松下政経塾 The Matsushita Institute of
Goverment and Management

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塾生の紹介 研修活動

研修活動塾生による、現在までの研修活動を一部ご紹介いたします。

2021年 5月

研修活動3・4年目 教育と福祉の連携で子どもを守る

中山真珠/松下政経塾第40期生

 今年3月、北海道旭川でいじめにあったとみられる14歳の少女が、雪の中から遺体となって見つかるという痛ましい報道があった。深刻化する「いじめ自死問題」や児童虐待、子どもの貧困などの脅威から子どもたちを守るには、学校体制の現状を見直し、福祉や医療などとの連携を深めていく必要がある。本稿では、「学校プラットフォーム」などの考えに基づいて包括的支援体制の在り方について考えていきたい。
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 “旭川14歳女子凍死”―。そのあまりに穏やかでない言葉がSNS上で大きな波紋を呼んだのは今年4月のことである。『文春オンライン』が報じたのは、今年2月、旭川市で自殺をほのめかして自宅を出たまま行方がわからなくなった14歳の少女が、およそ1カ月後、雪の中から遺体として発見されたという痛ましい出来事。そして、その背景には彼女を死に追いやるまでの壮絶ないじめがあったという衝撃的な記事だった。[1] 親族や友人、いじめの加害者とされる生徒たちからの発言で明らかになった、想像を絶するほどの凄惨ないじめの内容に筆者は思わず目を覆いたくなった。
 こうした「いじめ自死問題」は、近年ますます深刻さを増している。文部科学省によると、2019年度のいじめの認知件数は61万2,496件で、5年連続で過去最多を更新し続けている。[2] さらに、このうち子どもが自殺するなどの「重大事態」の件数は、前年度から2割増加の723件にのぼった。校内での暴力行為は7万8,787件で、主に小学校で急増している。児童虐待などと同様に、いじめの問題が以前にもまして重大視されるようになり、教育現場が早期に介入するようになったという前向きな捉え方もできるかもしれない。しかしいずれにしても、子どもたちが心身に負った取り返しのつかない傷や失われた命は取り戻すことはできない。このような報道を見聞きするたび、それぞれの未来のために学び、ともに育つ場である学校でこのような惨事がおこっていること、未然に防ぐことができなかったという事実にひどく胸が痛む。
 このような悲劇を繰り返さないために、子どもたちが抱える様々なトラブル、課題を早期に発見し、未然に対処することのできる実効性のある仕組みづくりが急務である。そこで本稿では、前述の“旭川14歳少女凍死事件”の事例をみすえ、筆者が研究テーマとして取り組む「社会的包摂」[3] の観点から、いじめや貧困などの問題から子どもたちを守るために必要な対策、特に教育と福祉の連携に焦点を当てて考えていきたい。
 冒頭に挙げた記事を読みながら、インターネットという極めて対応の困難な閉鎖空間で起きるいじめの恐ろしさや、加害少年たちの罪の意識が薄いことなど様々なことを感じたが、中でも特に筆者が問題意識を抱いたのは学校側の対応や認識である。
 少女が中学に入学した直後から始まったいじめは次第に過激化していき、6月には精神的に追い詰められた少女に自殺を煽り、高さ4メートルもある土手から川へ飛び込ませるという、警察が出動する事件にまで発展した。この事件について、当時在籍していた中学校の校長は以下のように話している。[4]
 
”「(ウッペツ川に飛び込んだ事件について)お母さんの認識はイジメになっていると思いますが、事実は違う。爽彩さん(亡くなった少女)は小学校の頃、パニックになることがよくあったと小学校から引継ぎがあり、特別な配慮や指導していこうと話し合っていました。爽彩さんも学級委員になり、がんばろうとしていた。でも川へ落ちる2日前に爽彩さんがお母さんと電話で言い合いになり、怒って携帯を投げて、公園から出て行ってしまったことがありました。何かを訴えたくて、飛び出したのは自傷行為ですし、彼女の中には以前から死にたい気持ちっていうのがあったんだと思います。具体的なトラブルは分かりませんが、少なくとも子育てでは苦労してるんだなという認識でした。ただ、生徒たちが爽彩さんに対して、悪い行為をしたのも事実です。その点に関してはしっかり生徒に指導していました。我々は、長いスパンでないと彼女の問題は解決しないだろうから、お母さんに精神的なところをケアしなきゃない問題だって理解してもらって、医療機関などと連携しながら爽彩さんの立ち直りに繋げていけたらなと考えていました」”
 
