っていく必要があります。気に入らない政治家は「要望していく」「次の選挙で選ばない」ことで変えるべきです。アメリカでは政治家への手紙やメールに「納税者より」と書くそうです。私たち日本人の納税者意識、主権者意識はどうでしょうか。私には年貢を納めていたころの「お上意識」とほとんど変わらないような気がします。

 つまり今後は「行政のシビリアンコントロール」をしていかなければなりません。「シビリアンコントロール(文民統制)」の本来の意味は軍人ではない文民が軍事の最高指揮権を持つことです。これを行政にも当てはめて、私たち一般の有権者が政治家を通して行政をコントロールするという本来のあるべき姿にしていかなくては住民本位の行政の実現は難しいのではないでしょうか。そのためにも、私たちは積極的に政治に関心を持ち、関わる必要があります。

★中央依存脱却と真の地方自治

「自分たちの地域のお金の使い方、地域づくりについては自分たちで決める」これが地方自治の大原則です。ただ、現状では税財源が中央政府に偏っており、補助金漬けの地方自治体が多く、独自の政策はしにくくなっています。いわゆる「ハコモノ行政」「公共事業依存」になりがちです。それでも、ハコモノや社会資本を活かした地域ビジョンを持てればいいのですが、権限や税財源がない反面、中央政府の言いなりになってしまっているところが多いようです。

 ここで、先日ある町長さんに聞いたお話をご紹介します。「集会所をつくるときに『このレベルまでは町が負担するが、それ以上のものにするときは贅沢品とみなすので使用する住民が負担してほしい』という方針を出したところ、ある地区では15回も話し合いを持ちました。」私はこれが地方自治の真髄だと思います。「地方自治は民主主義を学ぶ小学校」(J・ブライス)と言われますが、まさに自分たちのお金をどう使っていくかを政治参加を通して決めるべきなのです。権限だけでなく、人材、税財源を地方自治体が持つということは、地方政治に対して今まで以上に地域住民の政治参加が求められ、責任も地域住民が持つということです。これまでのように中央政府に責任転嫁することはできなくなります。「自分たちの地域のことは自分たちで決める」ことで、無駄な税金の使用が減り、住民本位の政治・行政が行われ、特色を活かした、自立した地域がつくられると思います。

★地域への「誇り」と「自立」

 私たちは自分の住む地域に「誇り」を持てているでしょうか。私もそうですが、いわゆる「地方」に住む人たちは自分達の地域について「何もないんですよね」ということをつい口にしてしまいます。確かに、東京など都市部にあるものは少ないかもしれません。ただ、明治以降の欧米志向の経済発展の間に失ってしまった、日本の大事な伝統文化や自然、生活スタイルというものが、地方にこそたくさんあるのではないかと思います。現状は、中々解決できない過疎過密の問題、先行きの見えない地方経済と自治体のおかれた状況は極めて厳しいものがあります。ただ、地域の活性化のためには、そろそろ都市的な発想で「何もない」と考えてしまう日本全体の価値観を変え、日本の本来の良さを見直すべきなのでしょう。また、各地域においても大事なものが残っている自分達の郷土の良さを見直し、よく勉強し、誇りを持ち、情報発信していく、つまり「地域のアイデンティティー」を確立するが必要だと思います。ここから自立への第一歩が始まると私は考えます。

★自国への「誇り」

 私たちは自分の国に「誇り」を持てているでしょうか。日本は戦後の驚異的な発展により、経済大国になりました。それを支えたのは「自動車」「電器製品」をはじめとする科学技術です。それにもかかわらず、私は日本人が自信を持っていないような気がします。未だに、日本が「小さい島国」という意識が強いのではないでしょうか。GDP約500兆円(世界第二位)、人口約1億2500万人(世界第九位)の日本はどう考えても「大国」の一つです。アメリカや中国と間近に接していることも原因だと思いますが、私は日本人としてのアイデンティティーを見失っていることが大きいと思います。豊かな自然や変化のある四季に恵まれた美しい景観やそこから培われた歴史と伝統文化を持つ日本は地球上でも素晴らしい魅力を持っている国です。私たちは日本の歴史・伝統・文化をもっと見直し、守っていくべきではないでしょうか。日本が世界に誇る科学技術も最近の「アニメ」や「ゲーム」も日本の文化に根ざしたものです。自国への「アイデンティティー」から「誇り」が生まれるのだと思います。

★国際社会での役割

 日本はもっと尊敬される国になり、世界に貢献していくべきだと私は思います。現在の日本はなぜ国際社会からあまり尊敬されていないのでしょうか。私は日本が真の独立国家になっていないからだと思います。「独立国家」とは、自国の方針を自ら決める、その方針の説明をきちんとし責任を取る、自分の国家と国民の生命・財産は自ら護る、という当たり前のことをきちんとできる国のことです。これが「日米安保解消」「反アメリカ」という議論ではないことを念のために申し上げておきます。今の日本の外交では毅然とした態度が少ないですね。自らの意思をきちんと表明する国は、国際社会からも認められ、尊敬されると思います。地球環境の問題を抱え、貧富の格差や紛争の絶えない国際社会において日本の果たすべき役割は多いのです。

★まとめ

 早稲田大学の前身「東京専門学校」は「学問の独立」を掲げて1882年に創設されました。その開校式において創設者の一人・小野梓は「一国の独立は国民の独立に基いし、国民の独立はその精神の独立に根ざす。…」と述べました。

 私も「自立」した個人が増えることが最も重要なことだと考えています。「地域主権国家・日本」の実現はそのための手段です。「自立」とは「誇り」と「アイデンティティー」だと思うのです。現代を生きる私たち一人一人に自己の「誇り」と「アイデンティティー」は十分認識できているでしょうか。私は現在の日本の状況を見る限りまだまだ弱いのではないかと感じています。どうしても「周囲の目」を気にしてしまいがちで、「自分はこうだ」と言いにくい面があります。日本人は自己主張が弱いと言われますが、他を思いやるというのは日本人の良い面だとも思います。唯我独尊になることがよくないことは申すまでもないことです。個人がそれぞれに輝きを持ち、主権者としての責任と義務を果たせる環境をつくるために地域主権を実現したいと思います。自立した個人が増えることで構成される地域社会や自治体は「自立」したものになるはずです。そして、その集合体としての「地域主権国家・日本」は国際社会に向けても「自立」した国家として責任を果たせると考えています。

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福原慎太郎の論考

Thesis

Shintaro Fukuhara

福原慎太郎

第22期

福原 慎太郎

ふくはら・しんたろう

株式会社成基 志共育事業担当マネージャー

Mission

「地域主権国家・日本」の実現 ~人と地域が輝く「自治体経営」~

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