論考

Thesis

10年前と、10年後

1992年と2001年の10大ニュース

 例年、年末になると「今年の10大ニュース」というものが出てくる。沖縄県内の報道に関して言うと、今年は沖縄が本土復帰して30年目にあたることもあり、マスコミでも関連した内容の報道が目につくようになった。琉球新報社が発表した、10年前(1992年)と今年の10大ニュースを通した考察をしたい。

1992年

 世界の10大ニュース
 (1)米大統領にクリントン氏当選(11月) (2)UNTAC始動ポルポト派抵抗 (3)米ロ首脳会談で大幅核削減合意(6月) (4)環境問題で地球サミット (5)米・EC農業交渉妥結 (6)ユーゴの内戦泥沼化 (7)中韓国交が樹立(9月) (8)ソマリアへ多国籍軍派遣(12月) (9)ロシア、混乱続く (10)欧州統合が難航

 日本の10大ニュース
 (1)佐川事件で政界に激震 (2)自衛隊をカンボジアに派遣(10月) (3)不況深刻化、大型景気対策発動(8月) (4)天皇、史上初の中国訪問(10月) (5)ロ大統領、直前に訪日中止(9月) (6)政府、コメ開放で最終決断へ (7)金融機関の不良債権が問題化 (8)エイズ感染者が倍増、対策に本腰 (9)暴力団対策法を施行 (10)自民党最大派閥の竹下派分裂

 1992年は東西冷戦が終了した後の、期待と混乱の時期の始まりだったといえる(現在もその状況が続いていると考えられるが)。アメリカではクリントン氏が若き新大統領として当選し新しい時代を印象づけたが、旧ソ連邦の崩壊が国際社会に大きなインパクトを与えていた。特に経済面での落ちこみが大きく、対外貿易は半減・対外債務も膨張・財政赤字は拡大という情況だった。旧ソ連邦に支えられたアジアの社会主義国は経済の開放路線を進め、日本への期待が寄せられていた。

 その日本はと言えば、バブル経済の崩壊で長期的な不況に突入していた。その景気低迷に対して、総合経済政策が取られた。8兆6000億円の公共投資が追加された。現在の小泉内閣の掲げる金融機関の不良債権が問題化してきたのがこの頃である。政治では佐川急便の献金問題で当時の金丸副総理が議員を辞職する不祥事が起こっている。

2001年

 世界の10大ニュース
(1)米中枢同時テロ (2)タリバン崩壊 (3)米で炭疽菌テロ (4)中東和平とん挫 (5)ブッシュ政権発足 (6)ITバブル崩壊 (7)中国WTO加盟 (8)京都議定書発効へ (9)北京五輪決定 (10)米ABM脱退へ

 日本の10大ニュース
(1)小泉内閣発足 (2)国内初の狂牛病 (3)失業率5%台 (4)池田小児童殺傷 (5)愛子さま誕生 (6)えひめ丸事故 (7)テロ特措法成立 (8)イチロー大活躍 (9)外務省不祥事 (10)ハンセン病勝訴

 世界ではもちろん、2001年9月の米国同時テロ関連のトピックがトップを占める。10年前から続いている、「新しい世界の枠組」にこの事件が与えた影響は決定的ともいえるだろう。その中で中国のWTO加盟と北京五輪開催決定は、中国が本格的にその存在感をみせてきたことの現れである。

 日本国内を見ると暗いニュースが目に付く。特に1992年に景気対策と不良債権の問題が挙げられていることを見ると、改めて日本はこの10年間何をやってきたのか、という思いを持ってしまう。狂牛病、池田小児童殺傷事件、外務省の不祥事は、日本社会が、口の開いた風船があちこちに飛びまわるような自制のきかない社会になっているとしか考えられない。この風船をほっておけばやがてぺしゃんこになって地面に落ちてしまうだけである。

 冷戦後の混乱が続く世界の中で、個々の国で問題を抱えながらも、定めた政治目標に進んできたのは、実はヨーロッパではないかと感じる。1992年、EUはECとして共通規格、公共市場の開放、労働者・自由業の資格認定、資本移動の自由化などの障壁を除去し、問題を抱えながらも着々と統合への道を進んでいた。今年の1月1日から新通貨ユーロが流通するようになったことでより実質的な統合に向かっている。2年前のオランダ・ベルギー、去年の北欧地域の訪問を通して感じたのは、EU統合の方向に向かっている社会であり、かつそこにおそらく浮ついていないであろう活気がある、ということだった。

 日本が、「社会をつくる」「国をつくる」自制心を失っている原因を解決しなければ、成長はおろか社会の維持すらできなくなる。社会も国家も「当然のごとく」あるいは「なんとなく」目の前に存在しているわけではない。結果と原因は確実にどこかに存在しているのである。フェローになってから、日本各地で地域振興やまちづくりに関する活動を行っているところを訪ね、話を伺う機会があったが、日本にも地域経済や福祉や環境など「これではいけない」と奮闘している人達がいる。だが、それがまだまだ日本の方向を決定づける大きな潮流にはなっていない。各地で本当に地道に活動しているのである。

 大きな政治的インパクトで社会を一気に変えるのか、ゆっくりと確実に変化させていくのか、どちらが良いのかはそれぞれの社会や地域によるので一般的な判断は私はしかねる。だが、どちらにしろ目の前の問題を片付けていく必要があるのは同じである。「せめて今年1年はいい年に」と目先を追うのではなく、50年後や100年後のための10年間、その10年後のための1年間となる活動をしていくことが一番の答えであると思う。

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喜友名智子の論考

Thesis

Tomoko Kiyuna

喜友名智子

第20期

喜友名 智子

きゆな・ともこ

沖縄県議会議員(那覇市・南部離島)/立憲民主党

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沖縄の自立・自治に関する研究

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