 筆者はこの発言を読み、子どもや家庭と向き合う学校体制の在り方を考えなおす必要があると感じた。まず前提として、目の前に存在するいじめの可能性から焦点を外し、少女自身の問題として扱おうとする姿勢が、教育者として不適切ではないかということがある。常に子どもたちの利益と安全を最優先し、彼らの身に危険がないか注意深く確認するのが教育者としての務めであり、その義務を怠った責任は重い。
 だが何より、子ども支援や社会福祉を学ぶ身としては「以前から死にたい気持ちがあったのでは」、「子育てで苦労しているんだな」という家庭内の問題に対する対応が消極的であることにやるせなさを感じるのである。同様の発言は加害少年たちの保護者からも挙がっており、少女の家庭環境には問題があり、家出などを繰り返していた、少女が自殺を図った理由にはいじめ以外の要因もあったと主張している。その言い分を理解できるわけではないが、仮にそのような背景があったとすれば、なおさら放っておいてはいけなかったのではないだろうか。
 実際、教師という立場だけでは対処することのできない課題が学校で見つかることは少なくない。しかし、福祉や医療など適切な支援につなげるなど、その時に取る対応の如何で、子どもたちを危機から守ることができる可能性は飛躍的に上がる。例えば上記の少女の場合、仮に「以前から死にたい気持ちがあった」とすれば心理的なケアが必要だ。またいじめの後転校した先でもフラッシュバックなどに苦しみ、学校に通えなくなってしまっていた時、彼女の心の支えは家族やネットを通じて知り合った友人だったという。その時、もしもスクールソーシャルワーカーなどが関与し、継続的に家庭を訪問するなどの精神的、あるいは包括的なサポートをしていれば少女や母親の苦しみをわずかながらも和らげることができたのではないだろうか。
 また、被害者側だけではなく加害者側の子どもも支援を必要としている場合がある。問題行動を起こす子どもの背景には、発達上の課題や、家庭や生活環境等(虐待、両親の不和、経済的な困窮等)の問題が存在していることが多いと言われている。
 したがって、福祉や医療、警察などとの連携ができるネットワークを作り、伴走者として寄り添いながらスピード感を持って適切な支援につなげられる仕組みづくりが急務であると筆者は考える。
 では具体的にはどのような制度が考えられるだろうか。大阪府立大学の山野則子教授は、学校を基盤にした包括的支援体制として「学校プラットフォーム」という構想を提唱している。[5] 学校を重視する理由は、子どもや家庭にとって生活に密着した身近な存在であり、すべての子どもたちを把握することができるという性質にある。子どもたちの異変にいち早く気づくことができる学校が中心となり、様々な関係機関とこまやかに情報共有することでワンストップかつ伴走的な支援が可能になるのではないかという考えだ。
 「そんなことをすれば、ただでさえ多忙な教師の仕事がまた増えてしまうではないか」という反対意見もあるかもしれないが、これは誤解だ。学校プラットフォームはあくまで学校という機能を活用するための役割であり、教員がそれを運営するというわけではない。実践者の意見によると、むしろ教員の負担軽減につながっているという。
 筆者は昨年、実際に小学校配置型モデルとして教育と福祉の連携に取り組んでいる、大阪府泉大津市教育委員会の長谷川慶泰氏にお話を伺った。[6] 泉大津市では、小学校の跡地に「教育支援センター」という相談機関を常設しており、地域のボランティアの方による登下校時の声掛けや見守りのほか、支援を必要としている家庭に対するアウトリーチ(家庭訪問)を行っている。長谷川氏によると、行政などの関係機関とのネットワークが円滑に機能すれば、同じ内容を異なる機関や部署に問い合わせるといった手間が省略され、タイムラグを減らすことができるなどの効果を実感しているという。また、教員の負担という点に関しては、適切な役割分担によってむしろ業務外で抱え込む仕事を軽減することに繋がっているという。関係する部署などとネットワーク連携を進めてうちに、顔の見える関係として信頼が深まり、互いに協力がしやすくなったと長谷川氏は言う。また、地域内で声掛けやアウトリーチを行うことで、保護者や子どもに安心感を与えることができ、不登校や虐待などの重篤なケースに発展する前に未然に防ぐことができているように感じるそうだ。
 異変が起き、事態が深刻化する前に行政や民間、地域などと一体となって包括的な支援を行うこと、すなわち子どもや子育て世代にとって「社会的包摂」のある地域を実現することで子どもたちを危険から守ることができる。いじめや貧困などの脅威から子どもを守り、すべての子どもが笑顔で暮らすことのできる社会の実現に向けて、実効性のある制度づくり、体制づくりに引き続き励みたい。
 
