論考

Thesis

進展するミサイル防衛 ― 米国、ABM条約からの脱退を通告 ―

変化する米露関係

 昨年12月、ブッシュ政権はABM条約から脱退することをロシア側に通告した。同条約には6ヶ月前に脱退通告できる条項があり、同通告が事実上の条約からの脱退となる。これを米国の一方的条約破棄と捉え、軍縮体制崩壊や米露関係の変化を危惧する向きも有るが、本質的問題はそこにはない。

 確かに、ロシアは、米国の同条約脱退について軍縮体制崩壊を理由に強く反対してきたが、一方で昨年6月からは米露戦略新枠組みに関する協議を続けてきた。

 同条約は、MAD(相互確証破壊)体制が迎撃ミサイル開発によって崩壊することを防ぐために締結されたものだった。しかし、既にソ連は存在せず、ブッシュ大統領が指摘している通り、米露両国は、MAD関係からMAC(相互確証協力)関係に変化した。近年、USPACOM(米太平洋軍司令部)とロシア軍との交流も飛躍的に拡大し、数回に渡る高官レベルの交流から、実質的、定期的な実務レベルの協議へと移行していることからも、その関係の変化を窺い知ることが出来る。

 米露関係は米国同時多発テロ後、明らかに協調路線に移行した。テロ後、真っ先にブッシュ大統領に電話をしたのもプーチン大統領であった。その内容も米国が如何なる行動を展開したとしても、それに対してロシアが対抗措置を取るつもりはない、という今までは考えられないものであった。そして、アフガニスタンに於ける米国の軍事行動に対しても、ソ連時代に蓄積した情報の提供や米軍がウズベキスタンの軍基地を使用出来るように支援するなど実質的なサポートを行っている。

ABM条約脱退で広がる選択肢

 ミサイル防衛の本質的問題は、ミサイルやWMD(大量破壊兵器)の拡散であり、それらがもたらす米国と日本を含む同盟国への脅威である。そして、この問題への事実として、第一に冷戦の終焉とソビエトはもう存在しないということ、第二に、我々は、ミサイル攻撃から見を守るための防衛システムを有していないこと、そして、第三としてABM条約が、米国のミサイル防衛の開発、製造、配備に対して制限をしていたということである。加えて、この問題に対する仮定は、第一に、現状ではミサイル攻撃から国土・国民を守ることは100%出来ないであろうということ、第二に、ミサイルの拡散とWMDの拡散は、今後も引き続き進んで行くであろうということである。

 クリントン政権は、この問題への対処として、先ずABM条約を守ることを選択した。その結果、同条約のためにBoost段階や宇宙空間でのミサイル防衛に関しての開発、製造、配備に制限が掛けられた。ブッシュ政権は、当初からミサイル防衛を今後の外交・防衛政策の重要な柱として掲げ、この問題への対処としてABM条約から脱退すること決断した。これにより米国は、同条約の制限から開放され、Boost段階や宇宙空間でのミサイル防衛に関しての開発、製造、配備が可能になる。また、今月、国防総省の弾道ミサイル防衛局をミサイル防衛庁への格上げを行った。ブッシュ政権は、ここでもミサイル防衛を本格的に推進する決意を見せた。

日本にミサイル防衛は必要か

 果たして日本に、ミサイル防衛が要るだろうか。1998年、北朝鮮がテポドン1号を発射し、日本列島を横断し太平洋に着弾したのは記憶に新しい。それが事故だったのか、故意だったのか、議論の分かれるところであるが、それは重要ではない。真相がどうであれ、日本にミサイルが着弾する可能性、その脅威が今尚存在していると言うことが重要なのである。

 CIAが、今月「2015年までの外国のミサイル開発と弾道ミサイルの脅威」と題し発表した報告書の中でも、多段階式テポドン2号の発射実験の準備が整っている可能性を指摘している。また、1号の時のように2号の実験でも、恐らく、宇宙空間への発射形態で行われると言及している。2号の実験の際に事故が起きない、と誰が言い切れるだろうか。

 現在、日本でミサイル防衛を専門に扱っているのは、防衛庁の「防衛局防衛政策課弾道ミサイル防衛研究室」であるが、それを「弾道ミサイル防衛研究課」などに格上げし、日本も改めて決意を示し、積極的にミサイル防衛に取り組むべきではないか。課の増設に対してたいへん厳しい時代だからこそ、課などへの格上げは意思表示としては有効であろう。日本人の生命と財産を守るのは、米国ではなく、日本国の責務である。

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山本朋広の論考

Thesis

Tomohiro Yamamoto

山本朋広

第21期

山本 朋広

やまもと・ともひろ

衆議院議員/南関東ブロック比例(神奈川4区)/自民党

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外交、安保政策

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