【注】 
1. 文春オンライン「「娘の遺体は凍っていた」14歳少女がマイナス17℃の旭川で凍死 背景に上級生の凄惨イジメ《母親が涙の告白》」
https://bunshun.jp/articles/-/44765 (2021年4月19日アクセス)
2. 文部科学省(2020)「令和元年度 児童生徒の問題行動・不校等生徒指導上の諸課題に関する調査』
3. 社会的包摂:人と社会のつながりにおいて不利な立場に置かれる個人やグループを社会で支えるという考え。「社会的排除」(Social Exclusion)の対になる概念。
4. 文春オンライン「「イジメはなかった。彼女の中には以前から死にたいって気持ちがあったんだと思います」旭川14歳女子凍死 中学校長を直撃」https://bunshun.jp/articles/-/44869 (2021年4月22日アクセス)
5. 山野則子(2018)「学校プラットフォーム」有斐閣
6. 2020年8月8日訪間
研修活動3・4年目 「消費」しない観光地経営に挑む

小林祐太/松下政経塾第40期生

「消費」しない観光地経営に挑む[1] 「消費」しない観光地経営に挑む[1] 「消費」しない観光地経営に挑む[1]
神奈川県横須賀市に本社を置く株式会社トライアングル[1](以下:トライアングル)での研修をさせていただいて約3ヶ月が過ぎた。先のレポート(地域の可能性と新たな魅力を掘り起こす https://www.mskj.or.jp/report/3467.html )でも触れた、現在進行中のプロジェクトについて記す。
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1.無人島・猿島について
 
 トライアングルは神奈川県横須賀市において無人島・猿島への航路事業や、海上自衛隊とアメリカ海軍の艦船を間近で見ることのできるクルーズ「YOKOSUKA軍港めぐり」を中心の事業とする企業である。私はこの会社の営業企画部の一員として勤務し、研修をさせていただいている。
 今回記すプロジェクトの舞台となる猿島は2019年に約20万人の来島者を記録した横須賀観光の核となる場所である[2]。市内中心部からトライアングルの運航する船舶に乗り10分ほどで到着するというアクセスの良さに加え、東京湾における要塞が築かれた歴史を持っており、間近で兵舎や弾薬庫、レンガ積みのトンネルといったものを見ることができる点も特徴である。こうしたことから国の史跡や日本遺産に登録されており、人気映画『天空の城ラピュタ』の世界観が感じられるとインターネット上で話題になる[3]など若者からの人気も得ている。
 
2.「つづく みんなの猿島プロジェクト」
 
 しかし、こうして人気に火がつき来島者が急激に増えたことで、これまでの設備では間に合わなくなるという問題が生じてきた。ゴミ捨て場やトイレのキャパシティがその一例である。もちろん観光客の数が増えることは歓迎すべきことであるが、それと同時に起こるこうした問題を放置しておくと、管理運営の面でのコストが増加するというだけでなく、周辺の生態系変化や観光客の満足度の低下につながる。加えて猛威を振るう新型コロナウイルスによる影響もあり、多くの方がもう一度立ち止まって生活様式や環境について考え直すようになった。
 素晴らしい自然と資源を有するこの島で、どのように魅力を増しながらも豊かなまま次世代につないでいくのか。これまで多くの場所が行ってきたような開発を中心とする観光地を「消費する」行動から、その資源を活かして維持・持続・発展を実現する観光地経営へと考え方をシフトしていくことが求められるようになっているのではないだろうか。
 そしてこれは国連の設定したSDGs(持続可能な開発目標)にもつながっていく。こうした問題意識から、12の企業と団体が連携して猿島を世界に発信できる環境ショールームとする計画が始まった。それが「つづく みんなの猿島プロジェクト」[5]である。
このプロジェクトではSDGsの17個あるゴールそれぞれに「2030年の猿島のあるべき姿」を対応させている。たとえば、SDGsのゴール②「飢餓をゼロに」は「地域の一次産業を支える島」であり、ゴール③「すべての人に健康と福祉を」は「人びとの健康を守る島」である。[6]
 ゴミの分別を細分化させたエコステーションの建設や電動クルーザーの就航と無人運航、自然エネルギーの活用や食品ロスを出さないフードループの取り組み、環境にやさしいバーベキューなど多岐にわたる施策を2030年に向けて実現させる。そうして楽しみながら学び、それが観光につながるという循環を生み出していくことを目標としているものである。加盟団体や地元の方々と話し合いや未来へのアイデア出しを繰り返しながら、さらに夢を大きくしようとしていることも特筆したい。
 私は営業企画部の中でこのプロジェクトに携わらせていただいているが、これが決して単なる夢物語でないことを肌身で感じている。エコステーションの建設はクラウドファンディングによる資金調達も含め間もなく始まり[8]、無人運航の実証実験もスタートした。[9] こうしたワクワクは自分だけ、当事者だけが感じていても意味がない。周囲の方、まだ横須賀・猿島に来たことのない方に伝播させその良さが広まっていくよう、今後も研修、また個人の活動として取り組んでいきたい。

3.おわりに
 
 私は人口減少時代における横須賀という街の形として、特に観光の面からは内側(市民)の【再認識】と外側(観光客)の【新発見】を循環させる必要があると考えている。横須賀に暮らす人々には「ここはこんな楽しみ方ができるのか」「これはこんなおいしかったのか」というような体験をしてもらい、観光で来た方には「また来たい」「今度は家族・友人を連れていきたい」と感じてもらい、街のファンを増やしていく。先述したように、こうした流れを作り出すためには新たな開発だけではなく、地域の持つ資源の活用と掘り起こしによって魅力を高めていくことが必要不可欠である。
そのフィールドとして猿島は絶好の舞台であり、トライアングルでの学びは大きなものがある。お客様のお叱りも含めた反応が直に伝わり、猿島や地域を良くしたいと心から思っている人たちと最も近い場所で関われるのは現地現場で学んでいるからに他ならない。素晴らしい人たちに囲まれながら研鑽を積み、引き続きこの大きなチャレンジを続けていきたい。
 
【注】
1.【TRYANGLE WEB】YOKOSUKA軍港めぐり / 無人島・猿島 / ヨコスカBBQ のトライアングルより(https://www.tryangle-web.com/) 2021年5月24日最終アクセス
2. 猿島公園の年間入園者数が初めて20万人を達成しました(2019年3月19日)|横須賀市より(https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4130/nagekomi/20190319.html) 2021年5月24日最終アクセス
3. 東京から約1時間!無人島「猿島」がまるでラピュタの世界だと話題 | RETRIP[リトリップ]より(https://rtrp.jp/articles/47123/) 2021年5月24日最終アクセス
4. https://sarushima-eco.com/より 2021年5月24日最終アクセス
5. つづく みんなの猿島プロジェクト 2020→2030より(https://sarushima-eco.com/) 2021年5月24日最終アクセス
6. 猿島未来宣言2030より(https://sarushima-eco.com/assets/pdf/future.pdf) 2021年5月24日最終アクセス
7. つづく みんなの猿島プロジェクト 2020→2030より(https://sarushima-eco.com/) 2021年5月24日最終アクセス
8. https://camp-fire.jp/projects/view/398105 (建設のためのクラウドファンディングページ) より 2021年5月24日最終アクセス
9. 丸紅・三井E&S造船・横須賀市など、無人運航船の実証実験を実施: 日本経済新聞より(https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP535743_S0A610C2000000/) 2021年5月24日最終アクセス
 
(写真1)無人島・猿島の様子[4]
(写真2)「つづく みんなの猿島プロジェクト」未来図 [7] 2030年に猿島はこうなっていたい、という想いが表されている。
(写真3、4)プロジェクトに関わる事業者や地元の方が猿島に集まり、猿島の未来と夢を語り合う「猿島ミーティング」を開催。横須賀・三浦半島の素晴らしい食材を口にしながら参加者はアイデアを出し合い、出た意見や案はグラフィックレコーディングとして共有された。(いずれも2021年4月26日筆者撮影)


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